第8話 師匠と再会
「呪い、ですか?」
シルヴェストル公爵に娘のことで相談があるといわれてイリークは困惑した。
急に様子がおかしくなったのは呪いのせいじゃないかと公爵は疑っているようだ。
「ああ。何度医者に見せても異常はないというのだ。しかし突然話すことができなくなり、食事もとらなくなり、私たちのこと…家族を避けるような態度をとるなんて。心の負担のせいだといわれてもたかだか5歳の子に何があるというのだ。なにも問題はなかったというのに。」
「そんな呪いは聞いたことがありませんが…」
そもそも5歳の子供に呪いをかける理由などあるだろうか。
しかし考えてみれば公爵家の娘というだけで、その身にあらゆる意味を持つ。それらを利用したいもの、排除したいもの身勝手な欲望でターゲットになりうるか・・・
「呪いというのは魔力を術に込めて発動させたものです。シルヴェストル公爵令嬢以外の魔力を感じたら呪いの可能性もあるということです。直接お会いすることができましたらわかると思います。」
扉が開いてイリークが姿を見せた瞬間、アリスはベッドから飛び出してイリークに飛びついた。
「あ、あの?」
声にならない声で嗚咽を漏らし、いきなり泣きついてきた少女にイリークは困惑し、アリスの親のエルネストとマルティーヌは驚いて目を見張った。
(ああ、師匠!・・・師匠!・・・会いたかった・・・生きて・・)
アリスが知っている師匠よりずいぶん若く、ほんの少しまだ少年らしさが残る顔。
あの頃は何があっても冷静で落ち着いて感情が乱れることがなかった師匠だが、いまは感情が素直に顔に出て初対面の少女の奇行にどう対処すればいいのか困惑していることがありありと現れていた。
「アリス、魔術師のイリーク様だ。その・・・アリスが困っていることがあれば相談に乗ってもらえまいかとお願いしたのだ。」
(ああ、気の利いた事を!!今回ばかりは感謝するわ!)
生まれ変わってから初めて父に感謝した。
イリークはアリスに合わせるようにしゃがむと
「シルヴェストル公爵令嬢、魔術師のイリーク・グランジェと申します。本日は突然の訪問お詫びいたします、お会いできて光栄です。」
(知ってます知ってます!師匠・・・私はあなたの弟子ですよ)
アリスはやっと離れると
「アリス・シルヴェストルです。私もお会いできてうれしいです。」と筆記した。
一目見て、呪いなどかかっていないことはわかった。それともう一つ分かったことはアリスが膨大な魔力の持ち主だということ。しかも5歳という子供の身でそれをうまく隠蔽しているのには驚きだ。
同じく魔力が強く、様々な修練を積んだイリークだからこそすぐ見抜けたが、たとえ家族であっても気が付いていないだろう。
これも公爵が心配しているアリスのおかしさと関係があるのだろうか。
「シルヴェストル公爵令嬢、最近体調がよろしくないと伺いました。何か私に力になれることはございませんか?例えば・・・」
そういって、指先に光を集めそれらが少しずつ形を変え蝶になった。蝶はイリークの指先から飛び立ちアリスの周りをフヨフヨと飛んだかと思えば光の玉となりアリスの胸のあたりにスーッと入っていった。
(!!ああ~前も私が失敗して落ち込んだ時こうして励ましてくれました・・・あなたはいつもこうして支えてくれる)
イリークが紡ぎだす光は心を温めてくれるのだ。
アリスは感謝を込めて心からの笑顔で再びイリークに飛びついた。
思いがけずの師匠との再会で興奮と号泣による疲労、精神は17歳でも5歳の身体が持つ体力のなさ、光の癒しとで、頭の中でいろんなことが渦巻いているうちに意識があいまいになり眠ってしまったようだ。
目が覚めてイリークが帰ってしまったことに真っ青になり絶望しかけたが
「イリーク殿にまた来てもらえるよう頼んである。」
と、憎々しい男だが再びエルネストは座布団1枚差し上げてもいいようなグッジョブを成し遂げていた。
呪いはかかっていないことを告げられ、安心したものの初対面のイリークに示した親愛の情を見せつけられ、親心としては相当辛いものがあった。
それでもここのところ見ることがなかったアリスの笑顔を見て、エルネストはイリークに再訪をお願いしたのだった。
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