第33話 バレる

 剣が三人に届くというまさにその時、その剣に雷が落ちエレンが飛ばされた。


 すかさず飛び出したアリスはエレンを拘束し、自分の首からいとも簡単に魔道具を外すとエレンにつけた。それだけでは心もとないと魔方陣を展開し、その中央にエレンを縛り上げて転がした。

 と、同時に矢のような光が屋敷に飛び込んできたかと思うとクリストフに激突しクリストフも吹っ飛ばされた。そのすきに騎士たちがルイスを救い、敵兵たちをも拘束した。


「アリス!動くな!無茶したら死んでしまう。」

 エルネストがアリスの腕をつかもうとする。

「もう、大丈夫です。いきなり刺されると思わなかったので死ぬかと思いましたけど。」

「死ぬほどの怪我だろう?!」

「ああ、こっそり治癒魔法かけてたので途中からは演技でしたね」

「はあ?!」

「あんな魔封じくらい封じ返せるだけの魔術を身につけておきましたし、聖獣の守護が付いているので問題はなかったですね。いや、かなり痛かったから問題でしたが。」


 エルネストは先ほどからもう感情がついていかなかった。

 長男が敵になった、長男が次男を刺した、アリスのポケットから竜が飛び出した?アリスの魔力が封じられた、アリスが刺された、演技でした・・・もう混乱の極致だった。

 息も絶え絶えという状態だが、悪くない状況ということだけは理解できた。


 ふわっとかわいい小鳥に戻ったケルンはルイスの肩にとまり頬ずりをした。

『お前がいなくなったらお菓子どうするんだよ~。無事でよかった~』

「ケ、ケルン・・・君、聖獣様だった・・・の?」

 アリスは手早くケルンをポケットに回収するとルイスの足に治癒魔法を施した。 

 流れた血は衣服を汚したままだったが、傷も痛みも消え何も残らなかった。

「姉上が・・・女神様?」


 これまで隠していたことが大勢の人々に知られてしまった。

 騎士も屋敷の者もその場にいるものみんながアリスに跪き、首を垂れた。

 国を、民を救った聖獣を引き連れる尊き女神。

「あ、あの。違います、女神じゃないです!お父様!助けて下さい!」

「あ、ああ。」


 我に返ったエルネストは敵兵たちを王宮に連れ帰るよう指示し、幾人かの騎士たちに屋敷の護衛を頼んだ。妻や屋敷の者たちには今日は何もせず休むように命じた。女神を前にした面々は名残惜しそうに動き始めた。

(お父様、助けて・・・だって。もう死んでもいい)

 エルネストは涙をこらえ、顔がにやけるのがとめられなかった。


「ケルン、力を貸してくれる?お兄様の記憶を・・・消したいの」

 倒れているクリストフの額に手をあてると、手の平から魔力を流した。誘導するようにケルンからも魔力がアリスの体を通してクリストフに流れていく。

『キルボルンのマカロン50個ね』

「・・・・。わかった。ルイスに頼んどく」


 兄の記憶と引き換えにしては安いものだ。自分がルイスを刺した記憶が残っていれば生涯苦しむことになるだろう、その記憶を抜いておいた。


 今回の騒動の中で、ルイスも両親も自分の命を顧みずアリスを救おうとしてくれた。アリスの心もようやく過去の鎖から解放されたようだった。

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