第十三話 営業先の選定は慎重に

 えーと、戦国SLGの終盤シナリオで生き残っていた大名は……中部は織田と徳川、四国は長宗我部、中国は毛利、九州は島津、大友、龍造寺だろ。

 北陸は上杉で関東は北条、東北は伊達と南部だったっけな。

 東北の方は記憶が曖昧な気がする。


 今のところ、織田信長が有名になる前だから織田の快進撃で消えていく大名が残っている。

 斉藤に朝倉と北畠、浅井や六角か。

 今川や武田なんかもそうだな。

 こうして数えてみると信長さん、大名ぶっ潰し過ぎなんじゃないだろうか。


 最終的には三好も織田に圧迫されるはずだけど、多分俺が殺された後だったはず。

 とにかく将軍殺しを実行してしまう三好だけは何とかしなくちゃならない。


 短期目標は三好の頭を抑える方向で動こう。


 今は小さくとも飛躍するのは織田と毛利。

 けど、今のところ皆を説得する材料はないから、悪感情を抱かれないように配慮して関係を構築しておく程度しか、やりようはないな。


 今すぐに営業をかけるなら、公家で摂関家一族の土佐一条家とお歯黒で有名な京文化好きの今川家だろう。


「それじゃあ、一条家と今川家に派遣して。お願いしたいのは、大名には官位や停戦の斡旋の希望調査、それと特産品の価格調査。あとは家中で浮いてしまっている武将の勧誘と有能そうな浪人の情報収集。基本は行商として活動をお願いします」

「承知致しました」


 和田さんは既に想定済みだったのか、特に質問をするわけでもなく承知してくれた。


「他に気になる大名に繋ぎを取ってもらいたいんだ。人手に余裕ある?」

「はい。連絡程度ならば造作もございません」


「助かるよ。じゃあ、織田信長と上杉謙信、毛利元就と武田信玄。ひとまずこの辺りかな」

「上様、武田信玄と上杉謙信という人物に心当たりがございません。武田であれば、嫡男が上様の妹婿であらせられる若狭武田と甲斐武田が有名です。そして上杉は関東管領 上杉憲政うえすぎのりまさが有名ですね」


 あちゃー、知ってる名前をまだ名乗ってないのか。

 武田信玄は甲斐だったのは間違いないけど、上杉謙信は関東管領を引き継ぐんだよね。それで上杉を名乗るはずで、その前の苗字って何だっけ……


 思い出せん。

 他にヒントになる情報は……上杉謙信の居城の名前って何だったっけな。


「春日山城! 越後にない? 佐渡島の近くでそんな名前のお城」

「春日山城でしたら越後守護代の長尾家が居城としておりますな。当主は長尾景虎ながおかげとら


 そんな名前だった気がする!

 上杉謙信の名前!


「それだ! 甲斐の武田家と越後の長尾家。毛利家と織田家に、何か困ったことがあったら力になるから相談してねって感じで連絡をつけて欲しいんだ。そうそう、そっちも人材が豊富だろうから武将や浪人の情報も拾えるなら拾っておいて欲しい」

「追々、甲賀から人を集めますので問題ないはずです」


 よーし、これで営業をかける先は決まったな。

 次は商材の選定だ。


「藤孝くん、土佐と駿河に行くなら商材は何が良いかな?」

「今あるものでしたら西陣織でしょう。幕府のお抱えの職人がおりますから在庫が潤沢です。あとは、幕臣が写本した和歌集や草子集などが良いかと」


「じゃあ、それでいこう。新しい取り組みだから、失敗してもしょうがない。そのくらいの気持ちで宜しく。それと写本で一番真面目に取り組んできた二人は近隣の大名へ挨拶回りを頼んで。籠りっきりの生活だから、気晴らしになるでしょ」

「おそらく喜ぶことでしょう。幕臣が下向すれば大名から歓待を受けられますからね。酒も飯も食い放題です」


 ほほう。

 朽木谷は平和だけど娯楽はないし、逃げ込んだ身の上じゃあ羽を伸ばすような感じでもないしね。

 近隣の大名なら、俺らよりはお金持ちだろうし、悪くない生活を送れるだろう。


 ちょっとたかりに行っているような感じがしなくもないけど、接待って避けられないもんね。

 うん、そう思うことにしよう。

 今の幕府には福利厚生を充実させる余裕なんてないし。


 それにしても真面目にやってくれた人は誰なんだろう。

 あとで声をかけておきたいし確認しておくか。


「ちなみに誰と誰が真面目にやってくれたの?」

「兄の三渕藤英みつぶちふじひで一色藤長いっしきふじながです」


 藤孝くんのお兄さんか!

 やっぱり兄貴分として真面目にやってくれたんだなぁ。

 それにしても名前に藤がついている率が高いな。


「みんな藤がついてるね」

「はい。私を含め、上様から偏諱を賜りましたから」


 おっと。かつての俺があげてたんだね。

 そりゃあ多いはずだ。ってことは、俺に忠義が厚い信頼できる家臣ってことなんだろうな。

 だから面倒な写本も真面目に取り組んでくれたんだろう。


「そうか。朽木谷に逃げる最中に頭を打ってから、記憶が曖昧だな。大事なこと忘れていて、ごめん」

「いえいえ、上様がご健康であらせられることが何よりです。あまり長話をしては、お身体に障ります。お話はこれくらいで終わりでしたら、今回はお開きにしましょうか」


「うん、じゃあこれで終わろう。猿飛弥助と服部正成、これからよろしく。和田さんは営業部の皆にもよろしく伝えといて。あと藤孝くん、写本事業部の皆に褒賞の話をしたいから、折を見て作業場に行けるように段取りお願い。では解散!」


 三渕さんと一色さんには直接褒めないとね!

 藤孝くんに伝えてもらうより、俺が直接言う方が嬉しいはずだ。

 それも同僚の目の前でね。

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