いつもの日常へ
第五十四話 論功行賞
「歩兵隊、銃兵隊。隊列を整えよ!」
髭軍曹こと
忍び衆は自然と整列していた。おそらく忍び衆の厳格な身分制度が影響しているように思える。忍者の人たちって実力主義で個人主義かと思ってたら、意外と組織だった行動を主としているし、身分制度も厳格である。
まれに猿飛弥助のような奴もいるが、あれは腕が良いことで見逃されているに過ぎないらしいし、身分制度を超えて出世するわけでもないらしい。
それにしても、こうやってみんなが整列させられている様を見ていると、学校の集会を思い出すな。校長先生からはこうやって見えていたのか。
みんな疲れているだろうし、俺の知っている校長先生のように、良く分からない長話をしないようにせねばな。
「それでは、これより論功行賞を行う。上様、準備が出来ました」
藤孝くんが場を整えてから、俺にバトンを渡してきた。
この構図では、藤孝くんは教頭先生か。校長の俺より人気がありそうで悔しい。
あまり阿保なこと考えて、みんなの時間を無駄に使う訳にはいかないな。
俺は上座に置かれた床几に腰を据え、皆を見回す。
すぐ横に藤孝くんが控え、前面には和田さん、滝川さん。その後ろに滝川益重さんと服部くん。これがうちの序列なのかな。それぞれが用意された床几に座る。
その後ろには、歩兵隊、銃兵隊、忍び衆がそれぞれ一列になって座している。
ちなみに猿飛弥助は、小姓として俺の横にいるはずなのに、既にいなくなっている。
「今回の論功行賞は全員参加で行う。一般的な論功行賞ではないが、幕府軍の初陣でもある。皆でこの成果を共有したい。まず
おおっというどよめき声とともに、和田さんが片膝を付き、頭を垂れる。
どよめきは主に忍び衆の方から聞こえる気がする。
「我が幕府軍は功績に出自を問わない。そして武功とは槍働きに限らず、勝利に貢献した全ての働きが対象となる。諜報はもちろん、兵站の維持、軍道の整備。働きとは目に見える物ばかりではない。余は、我らのために働いてくれる全ての者たちに報いたい。皆も心に留めておくように」
「上様のご厚情、誠にありがたく」
「うむ。追って正式な褒美を用意する。取り急ぎ甲州金二掴みを与える」
「ありがたき幸せ」
「長い間、幕府に忠を尽くして感謝している。ここへ逃げ込んできてからは忍びの者を組織して営業部を指揮してくれた。これからは少しでも貴殿の働きに報いていきたい。ただし今回の褒賞とは別の話だ」
俺の宣言を聞いて、和田さんだけでなく、忍び衆のみんなも頭を垂れた。中々みんなのいる時に感謝を伝えられなかったけど、幕府がここまで事業を大きく出来たのも、直轄軍を組織できたのも忍者営業部のお蔭だ。彼らがいなくては商品を作っても効率的に売り捌けなかったし、滝川さんや服部くんにも出会えなかった。
「次いで滝川一益。よくぞここまでの軍を組織した。彼らの動きは素晴らしい。彼らさえいてくれれば、大変心強い。これからも頼む。甲州金一掴みを与える」
「はっ。これからも今まで以上に鍛えておきまする」
おかしい。和田さんの時のように歩兵隊と銃兵隊も嬉しそうに頭を下げない。むしろ微妙そうというか、げんなりした顔をしている。
……そうか。褒められたことより、今後の訓練が厳しくなることに反応しているんだな。
わかるよ。あれだけ走れるようになるのに、どれだけ厳しい訓練を受けてきたか。それを超えて厳しくするなんてね。褒めたつもりが発破をかけたみたいになっちゃった。
ごめんよ。こうなっちゃったら止めようがない。俺が言ってあげられることと言えば……。
「が、頑張ってね。他の皆にも褒美を与える。献上品の酒樽を与えよう。猪肉の味噌漬けなどの食料も添えてな。清家の里に戻ってからだが、たらふく飲み食いしてくれ」
主に歩兵隊の皆さまは嬉しそうな悲しそうな何とも言えないテンションである。
忍び衆は大声を出さないまでも単純に嬉しそうにしている。
この時代は娯楽が少ないからね。お酒は楽しみの一つらしい。何より将軍への献上品だから味も間違いないし。
「では、これにて論功行賞を終えます。皆、解散してもよろしいでしょうか?」
ひとしきり喜びを噛み締め合っている様子を眺めていた藤孝くんが締めてくれた。
けど、お偉方はこれで終わりという訳にはいかない。藤孝くんと相談しなきゃならないこともあるし、主要メンバーで話し合っておきたいこともある。
武田義統さんにも今後のことを打ち合わせなきゃな。
「隊士の皆は解散。いつもの顔ぶれの人たちは話し合いたいことがあるから、屋敷に集合で」
「承知しました。では隊士は解散。滝川益重殿、清家の里への引率をお願いしたい。他の者はいつものように屋敷へと集まってください」
これで、ひとまずの論功行賞は終わりだな。しかし、偉い人たちはまだまだやることが山積み。サラリーマンの頃は、偉くなってみたかったけど、なったらなったで平社員の方が気楽で良かったと思ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます