第5話 一度目の人生 ~冤罪~

 魔封じの陣がほどこされた牢で無実を訴えるイリークに耳もかさず、イリークに手を貸したものがいると魔術宮の魔法師の数人も疑われていた。

 アリスは師の濡れ衣を晴らそうと奔走した。

 しかし、その行動こそイリークの罪を隠そうとしていると疑われ、しばらく自宅で謹慎するように命令が下った。


(はあ?まさかイリーク様を疑うなんて。ありえないでしょ。今までどれだけ国のために力を尽くしてきたと思ってんのよ!)

 師であるイリークが牢につながれ、自分も事の次第がはっきりするまで自宅にいるよう命じられ怒り心頭だった。

 国を愛し国のために研究し、惜しみなくその魔力を使い守ってきたというのに。

(信じられない!魔法を使うのがどれだけ大変だと思ってるの!身体に負担がかかるし、日ごろの鍛錬も重ねて努力してるのに。今回の件が片付いたら魔術宮なんてやめてやる!二度と国のために魔法なんて使ってやらないわ。ああ、早くイリーク様の冤罪をはらさないと)


 気がはやるアリスの元に幾度か調査と称してエレンが訪れる。

「エレン様!イリーク様は今どうされていますか?師匠がそんなことするなんてありえません。どうかわたしにも調べさせてください。お願いします!」

 いくら懇願しても身内に調査はさせられないこと、魔術宮自体が監視対象になっていることが伝えられるのみでどこまで調査が進んだのか、なぜイリークをはじめ魔術宮が疑われることになったのかなど何も教えてもらえなかった。


 何度もエレンが屋敷を訪れると、家族までもが疑うような視線を向けるようになってきた。

「アリス、まさかお前大それたことをしでかしたのではないだろうな!」

 信頼していた家族が自分を疑うことがあるなどショックだった。

 王宮に出仕している父からはお前のせいで肩身が狭く、歴史ある公爵家の名前に瑕がついたと告げられた。

 当初はそれをたしなめ、アリスをかばっていた母や兄弟たちも日に日に疑いを強めアリスの言葉に耳を傾けなくなっていった。

 それどころか本当のことを言えと、責められ、時に暴力まで振るわれるようになった。それが屋敷全体に広がり使用人までもがアリスの世話を放棄し、家人が咎めない事がわかるとどんどんひどくなっていった。


 はじめは自分の部屋で過ごすことができていたが、後に物置に使われていた日の光の入らない暗い小部屋に押し込められるようになった。

 食事ももちろんみんなでとることは許されず、小部屋に投げるように置いて行かれるようになった。

 時々屋敷を訪れるエレンだけが、犯人と決めつけることなく、静かに耳を傾けてくれたがまだ真相がわからないこと現状を変える力がないことを詫びられるだけで無実を証明することはできなかった。


 軟禁されてから半年ほどたったころ。もう弁解する気力も家族に対する期待も失せていた。ある日、いつもよりも激しく殴られ、けられた。顔に青あざができ、唇が切れ血を流しても父と兄は蔑むようににらむと、

「イリークがお前も共犯だと自白した」

 と信じられない言葉を投げつけた。


 そして魔術師イリークは処刑された。

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