忍者営業部 始動しましょう
第十二話 事業計画を立てよう
「和田さん、服部正成くんと猿飛弥助を仲間にできたのはわかったけど、どっちも俺の護衛なんだよね? 諸国を歩き回る役目の忍者の人たちは集められそう?」
「問題ありません。現状の境遇に飽いた若い下忍を十名、連れてまいりました。この場にはおりませんが、屋敷に控えております」
なるほどね。
俺に関係する主だった者だけ、面通しを兼ねて挨拶させたということか。
となると、和田さんが指揮官となって手配やら連絡やらをやってもらうのだろう。
和田営業部長と部下に下忍が十人。
新規発足する事業部としてはそれなりの規模だけど、全国津々浦々となると人手が足らないな。
しかし、売り物となる在庫も多くないし、新しい事業にチャレンジする際のポイントは小さく始めて大きくする。
そういう面でも、このくらいでいいだろう。
電話やインターネットのような連絡手段が無い戦国時代では、十人がバラバラに動くわけでもない。
三人か四人組くらいで動く必要があるんじゃなかろうか。
今の人員からすると、ターゲットとする地域は二か所くらいだろうな。
そこを起点にして周囲を開拓していってもらおう。
うん、この考えで悪くないはず。
あとはどこを狙うかだ。
「わかった。じゃあ売り込み先をどこにするかを決めよう。人員からして二か所に絞りたい。良い候補はあるかな?」
そう言われて悩むような顔をするのは藤孝くんと和田さん兄妹だけ。
服部くんは今聞いた話を咀嚼するのに忙しそうで、弥助は鼻をほじっている。
弥助よ。少しは考えようよ。
こいつに小姓なんてできるのか不安だ。
ややあって、口を開いたのは和田さん。
最初の対面の頃とは違い、積極的に関わるようになってくれて嬉しい。
「人が多くて、物の売り買いが活発なのは、泉州の堺と尾州の熱田辺りでしょうか」
「うん、確かにその要素は重要だね。できれば、京から離れた場所が望ましい。売り物が京の西陣織や化粧品なんかの小間物だから、堺だと近すぎるかな。それでも儲けは出なくないだろうけど」
「では、京の物品を好む土地にするのはいかがですか」
「京の物品を好む土地?」
「はい。日ノ本において京は文化の最先端。さらには、公家様方が地方へ下向され、京の雅な文化を伝えていることで、大抵の人々は一種の憧れのようなものを抱いております。受け入れる武家は温度差は様々なものの、公家様方もよく分かっていて丁重にもてなしてくれる土地を好んで下向しているようです」
ふむふむ。
確かに偉い人が来たからって、愛想笑いやおざなりな対応をされる所と嬉しそうに相手をしてくれる所なら誰だって後者を選ぶだろう。
「つまり京文化を歓迎してくれる土地があると言うんだね。それはどこなの?」
「それは細川様がお詳しいかと」
ここで引くのか! 和田さんよ!
家格や席次からしても藤孝くんの方が偉いけど、ここまで案を出して形作ってきたのだから、最後まで言えば良いのに。
きっと和田さんなりの処世術なんだろうけど、俺からすると良いとは思えない。
これも室町幕府という組織の文化なのだろう。
あくまで序列を意識して出しゃばらない。
違うんだよ。
序列は大事だけど、手柄を譲るようなためにあるんじゃない。
これは悪習だ。変えるべき所だな。
藤孝くんも違和感を感じてないようで発言を引き取った。
「そうですね。駿河の今川家、甲斐の武田家、土佐の一条家、周防の大内家などでしょうか。大内家は、今年の頭に上様のお名前を下賜され、左京太夫に叙任しました。ただ、今の実権者である
ちょっ!
情報多すぎですよ!
当主を自害に追い込んだって下剋上そのものじゃないですか!
いやいやいやいや。
陶さん下剋上なんてダメですって!
なんせ下剋上される側のラスボスって将軍ですから!
……いや、済んだことで落ち込むのはやめよう。
考え直してみれば、大内家には偏諱も済んでしまっているし、官職の叙任も済んでしまっている。
そう考えると見込み客としては優先順位が低いように思える。
それにゲームの知識だけど、大内って最終的に滅亡していて毛利が大きくなっていたよな。
ん?
そうなると将来的に見ても大内に近づくよりも毛利と仲良くする方が良いのかもしれない。
「大内はやめておこう。それより毛利とか良いんじゃない? さっきの候補だと、今川と土佐かな。今川に拠点を置けば甲斐にも足を延ばせるでしょ」
「今川と土佐は良いお考えかと。しかし毛利とは。いくらか大きな大名とはいえ、敵対している
うーん、今の段階で藤孝くんを説得する材料は無いな。
織田信長だって桶狭間の戦いが起きる前までは、
俺だって、何となく結末を知っているからってだけだしね。
そうなると将来性を考えて手を打っていく必要がありそうだ。
これは俺だけにしか出来ないことなのだから。
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