第18話 聖獣とバトル?

「光魔法と同じ魔力が・・・やはり聖獣なのか」

 イリークは存在すら定かでなかった聖なる獣に感動したように声を震わせた。

 アリスも我に返って、どうしようというようにイリークを見た。

 なぜこの国に聖獣がいるのか。聖獣は神の国にしか存在しないはずだ。

 しかもこの国ではわざと存在が隠されてきたとしか思えない。

 歴史書にも、建国物語にも伝説にもないのだから。

 今となっては一部のものしか読めない古文書の一説にみられるのみ。


 金のような白銀のような光を身にまとわせた鳥が、羽をふわっと広げた。

 アリスがえっ?と思う間もなく聖獣はアリスの肩に飛び乗った。

「いっ!いたい、いたい・・・やだっ!」

 11歳のアリスの肩にとまるには少し大きすぎる鳥が器用にその肩にとまると、アリスの腕を鋭いくちばしで思い切りつつきだしたのだ。


 まさか攻撃を受けるとは思わなかったアリスとイリークは無防備でいたことを後悔した。

「魔獣か!!」

 イリークが風魔法で攻撃しようと手を振り上げたとき、アリスが大きな声でそれを止めた。

「師匠!待って、待ってください!この子敵じゃない!」

 アリスは腕から血をだらだら流し、敵じゃないといいながら肩にとまる鳥を思い切り殴りつけた。

「くう~」っと、うめき声を出して鳥は肩から地面へ落ちた。

「大丈夫か!?」

「はい、痛いですけど!」

 アリスは鳥をにらみつけた。


『いや、儀式をだね。しようとね、思ったの。』

「やり方ってものがあるでしょうが!」

 イリークは突如言い合いになった二人を呆然と見つめた。

 アリスはともかく片方はきゅんきゅうんと鳴声にしか聞こえない。

(アリスはなぜ普通にしゃべってるの?)


「・・・師匠、どうやら聖獣で間違いないようです。勝手に契約させられてなんか意識にいろいろ入ってきて腹立たしい限りですが」

『いやだから・・・』

「黙っててください。聖獣様。師匠に説明しているところですから。」

『・・・はい、なの。』


 聖獣が腕をつつき、流れ出た血を舐めることでアリスとの契約がなされたらしい。そして契約で縁を結べたアリスとは意思の疎通が可能となった。なぜアリスを選んだのかは言えないが、ずっとアリスに会えるの待っていたこと。そして目の前にアリスが現れてうれしすぎて契約の血を得るために勢い余って許可も得ず、つついてしまったこと。

 そしてこれからは一緒にいると。


「・・・とまあ、血をなめられた瞬間にこんなことが頭に飛び込んできました」

 イリークに治癒魔法をかけてもらい、疲れたようにアリスは言った。

「聖獣様がアリスを待っていたって?いったいどういう・・・いやもうわからないことだらけでまいったな。」

「はい。もう訳が分かりませんよ。ちょっと頭を冷やしたいです。湖のところまで戻りませんか?」

「ああ、お茶が飲みたい気分だ。転移で移動しよう」

 二人で移動するため、アリスの腕に触れると置いて行かれてはたまらないとばかり聖獣はばさりと飛び上がりアリスの頭の上に飛び乗った。

「い!こら、こいつ」

 と言いながら3人仲良く先ほどくつろいでいた即席サロンにたどり着いた。



 到着時アリスは聖獣の両足をがしっとつかみ、ぶら下げていた。

『ちょっとちょっと!僕、正真正銘の聖獣だよ!敬うとかひれ伏すとか可愛がるとかしてくれていいんだよ!?』

 アリスは黙って、軽食やお菓子を詰めてきた籠に聖獣を詰めた。


「よし!」

 アリスはカップにお茶を注ぎ、魔法で少し温めてイリークの前に置いた。

「ありがとう」

 籠から、必死で頭を出そうとする聖獣を何とも言えない思いで見ながら熱い紅茶を口に含んだ。香りとほんの少しの苦みが心を落ち着けてくれる。

 アリスは甘いお菓子を食べることで気持ちを落ち着けているようだ。

「どういうことでしょうか。どうしたら・・・」

「聖獣様にお伺いするしかないね。教会や王家にもお知らせしないといけないだろうし」

『それは駄目だよ。僕のことは君たち以外に知らせてはいけない。』

 籠から聖獣が言い、イリークにそれを伝える。

『僕のことは気にしないで。アリスのいるところが僕の行くところだから』

「いやいやいや。それ、気にするでしょ!私、飼うなんて言ってませんよ!」

『ちょっとちょっと、ペットじゃないんだから。アリス、僕に冷たくない?』

「出会ってから今まで、優しくする要素どこかにありましたか?」

 アリスの目がすわる。


 急にイリークが笑いだす。どさくさに紛れて聖獣がぬるっと籠から這い出てくる。威厳も何もない。

「師匠?」

「いや、聖獣様といるとアリスが年相応で飾らず楽しそうでいいなと思って。聖獣様がよろしければうちの屋敷に来ていただいてもてなしをさせていただきたいのですが」

『うんうん。そうだよ、普通はこうなんだよ。よし!こいつにも加護を与えてあげよう』

 契約とは違うらしく、くちばしで羽を一本抜き取るとイリークに渡した。

 イリークがそれを手にするとふわっと光となってイリークの胸元に消えていった。

『これで、君も僕の言葉わかると思うけど』

「ああ、ありがとうございます。光栄でございます」

 加護を与えていただいたことに感謝し、イリークは胸に手を当てて頭を下げ敬意を示した。

 聖獣はうんうんと満足そうにうなづいた。

⦅そうだよ、契約したり加護を与えたりなんて希少なことなんだから。その価値にちょっとは気が付いたかな⦆

 アリスもちょっとは感謝するんじゃないのっていう期待で聖獣はアリスを見た。


「ちょっと!怪我させないで出来るんなら私も羽が良かったわよ!」

 怒られた。

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