第11話 花粉が酷い
轟々と燃える
長い首の先に小さな頭。不釣り合いに大きな目とクチバシ。翼は有るが飛べない鳥。
僕は、この世界にもダチョウが存在するのだと思った。近くで観察すれば、よく似た別の何かかも知れないが。
「靴下君。攻撃中よ! よそ見禁止」
オハナさんが僕を咎める。
「僕の事、靴下って呼ぶんですね……」
「私達は今、合体して魂みたいに実体がないのよ? 名前で呼ばないと、誰が誰だか分からないでしょ?」
「いや、まあ、そうですけど」
いまいち納得がいかないが、取り敢えずは飲み込む。僕が何を見ているのかを、オハナさんは分かるのだ。どこまで感覚が共有されているのかは不明だが、馬鹿な事を考えていたら、筒抜けていそうで怖い。
「おや? 鼻がムズムズしますね。はっ、はっ、はくしょん!!」
先生がくしゃみをした。
「あれ? マジっすね。俺も何だか、はっ! はくしょん!」
今度は六股君だ。続いて、僕とオハナさんも――。
気が付けば、そっちでくしゃみ。こっちでもくしゃみ。巨人の体内では、至る所でくしゃみが起こり、騒々しいのが止まらない。短い距離でソナー音が反射しまくっているようだ。
巨人はたまらず、攻撃を止めてしまう。突然の異常事態は、巨人の外側でも起こり始めた。
「お、オイオイお前ら、どうしたんや!? 次や次! 攻撃止まっとるぞ? もうちょいやのに……。はぁぁぁくしょん!! て、こらボケっ!」
カティアのくしゃみが豪快に響き渡る。くすんだ桃色の髪が大きく跳ねると、併せて鎧もガチャガチャとうるさい。反っては縮むを繰り返して、笑いを誘うピエロのようだ。
「ああ、くそ! 目が痒い! 鼻水が止まらん! アカン、アカンぞぉ! これは
カティアが喚くと、突然空から塊が落ちてきた。ゴミが入った袋かと見間違うが、落ちてきたのは鳥だ。元はカラスのように黒い姿をしていた筈だが、砂場で遊んできたように身体中が真っ白だった。
「あ、アカン! こ、粉だらけや! はっくしょん!!
カティアがくしゃみをしながら、大声で嘆く。その間も僕らのくしゃみは止まらない。目も痒くて仕方がない。鏡を覗き込めば、涙を大量に流して無様を晒しているだろう。
かすれてしまった、先生の声が聞こえた。
「この症状は、まるで……、す、凄い強烈な……。へぶしっ!!」
花粉症。
体内の異物を外に出そうと反応し、鼻水や涙が止まらなくなるアレルギー症状。スギとかヒノキじゃないだろうけど、とにかく呼吸もままならない。
――これは攻撃を受けているのか!?
無性に肌触りの良いティッシュが恋しくなる。そういえば僕のママは、いつも市販の薬を、机の上に用意してくれていた――。この世界ではきっと、あんな薬は手に入らないぞ!
「はああっくしょん! ひぃ!」
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