第百五十五話 幕府直轄軍の新たな戦力

 幕府直轄軍の配置について軍議を重ねる。

 銃兵隊は佐柿城に、歩兵隊と騎兵隊は城外で遊撃任務に就くことはすんなり決まった。


 残る部隊の使い方。ここが決めきれず、皆の意見を求めることにした。


「歩兵隊に含まれている弓部隊はどうか?」

「二百名ほどが配置されております。彼らは歩兵隊としても動けます」


 今のところ、弓兵隊ではなく、弓部隊。

 まだ歩兵隊から独立させるほどではないレベルのためにそう呼称されている。


「指揮官は山内一豊さんだったね。能力や練度はどうなの?」

「農兵以上、武士未満といったところでしょうか」


「元々、歩兵隊の適性が低い人たちで作ってもらった部隊だもんね。どっちでも戦えるけど、どっちもそれなりってところか。城内に配しても良いし、外での戦いに使っても良いか……」

「左様にございます。我ら幕府直轄軍がどのように、どの程度戦うかによって配置が変わると思われます」


 どの程度戦うのか……。気持ちとしては全力でと言いたいが、防衛施設の少ない関峠で迎撃戦となれば兵の損耗が激しくなるだろう。

 佐柿城であれば、現在進行形で防衛機能の向上を図っているし、山城なため高所からの優位性も活きる。


 峠でぶつかり合うよりも損害は少ないだろう。人数の割合から主力となっている若狭兵も城に拠って戦う方が敵との練度の差が出にくいはずだ。守りは若狭兵に任せて幕府直轄軍が相手にダメージを与えれば良い。これこそ適材適所だよな。


「関峠では防ぎきるのは厳しいと思う。となると、佐柿城の攻防戦が主となる。時間をかけずに追い返すとなると、しっかり損害を与える必要があるな」

「損害には二種類ありまする。将を討つか兵を討つか。どちらも敵に損害を与え、軍の維持を難しくさせます」


「松永さんにやられた戦法でいこうか。城に攻めかかっている最中に本陣を奇襲。敵将の首を狙う」

「彼我の戦力差を考えるとそれが宜しいかと。敵の総大将は印牧能信かねまきよしのぶ。越前国南条郡を領する者」


「印牧……。どういう武将だ?」

「忠義心厚く、戦慣れしておるようです。南条郡は若狭国寄りにあるため、越前国西部の国人衆旗頭として任命されたようです」


「簡単に引き下がる人物ではなさそうだな。しかし、朝倉一門が来ていないとなると、そこまで本腰でもないのか?」

「兵数からしてもその可能性は高いかと」


「となれば、一向宗の蜂起によって浮足立つ可能性もある。印牧に情報が届くまで時間がかかるだろうし、早めに動いてもらうのが吉だな」

「忍者営業部の者には、それとなく噂を流させておきます。一乗谷からの連絡があった際に信憑性が出るでしょう。それ以外は後方撹乱などの妨害工作をさせます」


「下拵えはそんなところか。あとはこちらがどう仕掛けるかだ。以前、如意ヶ嶽に攻め込んだ幕府軍を奇襲した松永さんの策は、思わず城を攻めかけたくなるように仕向け、前がかりにさせた。そして本陣との距離を生じさせて一気に本陣を急襲する形だったな」

「あの時は城の守りが寡兵に装っておりましたな。焦っていた幕府軍は疑うことなく前のめりに攻めかかっておりました」


「今回は作業もあって佐柿城に多くの兵がいるのはバレるだろう。そのまま流用するのは難しそうだ」

「であれば、私から一案。今回は反撃の手を緩めて、必死の防戦という様子を装います。あと少しで落ちる。そう思わせて総掛かりを引き出しましょう。総掛かりとならずとも、投入する兵は多くなるでしょう」


「手を緩めるか。気取られないか?」

「若狭国は近年戦から離れております。弱兵と侮られておりましょう。経験豊富な粟屋勝久もいないとなれば、将はともかく兵は油断しておるはずです」


「若狭国は石高も低いし、当主の性格も大人しい方だしなぁ。強国として恐れられるってのは無理あるか。平和といえば平和なんだろうけど、どっちが良いのやら」

「当主の性格で国の強弱が変わらぬよう臣下がお支えすれば良いのです」

「細川様の言はごもっとも。代々好戦的な当主では臣下が疲れてしまいます。文治派であろうと武断派だろうと様々な家臣がおればお家安泰ですぞ」


「そういう理屈で言えば、ここにいる皆は出自も様々、性格も様々で安心だな」

「如何にも! ですから上様はご安心して采配を御振るい下さいませ」


 そこに持っていきたかったんだね、滝川さん。自分では結構落ち着いていると思っていたけど、まだ緊張しているみたいだ。


「わかった。手薄にした本陣を真っすぐ狙うのも芸がない。弓部隊に側面から射掛けさせて、その反対から歩兵隊が突き入れよう」

「かしこまりました。配置は某にお任せくだされ」


「惟政に任せよう。具体的にどう配置する」

「それは、こちらの絵図面で。佐柿城のある山は山脈の北端に位置します。その裾野は北東方面に海岸線まで細長くせり出し、街道を狭めており、東部は城に取り付きやすい平地が広がっております。北側から攻めようと細い海岸線を進むと奇襲の格好の的。まともな武将ならここは避けるはず」


 和田さんがここまでの説明で問題ないか皆を見回す。

 状況確認の意味合いもあるので、誰も意見を口にする者はいなかった。


「となれば、平地に陣を敷く可能性が高いかと。もし腰を据えて佐柿城を攻めるようなら、ここ。東側の小高い丘に本陣を構えるでしょう。若狭国に対する評価で本陣の位置が変わると思われます」

「若狭国を下に見ているようなら、平地に陣を敷いてそのまま攻城戦。念入りに準備をするなら少し離れた丘に本陣を構えて、万が一に備えるか」


「相手の性格を知らぬ以上、どちらでも対処できるようにせねばなりませんね」

「それが肝要かと。先ほどの北東にせり出した裾野に歩兵隊を、小高い丘の南側の山に弓部隊を配せば、海岸線を突破しようとしても、そのまま奇襲部隊として歩兵隊を使えます」

「多少距離はありますが、手薄になった本陣を襲うのならば何とかなりそうです」


「ああ、移動中の敵を奇襲するなら距離は大事だが、今回は攻城戦に意識を向けさせて、その間に忍び寄ることが出来る。それならば多少距離を取ることも問題ないはずだ。あとは近づく時に発見されないようにしないと」

「問題となるのは丘に本陣を置かれた場合ですな。弓部隊は平地が狭いので何とでもなりましょうが、歩兵部隊は平地を横断することになります。少しでも発見を遅らせるために忍者営業部の者に物見を始末させれば良いかと。敵本陣から目視されるまで、いくらか時を稼げるはず」


「危険な任務になっちゃうかな」

「腕利きを用いれば問題ないかと。その際には猿飛弥助をお借りしますぞ」


「あいつなら大丈夫だって思えるのが不思議だよ。今は……いないか」

「いつものように周辺を警戒しているのでしょう。後で声をかけておきます」


「これで軍議は終わりで良いな。やれることを精一杯やって敵を待とう。敵将の印牧能信かねまきよしのぶが平地に陣を敷いてくれれば儲けものだな」


 誰もが同意といった表情を浮かべながらも、楽観視しないよう厳しい姿勢を崩さなかった。


―――――――――

近況ノートに地図をアップしました。

https://kakuyomu.jp/users/rikouki/news/16817330663127750530

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