第32話 エレンの目的
「アリス!!」
エルネストとマルティーヌは崩れ落ちたアリスに駆け寄った。周りから悲鳴や怒号があがる。
「姉上、姉上~!」
自身も刺されたところから出血が止まらず、痛みも相当なものだというのにルイスはクリストフの拘束から逃れようと暴れた。
ゴフっと口から血を吐きながらアリスはエレンを睨みつけた。
「貴方は聖獣の申し子、貴方を捕らえて聖獣をおびき出し、竜になるまで飼殺そうと思ったのだけれど。まさかもう竜に変態していたとは手間が省けたわ。」
「・・あの子をどうするつもり?」
エルネストが必死に傷口を押さえるが、血が止まらない。
話をやめさせたいが、アリスでなければ真相を聞き出せないだろう。エルネストは涙を呑んで見守るしかなかった。
イリークが駆けつけてくれないかと期待したが、優秀な魔術師を分散させるため、エレンは王宮に魔獣を放ちイリークは王宮に足止めされていた。
「狂わせるのよ。」
「え?」
「聖獣と契約した貴方を殺せば竜は正気をなくして狂う。狂った聖獣でこの国は灰燼に帰す!すべて滅びてしまうがいい!」
それを聞いた人々は絶望した。
「ルーナ国を滅亡させる?お前は・・・」
「魔族よ。遥か海の向こうの国の。このルーナ国には憎んでも憎んでも憎み足りない恨みがある。この国に恩恵をもたらす聖獣によって絶望を味わい、死んでいくがいい」
「最初から…それが目的だったのね。災害を起こし、国力を削りつつ援助するふりして王宮に入り込む。人々を操り、私に濡れ衣を着せ、聖獣が完全変態するまで生け捕りにして、最後は私を殺す。」
なるほど、前回、すぐに処刑されることがなかったのは聖獣が竜に変態するまで待っていたということか。おそらく暴力により流れ出た血を、見つけ出した聖獣の幼体に飲ませ知らない間に契約させられていたのだろう。聖獣とは会うことがなくとも生きているだけで魔力が届いていたというのか。
「そうよ、なかなか聖獣の申し子を見つけられずイライラさせられたけれど。魔術師たちを集めればその中にいると思って訴えさせたのだけど無駄足だったし、女神とやらはどこにも姿を現さないし。イリークとかいう魔術師も力が強く目障りで早めに処分しておきたかったんだけど、初対面からえらく警戒されていたようね。隙が全くなかったわ。まあ、結局は自分から竜を出し、こうして出てきたのだから許してあげるわ」
エレンは機嫌よく笑うと
「さあ、満足していただけたかしら。おしゃべりはここまでよ」
剣を振り上げ、エルネストをはじめ周りの騎士に下がるように命じた。
エルネストとマルティーヌはアリスの体に抱き着いたまま、離れなかった。
「貴様などに娘を好きにさせてたまるか!」
「では、親子仲良くお逝きなさいな」
エレンは三人を貫くように剣を振り下ろした。
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