第4話 一度目の人生 ~救世主~

 長く大量に雨が降り続いたせいで山崩れ、河川の崩壊がおこり、多くの家屋や畑が流された。崩れた土砂が川をせき止め自然のダム湖を作りそれが決壊したのだ。これが村に直撃すれば全滅するところだった。

 流れは確実に村に向かっていた、山肌を木や岩が削りながら流れてくる土石流の轟音に人々は転げるように逃げ始めた。しかしその速度はすさまじく逃げおおせるものではなかった。


 呆然とした人々の前に白いドレスを身にまとった女性エレンが現れた。


 エレンは膨大な魔力を行使し、村を直撃する寸前に土石流の流れを変え村人たちの命と財産を守ったのだ。

 村長はエレンに心から感謝し、偶然にエレンがこの地を訪れていた事にも感謝し、神に祈りをささげた。

「この度のご助力まことに感謝いたします。エレン様がいなければこの村は人も畑も全滅するところでした。」

「いえ、被害が少なくて何よりです。たまたま隣国よりこちらの教会に使節団として訪問しているところでしたの。神のお導きですわ。」

「エレン様、このような状況でありお礼ができないことをお許しください。後日必ずお礼をいたします。申し訳ありません。」

 全身泥だらけで目に涙を浮かべた村長に、エレンは首を振り礼の必要はないと伝えた。

「皆様も力を出し尽くしておられますわ。私はたまたま魔力を持ち、出来ることがあっただけです。それにこれで終わりではありませんわ、皆様はまだこれから長い間、家を、畑を復旧させていかなければなりません。そこまで魔法でなかったことにできるほどの力はわたくしにはないのです。お許しください」

「そんな!とんでもありません。これほどの災害で死者が出なかったのです。エレン様がいなければ今頃・・・感謝の言葉しかございません。今この国では各地で大変なことが起こっているのです。私たちは幸運にもエレン様に助けていただけましたが残念ながら無くなってしまった村もあるのです・・・」


 それを聞いたエレンは、教会から王宮に正式に使いをたてて各地の災害の復旧・支援の協力を申し出た。実質的には隣国の教会からの支援となるが、国王はありがたくその支援を受け入れた。


 時がたち、1年ほどすると新たな災害の発生は減っていき、国民の生活も徐々にではあるが前に進んでいった。

 ルーナ王国の騎士団、兵、魔術師たちの活動はもちろんのこと、利益や思惑を超え無心に他国の力になってくれたエレンたちの活躍は王国中に広まり、エレンの人気はうなぎのぼりとなり、王国民から聖女として盛大な歓迎を受けた。


「これまでの災害は人的なものだと?」

 国王は眉をひそめてエレンを見た。

 1年にもわたる自然との闘いに明け暮れた者たちへの慰労と感謝の会を開いた後に国王はエレンから話があると謁見を求められた。

「はっきりとは申せません。ただ気になることが・・・私の気のせいかもしれないのですが、各地を巡っているうちに同じような魔力の残渣を感じたのです。」

「魔法によりひきおこされたと?あんな大災害を起こすほどの魔力を持つものなど存在し得るのか?」

「いえ、特定の災害を引き起こすのは無理だと思います。ただ強い魔力を持つものがその土地に呪いがかかるような陣をしき、何重にも魔術を重ね掛けして強い呪力を発動させることは可能かもしれません。」

「・・・強い魔力とはどの程度のことを言うのだ。ありていに言えばそれを引き起こすことができるのは誰だ。」

「詳細はわかりません。理論上できるのではないかという程度です。ただ、魔力残渣のこともありますし、念のためお伝えした次第です。」


 国王は内密に調査することを決め、魔術宮の中にそれをたくらんだものがいる可能性も考え部外者のエレンたちに調査を依頼した。

 その結果、アリスの師である魔術師イリークが地下牢に捕らえられた。

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