第36話 家族
今日は公爵家にイリークとアリスが招かれ、家族だけで祝賀会が開かれた。
ケルンもご機嫌にルイスからお菓子をもらっている。
「それでアリスはいつからうちに帰ってくるんだい?」
「あら、もうこのままここで暮らせばいいじゃない。荷物はおいおいで大丈夫よ、ね、アリス。」
「え~と。あの・・・ちょっと帰って来られなくなりそうで。」
アリスは消え入るような声で答えた。
「どういうことだ?!まさかまだ私たちの事・・・」
「いえ、違います!御義父上!」
イリークが暗い思考に陥りそうになったエルネストを遮った。
「・・・御義父上・・だと?」
イリークは立ちあがり、
「挨拶が遅くなり申し訳ありません。後ほど改めてお許しをいただきに参ろうと思って・・・」
「黙れ黙れ!聞きたくない!」
今度は何を言われるか嫌な予感がしたエルネストがイリークを遮った。
「よし、今日は解散だ。イリーク殿、遠路お疲れだったろう。今日は早めに帰ってゆっくりされるがいい。これまでのこと本当に感謝している。今後、アリスはこちらで面倒を見るゆえこのまま屋敷に残し・・・」
早口でまくし立てるエルネストにアリスは近づいてエルネストの手を握った。
「お父様。師匠が・・・いえ、イリーク様が婚約を申し込んでくださったの。私お受けしたい。」
「ああ~あああ!」
エルネストはがっくりと肩を落とした。
父でも兄でもない夫婦として家族になろうとプロポーズをしてくれた。
母のマルティーヌは黄色い声を上げて喜んだ。クリストフもルイスも祝いの言葉をかけてくれる。
「嘘だろう・・・やっとやっと一緒に暮らせると思って・・・」
しかし、はっと顔を上げると
「いやいやいや!騙されないぞ。いくら中身が17歳とは言えまだ14歳じゃないか!結婚は許さん!」
(重要な秘密事項をサラッと口にしてますよ、お父様。使用人たちは首をかしげておりますよ)
「シルヴェストル公爵。アリス嬢を一生悲しませることも苦しめることもなく幸せにし、命を懸けて守り抜きます。お嬢様との結婚をどうかお許しください。」
(いや、アリスの方が強いけどな)と全員が心の中で突っ込みを入れたがアリスがほほを染めて嬉しそうにしている珍しい姿にみんなうんうんとうなづくだけだった。
「むう。」
「貴方、いいではありませんか。イリーク様以外のどなたがアリスを幸せにしてくれるというのですか?過去の苦しみも、アリスの努力も強さも弱さもすべて包み込んでくださる方は他にはいらっしゃいませんわ。」
「しかしっ。婚姻前の二人が一緒に暮らすなどっ」
アリス達にすれば今まで一緒に暮らしてきたのだからそのままでいいくらいの認識だったが、エルネストはどうしても許せないようだ。
「婚姻はアリスが成人する16歳を過ぎてからだ。それまでは婚約とし、その間公爵邸に戻ってくるというのなら許してやらんこともないっ。」
アリスとイリークは顔を見合わせ、うなづいた。
これまでかけた迷惑を考えると、こんなものではすまない。親子として、兄弟としての時間をどう取り戻せるかはわからないが望んでもらえることがうれしかった。
アリスも家族というものがどういうものだったか、もう一度一緒に過ごしてみたかった、そしてこの10年のお詫びと恩返しを目いっぱいしたい思いだった。
結婚は16歳以降、それまでは公爵邸で生活するという条件で無事二人の婚約が調った。
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