【王】予想外
第百十八話 どこにいてもやることは変わらない
信虎さんとの面談を終えた後、白湯と茶菓子を貰い、休憩していた時のこと。
いつものように気楽に話せる人となると、和田さんと藤孝くんくらいしかいないのだが、最近はもう一人加わっている。
「いや~、濃かった。そして疲れた」
「癖のある御仁でしたね」
「そうですか? 私は親近感を覚えましたが」
「一国の守護ともなる御方は、ああいう手合いが多いのでしょうな」
「それは変人が多いということか?」
「変人と申しては語弊がありますな。常人ではないという程度かと」
「はっはっは。和田殿、それはあまり変わっておりませんぞ?」
「左様か。しかし、そうでも言わねば、上様や三好殿も変人となろう」
「それもそうですが、殿も変人に間違いないので問題ないでしょう。上様も変わった御方とお見受けしますが」
「松永殿! お言葉が過ぎます!」
「儂も変わっているか。普通が良いのだがなぁ」
「普通の将軍など、どこにおります? 古今東西、変わり者が世を作るのですよ」
「変わり者が世を作るか。儂としては誰が作っても良いが、平和な世になれば良いのだがな」
「ほら、変わっているではありませんか。誰が世を作っても良いなど、歴代の為政者が驚きますぞ?」
「そう言われるとな。儂は私欲を排して世の平和のために働く者こそ、為政者にふさわしいと思うよ」
「そもそも、つまらん奴が好き勝手するから、つまらん世になるのです。世の中面白いことが溢れておるのに、一つのことに固執して周りを見ようとしません。土地を取った取られた、水源はどっちの村の物だなどと争いごとばかり」
「それを治めるためにも幕府に力を持たせようと思っている。先に伝えた為政者にふさわしい将軍になろうともな」
「そんなことを私に言っても良いので?」
「良い。隠すようなことでもないし、長慶にも伝えておる」
「殿に面と向かってそのようなことを。やはり上様も変わったお人だ」
「それはお主もな。松永よ。今日は政務を終える。下がって良い」
ではこれにて、と作法の教科書のような挨拶をして下がっていった。
松永さんは当たり前のように朽木谷メンバーに交じって話をするようになっている。
何と言うか味のある不思議な人だ。あからさまなスパイの松永さんに、皆も警戒していたが、時が経つと先ほどの様に雑談に混ざる関係となっていた。
そうは言っても、これから話す内容は三好家に知られたくないので下がらせたんだけどね。
「大丈夫か?」
最近お決まりの質問を和田さんに投げかける。
すると、おもむろに床をコツンと叩く。すぐにコンコンと床下から合図が返ってくる。
これが人払い完了の合図。忍びの人たちが人払いの結界が出来た合図なのである。
三好家の勢力圏で暮らすようになってから、必須となった作業。
これを終えてから和田さんが話し始める。
「まず服部殿からの報告を。尾張国に豊臣秀吉もしくは秀吉と名乗る武士はいなかったとのこと。代わりに戦で当主を失い、一家離散し困窮していた武士を拾ったようです。実家のある三河国では、どこも結束が固く引き抜きは難しいとのことでした。尾張国で拾った武士とともに、清家の里に向かっているそうです」
豊臣秀吉見つけられなかったか。名前をちゃんと覚えていないし仕方ないよな。
残念だけど、別の武士を見つけたようだし、良しとするか。
「拾った武士ってなんて人なの?」
「山内一豊と申す小身の武士だそうで。温和で口数は少ないながらも、人柄の良い男だとか」
山内さん。知らんなぁ。SLGゲームで見かけたかな?
「人柄が良いなら兵を率いるのに向いてるかもね。報告ありがとう。今日は俺からも大事な話があるんだ」
「近衛のお姫様のお話ですか?」
「違うよ! もっと重要って言ったらアレだけど、直轄軍の軍制の話。数を増やすなら、今のうちにしっかり決めておいた方が良いと思って」
「今までは数が数でしたからね。そういう時期ですか」
そう、朽木谷を出る段階の直轄軍は三百だった。
指揮官には滝川一益さんに滝川益重さん、あと益重さんの甥御さんに服部くん。銃兵隊には杉谷善住坊さんもいて、ギリギリ何とかなっていた。
しかし、これから数千規模まで目指していくとなれば、圧倒的に指揮官が足らない。
増やしていくのは既定路線としても、権限をどこまで持たせるのかとか、指揮する兵数をどうやって決めるかとか不明瞭なままでは混乱を招いてしまう。
今までは、滝川さん一族プラスαくらいだったからコミュニケーションは何とかなっていただけに過ぎない。出自が違う武将が加わってくると、どこかで致命的な事故が起きてしまうだろう。
戦場でそんなことを起こさせないためにも、今のうちにしっかり決めておくのだ。
「まず役割を細分化する。幕府歩兵隊、弓兵隊、騎馬隊、銃兵隊と輜重工兵隊の五種とする」
「騎馬隊は予定しておりましたが、弓兵隊も作るのですね」
「ああ、遅いくらいだけど弓兵隊も必要だと思う。今まではそこまで手が回っていなかったに過ぎなかっただけだしね」
「それが良いかと。今までは長柄隊だけと少々歪にございました」
「そうだね。ただし、弓兵隊と歩兵隊に満遍なく人を入れるのではなくて、歩兵隊を精兵中の精兵になるように維持してほしい。花形の部隊となるように意識を統一していてもらいたいんだ」
「承知いたしました。そう申し伝えましょう」
「それと、小笠原長時さんを呼び戻そう。ついに幕府騎馬隊を設立する。金はかかるけど、忍び火薬の製法で大規模に進めていた硝石作りが今年から採集出来る。和絹を奨励して蚕の糞を大量に集めていたことも幸いした。硝石が莫大な利益を生むぞ」
「長かったですね。あれから五年も経つのですか。そういえば和絹の在庫が山の様に溜まっているようですが、使い道はいかがなされますか?」
「それも考えがある。騎馬隊の運用は小笠原さんが戻ってからにして、他のことを話しておこう」
時間だけは沢山あったからね。
貯め込んだアイディアが沢山あるよ。
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