第15話 シルヴェストル家 家族会議

 ルイスはあっさりとアリスが引いたことで、怒りをぶつけるところを失ってしまった。アリスたちを引き留めている両親の姿をみて、胸に渦巻く重く苦しい想いを昇華できず自室に戻った。

 兄が追いかけてきてくれたが無視をして布団にもぐり込んだ。


 しばらくすると、ドアが開き両親が入ってくる音が聞こえた。兄も同席するようにと父の声も聞こえる。

 布団にもぐったままのルイスに

「ルイス、ごめんなさい。あなたが苦しんでいたのに気が付かなくて・・あなたのこと愛しているのにそれをきちんと伝えられなかった。本当にごめんなさい。私たちは親失格だわ・・・クリストフ、あなたにもずっと我慢を強いていたのね。」


 アリスの過去を聞き、アリスを哀れに思うあまり娘を最優先にしていたのは確かだ。ルイスは母の愛情に包まれたい幼いころから今までずっと我慢してきたのだろう。ルイスの気持ちも痛いほどわかった。

 しかし、再び家族から死を願われたアリスの気持ちを思うと胸がつぶれた。

 すべて自分たちが悪いのだとルイスとクリストフに謝りつづけた。 


「父上、私は・・・アリスをかわいそうだと思っています。何か理由があるのだろうと。それでも割り切れない思いを抱いたこともあります。ルイスのこと、僕も気が付けなかった責任があります。申し訳ありません。ですが僕たちに本当に悪いと思うなら、アリスと家族としての縁を切りたくないと思うなら隠していることを教えていただけませんか。」

 夫妻は顔を見合わせた。

 自分たちの息子があれ受け止められるのか、それを聞いて口外せずにいられるのか。


「信用してください。僕だって・・・僕の後をついて回った可愛くて明るかったアリスに戻ってほしい。家族に戻りたい」

「クリストフ…」

「なあ、ルイス。お前だって理由しりたいだろ。アリスを好きになれとは言わないよ、それだけのことをしてるんだから無理ないよ。だけど僕たちは聞く権利があると思うんだ。お前も公爵家の息子だ、信用たる男だと思っている。」

 もそっと布団から顔を出すとルイスはうなづいた。


 4人は父とクリストフが使用している執務室に移動した。ここなら使用人にも声が漏れることはない。

「ルイスは1年前の夏に領地に行かなかったことを覚えているか。」

「はい。なぜだろうと思いましたが・・・。でもその年に限って嵐の直撃があり、行かなくてよかったと思ったことを鮮明に覚えています。」

「そうだ。もし我々が帰領していたら誰か怪我を・・・いや命の危険でさえあったと思うほどの被害だった。」

 昨年、ここ数十年経験がないほどの嵐がシルヴェストル領地を襲った。屋敷の一部が倒壊したにもかかわらず怪我人も出ず、馬たちにも被害はなかったのだ。 

 嵐の後、視察に出かけたエルネストとクリストフは惨状を見て、被害が最小で済んだ幸運に感謝した。


「確かに、あの日領地に戻っていれば大変なことになっていたと思いますが・・・それが何かアリスのことに関係がありますか?」

 クリストフが戸惑うように口をはさんだ。

「あれはアリスが助けてくれたのだ。」

「えっ?」

「アリスが危険だから絶対行くな、行けばルイスが家屋の下敷きになり命は助かるが後々まで後遺症を残すことになると。」

 思ってもいなかったエルネストの話に兄弟は二の句が継げなかった。

「それから馬や家畜は山の方にある洞窟に移動させること、使用人たちも避難させ、領民にも地下のある建物や洞窟、もしくは遠くまで逃げるよう指示するようアリスは私に伝えてきたのだ。」


 嵐の前にエルネスト一人が馬で領地に帰り、そのように采配を振るった。そのおかげで、嵐の規模の割には人的な被害が最小限で済んだのだ。

「・・・アリスは未来がわかるというのですか?」

「いや、そうではない。アリスは過去を見てきたのだ。」

 二人の兄弟はどちらも理解ができないというように眉を寄せて首をひねった。

「私たちも初めはお前たちと同じだったよ。何を言ってるんだとな。しかし今の話のみならず、彼女は知らないはずのことを知っていたり、これから起こることを言い当てたりと信じざるを得なかったのだ。それを今からお前たちに話す。判断はお前たちに任せるが、他言無用だ。破れば勘当する」


 エルネストの厳しい言葉に二人は背筋をただした。そのうえで聞く意思を示した。

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