BBアント
BBアント。
バレット・ブレード・アントと呼ぶ人もいる。
ブレード・バレット・アントと呼ぶ人もいる。
そこの話をし出すとちょっとした戦争になってしまうが――
「……どっち派?」
ジュウゾウはこのタイミングでも恐れることなく、隣に立つ白いリザードマンにそんなことを聞いてみた。
「ベイルはバレット・ブレード・アント派だな」
「ヤァ。喜べ、ベイル。俺達は仲良しだ」
取り敢えずベイルとジュウゾウはこの場で殴り合わなくても良さそうだった。いぇー、と強化外骨格を纏った手でハイタッチを一つ。
そんな風に戦闘に向けてテンションを上げる二人の前には多脚戦車、話題に上がっていたBBアントがあった。
足の数は六本だが、蟻と言うには節が一つ少なく頭と尻のみ。
それでも操縦席も兼ねる尻の横には『バレット』の名の由来となった二門の機関砲を備え、口の部分には『ブレード』の由来となる刃を握るウェポンアームを備え、遠近双方に対応できる上に癖の無い操縦性から愛用者が多いロングセラー商品だ。
最新型からは型が一つ程落ちているらしいが、それでもジュウゾウが界賊時代に乗っていたものよりも世代は新しい。操縦席の前に埋められた
だが大きな違いはそこまで。
前の持ち主のカスタムがあるかとも思ったが、意外にもプレーンだった。
「商品かな?」
機関銃、四門欲しかった……とベイルがペシペシ叩けば――
「かもな。まぁ、売る前に賊にパクられるよか俺等が乗ってやった方が良いだろ?」
そんなら俺は散弾砲に換装してぇ、とジュウゾウ。
「それもそうだね。……ジュウ、どうやる?」
「ンの前に……ポジション」
「ダンサー」
「ヤァ、マジかよ。そろそろ仲良しアピールはやめねぇか、ベ~イル? ……俺もダンサーだ」
ダンサー。前衛から中衛で機動力を武器に射撃を主体に牽制を入れながら削るポジションだ。
「……ま、それ程悪くねぇな」
「うん。スナイパー二枚とかだったら詰んでたとベイルは思うよ」
「……いや、この状況だと一枚でもスナイパーだと詰むだろ」
距離が取れる状況ならダンサー一枚、スナイパー一枚は理想的だが、この状況だと各個撃破で終わりだ。
だから配られたカードはそれ程悪くない。悪くは無いが――
「……」
「……」
ジュウゾウたちは黙る。
「ジュウ、周りに人は居ない」
「ケー……んならぶっちゃけトークのお時間だベーイル。搭乗時間」
「一年。ベイルは護衛は護衛でも白兵側だから」
「どうするベイルー? 俺達の仲良し度数が上がり続けてんぞー? 俺も白兵の方が得意だし、一年くらいしか乗ってねぇ」
つまり二人とも若葉マーク。
動かせる。戦闘も出来る。だが出来るだけ。それだけ。
「ジュウ。ベイルはそんなところまで合わせる必要は無いと思う」
「俺もそう思うよ……ヘィ、そろそろ止めようぜ? このまま仲良しになり続けると
「それは遠慮する」
「俺だって遠慮してぇよ」
「それで?」
「やることが時間稼ぎだし、俺達がどんだけ仲良しでも、さっきの今で連携もクソのねぇだろ? その上ゴールド免許でも若葉マーク付きだ。撃っても当たらねぇのを前提に只管動いて生き延びることだけ考える……でどうだ?」
「うん。ベイルもそれで良いと思う。それじゃ背中をよろしくね、ジュウ?」
サムズアップしながらベイル。
「おぅ、俺こそケツをよろしく頼むぜ?」
同じ様に親指を立ててジュウゾウが応じた。
反応速度の同期、キーワードによるショートカットの設定、レティクルと目の位置のズレの調整、体内のナノマシンと戦車のリンク、etc、etc……やることは幾らでもあるのに、やる時間は殆ど無い。
さっさと出ないと船が盗られる。そうなったらジュウゾウたちも捕まるか死ぬ。
だから出来る限り手早く、それでもミスが無い様に慎重にジュウゾウがヘッドセットのゴーグルに映る情報を見ながら、取り敢えずで動くのに支障が無い様に設定を弄っていると――
“むぃ!”
暇してる奴がなにやらやる気がありますアピールをしていた。
ゴンドウさんだ。
多脚戦車は
「……」
邪魔くさい。
手の平サイズのサルボボに出来ることなど何もない。でもほっとくと、むいむい、言い続けそうな気がする。「……」。呼ぶんじゃなかった。素直にそう思った。
仕方がないのでジュウゾウはコンソールに埋め込まれた魔導砲に繋がる水晶の上にゴンドウさんを座らせて「何かいいタイミングで撃ってくれ」と言っておいた。魔導砲は破壊系等の術師が使ってこそ価値がある。召喚系のジュウゾウには余り使い道がないのだ。
“むいっ!”
そんな雑な扱いでもゴンドウさんのやる気に影響はないらしい。張り切って水晶の上から正面モニターを見据えていた。
「――、」
少し、ジュウゾウの緊張がほぐれ……緊張? となる。「は、」と乾いた笑いを零して口角を歪める。らしくもない。所詮は界賊、ロクデナシの人でなし。死んだ方が良い様なクソッタレだ。そんな奴が命を惜しむなど笑い話にしかならない。負ければ死ぬ。そう言う世界で生きて来た。
『ベイル?』
『行けるよ』
『ケー……そんなら行こうぜ、これ以上待たせると連中、ケーキから食い出しそうだ』
『前菜も未だなのに、せっかちだね』
『そう言うこった。しっかりもてなしてやろうぜ? カウントスリーだ』
3、2、1――
『――エンター!』
ジュウゾウの声に合わせて二機のBBアントが貿易船の後部ハッチから砂の海に飛び出す。多脚が撓んで着地の衝撃を殺し、一度視界が沈み込んでから浮かび上がる。
BBアントの六本脚の先端、ボール形状のタイヤが砂を掻く。障害物が少ない。この広さなら歩く《ウォーク》よりも
「……」
敵、確認。
ジュウゾウは背中の機関砲を向けて引き金を引いた。雑な照準。当たる訳も無い。それでも万が一を警戒して重装甲が射線を塞ぐ。動きが止まった。
『ベイル!』
『うん』
意志の統率がされていない。
当然だろう。近い補給艦の存在が示す様に、ジュウゾウの予想は大当たり。戦車が出て来ること自体が相手にとっては異常。守備隊の皆様は初弾で全員死んでいるはずだったのだから。
練度では……多分、負けている。機体の性能差は無いか、好みにカスタムしてある分、向こうが上。
こっちが勝っているのは不意打ちの様になったこの状況だけだ。
だから相手が落ち着く前に更に次の選択肢を突き付ける。
ダンゴムシを襲うと見せかけて、襲わない。素通り。そうして嫌がらせのように補給艦に向けて射撃を開始する。足の遅いダンゴムシではどうしようもない。補給艦もそれほど早くない。だから残りのBBアント達の――二機が釣れた。
『ジュウ、右が良い。近い』
『応、こけさせる』
急反転。慣性Gで蹂躙される無茶な機動だがダンサーであるジュウゾウとベイルはその程度は乗りこなさないと話にならない。
脚を広げる。機体を下げる。銃弾を上部装甲で滑らせながら潜る様にジュウゾウはBBアントを操り、相手の脚、左側を狙ってタックル。「――っ!」。衝突、衝撃。視界が揺れる。それでもモニターから目を離さない。バランスを崩した相手の装甲に自分の装甲を削らせながらジュウゾウが横に抜ける。
『
『
『それもそうだね』
崩れたバランス。下がった体高。晒された死に体。若葉マークであっても戦車乗りである以上、そこを逃がす気は無い。ベイルのBBアントが踏みつけ、押さえつけ、至近距離の機銃掃射で装甲を削りながら前腕のブレードで操縦席を貫いた。引き抜く。血。
ジュウゾウはソレを見ない。見ないで釣れなかった一機に迫る。
断末魔が通信に乗ったのだろう。貿易船を追う動きを見せていたはずのソイツは一瞬止まっていた。それで十分。戦場で道を変えるには十二分。二門の機関砲を撃ち尽くす。「弾倉交換」。キーワードでサブアームが背部ラックから呼び弾倉を取り出し、装弾する中、跳ね回り煽る。
「――あ、クソ」
通信に乗せずに悪態を一つ。左の装弾を失敗した。跳ねたのが拙かったのか、腕か、銃、どちらかがズレていたのかは分からないが、ド、と重い音を立てて弾倉が一つ地面に落ちた。「……」。思考。一秒。それでジュウゾウは結論を出した。良い。装弾は諦める。どうせ当たんねぇ。それよりも動け。動け。動け。動いて引き付けて掻き混ぜろ。
「は、」
と乾いた笑いが漏れる。引き攣った様に口角が歪む。瞳孔が開く。コンセントレイト。弾丸が、見える。駆けながらBBアントの足捌きだけで高さを変え、横にズレ、跳ねてそれらを躱して
銃声。一発。それで相手のコクピットにどデカい孔が開く。ジュウゾウは撃っていない。それでも弾丸はジュウゾウのBBアントから出ていた。つまり――
“――むいっ!”
魔力使った結果、ちょっと消えかけてるゴンドウさんがドヤっていた。
あとがき
むいっ!
BBアント問題は「きのこたけのこ戦争」くらいの火種です。
気にする人は気にするけど、気にしない人は気にしない。そんな感じ。
椅子が壊れて書けねぇー。
椅子に文句を言おうと思ったら十五年以上使ってることに気が付いて慈しみの心が湧き出た。いままでありがとう。
そんな訳で次は土曜じゃなくて日曜(予定)です。
まぁ、週に三回更新くらいで行こうと思ってたから予定通りではあるのです。
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