第1話 おはようございます、誰ですか?
視界に光がうっすらと差し込んだ。
「ん?ヒトじゃ……か?ん?服…血まみれ……。だい………ぶか?」
中学生くらいの少年がこちらを見下ろしていた。
「ぁ………?」
ここはどこだろう。体を起こそうとして引き裂かれたような痛みが全身に走った。
「いっづ……」
それでも何とか体を持ち上げると…目の前には瓦礫の山と赤い地面が広がっていた。
「おっ、起きたか。おはよう。お前、大丈夫か?シャツが血だらけだぞ。というか、札幌にまだ人がいたのか……。」
シャツは黒みを帯びた赤色一色に染まっている。……これは、血、だろうか…?触ってみると、赤い液体が指につく。乾いていない。真新しい傷によるものだ。
しかしシャツの下には己の白すぎる肌しかない。
「おはようございます、知らない方。ところでどなたですか?」
「…。お前、名前を聞くときは自分からと教わらなかったのか?」
「そうですか。失礼しました。自分は……」
…………?自分?自分の名前は、何だ?お前は誰だ、自分?
「……。え?お前、自分の名前も分からない馬鹿なのか?体よりも頭の心配をしてやるべきだったか…。」
「いえ…。なぜだか自分の名前が思い出せず……」
「……。お前ももしかして記憶喪失か?」
「も?」
「ああ、うちの妹もそうなんだけどな……。」
その少年は
「ということは何も覚えていないのか…」
「何かあったのですか?」
「いや、それは…」
「何かあったのですね?」
「……。はぁ…。本当に知りたいのか?今から話すのはただの厳しい現実だぞ?」
「それでも、お願いします」
根負けした零王は、すべてを教えてくれた。
………………………。
………………………。
………………………。
「もしかして、新手の詐欺ですか?それか映画の撮影とか…「グシャッ!」うっ!?」
「あ?ああ…、すまん。悪気がないのはわかってるんだが…。俺は好きだった本を守ろうとして天使の野郎に串刺しにされたんでね…。少し恨みが爆発しただけだ。気にするな」
「あ……。すみません」
「だから気にするな。ってか記憶喪失状態でもそんなツッコミ出来るんだな…」
これは迂闊だった。殺されかけた事実を疑われたらそうなるはずだ。家族を殺されていたなら…もっとだ。
え、っていうか串刺しにされて生きている…。うん、世の中には気にしてはいけないことがあるようだ。この2つが記憶を失って?から初めて学んだ教訓だ。
「証拠はそこら辺の瓦礫と飛び散った血だ。まだ新しいから、鉄の臭いがする。それでも信用できなけりゃルミノール反応調べろ。警察にライト貸してもらえ」
「いえ、信じますけど……」
なるほど、この体の周りにある瓦礫はそういうことだったのか…。あと警察は貸してくれないと思うが。
「しかしこれで記憶喪失ってことが証明されたな…。お前、いや、名前がないと呼びにくいな。うん、お前も
今まで気付かなかったが、自分の髪が日本人としてはとても珍しいであろう白い髪だった。まさかもう体の老化が進んでいるわけでもないだろう。自分がアルビノという可能性もなくはないが…。もしそうではないとしたら…。ストレスか?
というか名前がそのままだな…。うん、まあ悪くないのではないだろうか。
「では遠慮なく…。うん、まあ、その、ありがとう…?」
「なんで疑問形なんだよ…。ところで、お前、食べ物とか飲み物とか家は?」
「ない気がするが…。家も自分の家だったという可能性が高そうだ」
「なら俺の家に来い。まあ、家と呼ぶには少々手狭だがな…」
「え?」
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