シンパシー

「……随分と変わった使い方だね?」

「お上品過ぎてそう・・見えねぇかもしれねぇがこれでも陸戦隊の出でね。召喚使って近距離で確実に殺す為に考えた結果だよ」


 年長者や戦闘経験がありそうな方々がパニックになりそうな奴隷たちを廊下に並ばせるのを座ったまま見ながらジュウゾウが言う。

 我流の上にコンディション最悪での召喚はかなりの体力を奪っていた。

 正直横になって寝たい。だがこれからのことを考えると未だ起きていないといけない。

 魔術師メイガスはそこそこ珍しい。戦闘に使えるレベルとなると猶更だ。敵に襲撃されていると言うこの状況、上手く使えばジュウゾウは自由を手に入れることが出来る。


「ジュウ」

「あ?」

「ベイルも魔術師メイガスだ」

「……だろうな。系統は?」

感応テレパス。今の所使えるのは同調シンパシーだけだよ」

「……交渉に使える奴だな」

「うん。そうなんだ」


 一息。ベイルが息を吸うのが分かった。


「この船にはベイルの仲間――ホワイトスケイル氏族の仲間が何人かいる」

「そうかい」

「ベイルは彼等を助けたい」

「奴隷から?」

「いや、この状況でそこまでは望まない。……それで、ジュウゾウは逃げたいでしょ?」

「……あぁ、そうかい。つまり――俺達は仲良く出来そう、っーわけだ?」

「そう言うこと。ジュウゾウは戦車の運転は?」

「ヤァ、聞いてビビんなよ? ――なんとゴールド免許だ」


 右手の甲。戦車とのリンクの為に生体型神経系ナノマシンを埋めたことを示す紋様を見せながらジュウゾウ。

 事故は起こしまくっているが、その違反で捕まっていない。今回の件は別件逮捕だ、とジュウゾウ。


「奇遇だね、ベイルもだよ」


 リザードマンの笑顔。声なく目を細めるソレを浮かべ、同じ様に手の甲を見せるベイル。


「……」

「……」


 見つめ合い、く、と互いに音を出してベイルとジュウゾウは笑い合った。

 と、その時だ。周りが騒がしくなった。見ればARを抱えた連中が奴隷に怒鳴っている。本当はそれ所では無いだろうに、ご苦労様だ。

 だが彼等こそジュウゾウが待っていた相手だった。


「ケー……タイミング良く陸戦隊の皆様のご到着だ。交渉は俺が前でるから――」

「うん。ベイルは同調シンパシーに集中する。でもレジストは考慮しておいてね?」







 時代が変わっても場所が変わっても通じる万能ジェスチャー。

 両手を上に挙げて……降参です。


「ヘィ、アンタが隊長さん?」


 それを取りながらもどこか軽く、余裕のある雰囲気を匂わせながらジュウゾウが五人来た陸戦隊の隊長と思われる人間の男に声を掛ける。


「そうだが……何だ、お前は?」


 不審と嫌悪、そして警戒。狙い通りにその感情を引き受けたジュウゾウの陰に隠れる様にしていたベイルと隊長の目が合う。三秒。それで同調シンパシーが発動。確認したベイルは目を閉じた。己の中に潜る。己の願いを確認する。『同朋を助けたい』。心の中で文字にして想いを強めた。三分。それだけの間だがこれで隊長の思考をそっち・・・に傾けられる。「……」。ジュウゾウの背に触れ、術の発動に成功したことを伝える。


「ケー……そんじゃ自己紹介と行っとこうか。見ての通りアンタ等の商品で、この扉をぶち破ったワンパクさんだ」

「……魔術師メイガスか?」

「そう言うこった。……で、実戦経験者として現状が知りてぇ。俺だって死にたくねぇからな。手が貸せるなら貸すぜ?」

「はっ、お前何ぞに頼る訳が――」

「護衛のフリゲート艦はどうした? 墜ちたか? はぐれたか? 裏切ったか?」


 何でも無い様に現状を言い当てたジュウゾウの言葉に隊長の表情が変わる。


「……続けろ」

「砲弾の種類が落とす為のモンじゃねぇ。あんま壊さずに孔をあける種類のモンだ。アイツ等、コンテナ一つ二つじゃなくて船ごと盗る気だろ? 砲台は後何個残ってる? 戦車が出てねぇんならもってあと十分。それで相手の陸戦隊が来る・・ぜ? パーティの用意は? クッキーは? ジャム手榴弾も要るだろ? 用意してねぇんなら大変だ」

「詳しいな」

「まあな。やってた・・・・側だ」


 だからこの後、どう言う風に楽しくなるのかも説明できるぜ? とジュウゾウ。

 そんなジュウゾウの言葉を受けて、体調は目頭を軽くもむ。揉んでから天井を見上げる。三秒。それで大きく溜息を吐き出して結論を出した。


「フリゲート艦は、はぐれた。ジャマーの類だと分析している」

「ケー。そんなら……まだ落ちて無いことと合わせて考えりゃ相手も少数だな」


 未だ救いがある、とジュウゾウ。

 ジャマーを使っての襲撃は規模の小さな賊が良くやる手だ。

 上手く分断出来れば護衛の無い貿易船だけが目の前に現れるし、失敗したら手を出さなければ良い。そう言う風に襲うか、襲わないかを選びやすいからだ。


「……本当にそっち側・・・・なんだな」

「まぁな。護衛部隊は? こっちから戦車が出てねぇのはどうしてだ?」

「連中、随分と日頃の行いが良いらしくてな……初弾で待機室が吹き飛んだ」

「……いや。全員そこに居たわけじゃねぇだろ?」


 初弾が致命傷。そう言うことが無い訳ではない。だから護衛隊などは見回りなどを入れることで全員が一ヵ所に集まらない様にしているはずだ。


「……言っただろ? 連中は日頃の行い・・・・・が良いんだよ」

「あぁ、そう言うことで……」


 余りに日頃の勤務態度が宜しいので正真正銘一発で全滅。そう言うことらしい。「……」。あぁ、つまり・・・、そう言うことか、と内心で頷く。ジュウゾウはカードをもう一枚手に入れた。


「ヤァ、悲しいね。同情するぜ? ……だが、そんなアンタにも良いニュースだ。ここに二人、戦車乗りが居る」


 施術済みの証、手の甲の紋様を見せながらジュウゾウ。


「……逃げない保証は?」

「ねぇよ。つーか逃げるに決まってんだろ?」

「話にならん」

「だが、アンタ等は助かる。……選ぶ時間だぜボス。奴隷二人逃がして、全員が助かるか、全員死ぬかの二択だ」

「……どうにか、できるのか? そもそも直ぐに逃げないと言う保証は――」

「相手にゃ俺等が奴隷だなんて分かんねぇ。出て来た護衛と思われるから攻撃をされる。時間が稼げる。その間に離れて亜空間レーンに潜るなりすりゃ良い。出て来たばっかだ。まだ近くにあんだろ? それに――」


 ――ここ・・、一枚目。


「俺は兎も角、コイツは仲間を死なせない・・・・・為に出るんだ。どう言う最後・・になるかは分かんねぇけどよ、最後・・までやるぜ?」


 噓は脆いが、真実は硬い。


 同調シンパシーにより、ベイルの感情をうっすらと感じている隊長にはその言葉が嘘ではないと分かってしまう。


「……それならソイツだけで良い、となるぞ?」

「二機出すのに意味がある。それだけで生存力が上がる。それはアンタも分かるし、俺にも分かる・・・・・・ことだ。単独で逃げたら各個撃破二回で終わりだ。生き残る為に俺もコイツに付き合わねぇと行けねぇだろ?」

「……」

「そんなに速攻で逃げンのが心配なら足が遅い機体で良いぜ? その方がこっちとしてもこの状況だと有り難い位だからな」

「本当に二機でどうにかなるのか?」

「リザードマンのパイロット適性の高さは知ってんだろ? そのリザードマンの中で護衛をやる奴だ。腕は良い。俺も――」


 言いながら、襟元を引っ張って右胸を見せる。そこには『1113』の数字とバーコード。


戦闘遊牧民ノマドの出だ。弄ってある分、ナマの連中よか良い仕事はするぜ?」

「……BBアントを二機くれてやる」

「ヤァ。良いね。良い調子だ。ついでに食料と水も分けてくれや」

「ふざけるな!」


 激昂する隊長。感情の振れ幅がデカい。ベイルに背を叩かれる。「……」。同調シンパシーから外れたらしい。それでもジュウゾウは表情を変えない。変えずに続ける。

 二枚目を使うのはここ・・だ。


「代わりに情報をやるよ」

「は? 情報、だと?」

「あぁ、この船、裏切りモンが居るぜ」


 言いながら壁際の全体図に近づく。


「ヤァ、よいこの皆がお待ちかねの楽しい楽しい塗り絵の時間だ。クレヨンでも用意して撃たれてる場所をマーキングしてみろ。絶対にどう間違っても当たらない場所があるし、そこにはこの船が落ちて得する奴が居るぜ?」

「……何故わかる?」

「初弾で護衛部隊が全滅したからだよ」


 初弾が致命傷は……まぁ、稀にある。それは戦場の理不尽だ。それでも初弾、一番狙いが付けられるはずのソレが都合良くいつもサボっている守備隊の詰め所にと言うのなら……それは奇跡でも何でも無い。手品だ。そして手品には種と仕掛けがあるものだ。


「……三日分、くれてやる」


 思い当たる節でもあるのか、重い言葉で隊長。


「ヤァ、良いね。良いぜ、アンタ。やる気が出て来たよ。もう一声鳴いてみねぇ?」

「……他に何が欲しい?」

界図かいず。アンタ等と同じ街には行きたくねぇからな」


 同じ街に着いたらアンタ、回収するだろ? とジュウゾウ。


「……こっちがレーンに入る直前に送ってやる」

「ケー。そんなら俺等も死ぬまで頑張れそうだ」


 ほい、そんじゃよろしく、とジュウゾウが手を出すと嫌そうに、それでも手枷が外された。









あとがき

・ベイル・ホワイトスケイル


《生まれ》

 あなたは砂の宇宙を行く貨物船の中で生まれた。

 産まれてから死ぬまでを船の中で過ごすことも珍しくない半商半戦士の一族に生まれたあなたにとって砂の宇宙こそが帰るべき家だ。

 『あなたは魔力汚染区域内でも魔法の行使に影響を受けない』


《幼少期》

 あなたは商船に産まれた子供の例に漏れずフリゲート艦への奉公に出された。

 貨物船を拠点に、そこから街へと散らばるフリゲート艦の役割は様々だ。

 あなたは『貿易船』に搭乗することになった。

 あなたはそこで商売のイロハを学んだ。

 『あなたは”商人流の交渉術”に長けている』


《少年期・1》

 大人達があなたの将来について話している。

 あなたには商人としての才能はないらしい。

 あなたは『貿易船』から『護衛艦』へと移ることになった。

 あなたはそこで人を守り、船を守り、商品を守る戦い方を学んだ。

 『あなたは銃火器の扱いに長けている』

 『あなたは守るべきモノに対する嗅覚が優れている』


《少年期・2》

 氏族の習いで成人を迎えた頃にはあなたは年長者に混じって護衛小隊の隊長を任されることが増えていた。

 優秀なあなたに彼等は更なる期待を持ち、力を与えることにした。

 あなたに戦車が与えられた。

 ようこそ砂の宇宙へ! 我々は新しい戦士を歓迎します。

 有機ナノマシン投与により刻印が刻まれました。

 『あなたは戦車乗りの資格を獲得している』


《Talent》

『感応C』

 あなたには優秀な感応魔法の才能がある。

 是非仕事を選ぶ際の参考にするべきだ。

 才能とは神より賜ったギフトなのだから。


『ホワイトスケイル』

 父祖が砂の宇宙で一生を暮らさなければならなくなった呪いにして誇り。

 あなた達の白銀の鱗には――

 『感応』『付与』の魔法を増加する効果と、

 『幻惑』『変性』『破壊』に対する抵抗力があります。

 


《Bad Talent》

『モテない』

 あなたは生まれる種族を間違えた。

 あなたは商人としての基礎を持って居る。

 あなたは戦士として優秀だ。

 そしてあなたの声は素晴らしい。

 それでもあなたのリズム感は死んでいる。

 リザードマンの求婚が唄である以上、これは致命的だ。

 どうか泣かないで欲しい。

 泣きたいのは君のダンスの相手を勤めることになったあの娘の方なのだから。






 火曜更新と言ったな。

 アレは嘘だ。

 明日、先輩とちょっと遠くのラーメンを食いに行くことになったからだ。味噌ラーメンだ。コーンとバターをトッピングするんだ。

 取り敢えず次の更新は木曜日(予定)だ。

 まだ一話なのにブクマやら評価やらコメントをくれる方々がいて非常に嬉しいです!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る