第百十二話 難しい外交問題
「そうなると、具体的に外交面をどうしていくのか決まれば全体的に話は纏まりますね」
そう話の流れを整理してくれた藤孝くん。
残すは外交をどうするかだけなんだけど、それが結構問題なんだよな。
義昭くんは信長を討てと手紙を配りまくっていたらしいけど、俺の状況的に今はまだ早い。俺自身が三好長慶さんから学ぶ気になっているのもあるけど。
「そこが問題なんだ。諸大名と交わると言っても、今すぐ決起を促すわけではないし、利害関係や俺の考えに賛同してくれる人を探していく感じになるかもしれない」
「利害関係はわかりますが、上様のお考えに賛同ですか……。仮に大名個人が賛同してもらえても、家として従ってくれるかは別問題になることが往々にしてあるので、何とも言えませんね」
俺に置き換えてみると将軍が味方したいと思っても、幕府内で賛成されるか別問題ってことね。
うーん、あるあるですね。むしろ、幕府だとそればっかりっていう……。これ以上深く考えるのは止めておこう。
「大名個人が力を持っていない家だと、個人の判断だけではどうにもならないってことだね。実権者も併せて口説き落とさないと効果が薄いか」
「そうなります。しかし、人数が増えれば増えるほど難しくなります」
「一人より二人、二人より三人。数が増えれば全員を納得させるのは難しゅうございますな」
和田さん、非常によくわかります。それ。
特に権力争いなんかで家中で足を引っ張り合う状況になっていると、どうやっても纏まる訳がない。むしろ家中一丸となって纏まっている方が珍しい。
「そこなんだよなぁ。合議制が前提なら、簡単に纏まる訳なんてないよな。どっか大名か重臣の独裁的な家って無いかな?」
「さすがにそれは……。三好殿ですら、意に反して動く家臣がいるのですし」
「そうなると、今は利害関係で結んでいくしかないのか。そのうち、俺の考えに賛同してくれる大名家が増えてくれると良いんだけど」
「理想は理想で、まずは一歩からという訳ですね」
「仕方ないよね。世の中の風潮が他人を蹴落としてでも自分の利益のために動くって感じだし」
「それが戦国乱世というものでしょう。蹴落とすどころか命を奪う方が多いと思いますが」
……和田さんや、あえて言葉を濁しておいたのに、はっきり言ってしまいましたね。
蹴落とす方法として確実なのは、ライバルの命を取る方法なんだよね。知ってます。
難癖付けて攻め込んで族滅とかね。直接的でなくても、讒言、謀殺とか物騒な話にキリがない。
そんな世の中だから、日ノ本全土を平和にするっていう考えに賛同して協力してくれる大名がいて欲しいんだ。その方が早く実現できるだろうから。
そういう大名がどこかにいると願いたいけど、果たして出会えるのだろうか。
そのためにも俺も生き延びねばならないし、幕府の復権も図らねばならない。
まだまだ道は険しいぞ。
「ともかく、難しく考える前に出来ることから始めよう。有力大名家に書状を送るのは既定路線として、ほかに何か出来ないかな?」
今まで以外の方法を唐突に尋ねたせいで、二人は悩みだしてしまった。
自分でも思い付きに近い質問だったので、自分の中に答えはない。ちょっと申し訳ない気持ちになってしまった。
そんな状況に光明が。
「こういうのはどうでしょうか。諸大名に将軍たる上様が京に帰還したので挨拶に来いと書状を送るというのは」
「ずいぶん上から目線の書状だね……。まあ、将軍だから立場は上なのか。でも嫌がられないかな? 書状をもらった諸大名の人たちも三好長慶さんも」
「上様は明日、凱旋のお披露目を行います。つまり将軍帰還という事実を内外に示すこととなります。それを諸大名に通知するのはおかしな話ではありませんので三好殿もとやかく言えないでしょう。諸大名も将軍を奉るというのは至極当然と言えます。嫌がるかどうかよりも、誰が来るかの方が重要かと」
と、言葉を継ぐお二人。小市民な俺には、そんな手紙を送りつけることにビビってしまうが、二人からすれば普通のことのようだ。
むしろ、それを利用して敵味方を炙り出そうとしているのだから逞しい。
俺だと、誰も来てくれなかったらどうしようって考えてしまう。全国の大名に手紙を出して、誰も来ないって、ボッチな俺を自分から喧伝するようなものじゃないか。
そんな公開処刑を受けるくらいなら、自分から挨拶に行きたいもんだよ。
「誰が来るか、か。蓋を開けてみたら誰も来ないなんて……ないよね?」
「…………」
無情な沈黙が場を支配する。
――返事はない。ただの屍のようだ…………じゃないよ!
こういう時ほど、イケメンスキルを発揮するところじゃないですか! 藤孝くん!
俺の必死の目線に気が付いた藤孝くんは、焦りながらも模範解答を見つけ出す。
「誰も来ないなんてありえませんよ! き、きっと若狭国守護
「義弟だしね!!」
家族枠が来るから、大丈夫って……。むしろ誰も来ないより恥ずかしいわ!
それなら誰も来ないでくれる方が断然マシだよ!
義統さんに「私だけ来るのが早過ぎてしまいましたね」とか、気を遣われたら恥ずかしくて、その場で死ねる。
――そんな悲劇が起きないように、念入りに手紙を配っておこう。俺は、そう心に決めたんだ。
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