怒
ジリリリリリリリとけたたましい音を黒電話が放った。
私はまったりと携帯ゲーム機 とびだせ 海賊の島 でスローライフにあけくれている最中だったからそれをスリープモードにした。
「電話だよ。談話だよ」
アンラッキーさんが机に飛び乗って黒電話をぺしぺしと叩いた。わかってるよ。とおもいながらも、外付けのナンバーディスプレイを確認した。
この番号は。と思ったときには遅かった。
ポコピコポンピコポンペンと、何連打したのかわからないほどにインターホンがなる。黒電話の直ぐ上に繋がっている来客ランプがテカテカと光った。
もう家の前まで来ているのだろう。
無視してやろうかとも思ったけど、嫌な気持ちが増すばかりだったので早々にお引き取りしてもらおうとおもいインターホンの通話ボタンを押した。
「はい」
「やぁ。ぼくだよ」
相手はドレインさんだった。やっぱりか。と胸の中で悪態をつく。たまにやってくるのだ。これでもこの町の顔役らしい。
「元気だったー? あのさー。お金貸して。ちょっと今月厳しくて」
取り立て屋さんか何かかと思った時期もあるけど、やっぱりそういう類の何かかもしれない。
正直、理解に苦しむ。
「27DEMU、いや、88DEMUでいいからさ」
貸すともなんとも言っていないのに金額を提示してくる。なんなんだ。そもそもそんな大金を持て余しているわけなどないというのに。
「お断りします」
短く言った。自分でも驚くほど低い声だった。
「いや、そう言わずにさ。ほら、ちょっとだけだから」
鍵がかかっている扉のノブをガチャガチャと動かしている。
ふつふつと頭の中がゆだっているのがわかる。自分でも異質だと感じる気のようなものが吹き出している。相手の顔に拳をぶつける妄想が、頭の中を何度も全力疾走する。
私は黒電話を操作して、1のダイヤルを二度回した。カラカラカラと小気味いい音が鳴る。
「ベアーに連絡してもいいですよね」
「しけてるねー。お縄はごめんだから、今日は帰るよ」
二度と来るな! といますぐ叫び散らしたい気分をぐっと堪え、通話終了ボタンを押した。
ついでに黒電話を操作して0のダイヤルを回す。1コールで繋がった。
「ベアー? ××町のドレインさんがゴニョゴニョ」
「なるほど。全部理解した。爪による刺突の刑に処すこととする」
ベアーから一方的にガチャリと電話が切られた。うまく対処してもらえることを祈ろう。
たった数分のできごとなのに、なんだかとても疲れた気がする。
知らぬ間に手は拳をかたく握っていた。
呼吸も浅く、視界はとても狭くなっている気がする。
一度大きく深呼吸した。
ソファーに横になってしまおうとおもったとき、部屋の隅でアンラッキーさんが小さくなっていたのが目に入った。
「ごめんよ」
私は戸棚からちょっといいおやつを皿に出して床に置いた。食べて機嫌をなおしてくれるといいけれど。
戸棚をあけたついでだ。私も食べよう。ちょっといいおやつ。
お茶屋さんから仕入れたしばいぬぜんざいの封を切って、お椀に盛って、おはしを用意して、いただきます。
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