第19話 ライバル現る? 3

「すばるくんが逆ナンとは出世したじゃんか! よしよし、さすがあたしが見込んでる男の子だぜ!!」


 アパートに帰り、カナは早速と言わんばかりに俺が何で夏場原にいたのかについて、根掘り葉掘りと聞いてきた。


 キイと一緒にいたことは言わないでおくとして、それ以外をありのまま全て白状。


 すると、見知らぬコスプレイヤーに声をかけられたことに対し、何故かカナは嬉しそうにしながら俺の頭を撫でてきた。


「間違っても逆ナンパじゃないからね? 多分何かの勧誘だったと思うし……そんなうまい話なんて無いわけだし」

「うんうん、それもそうだね。でもすばるくんはあたし以外に話が出来るのって、キイちゃんくらいでしょ?」

「というと?」

「ぬふ、もちろんコミュニケーションな女子に決まってるじゃないか!」


 残念なことに事実すぎる。もっとも、キイとの会話は会話にもなってないが。


「で、どんな子だったんだい? すばるくんが好きなアニメのヒロインだったから見つめてたんだろ~?」

「……まぁ」


 俺が見つめていたのはカナだった。なんてことは、本人には言えない。しかしあのヒロインコスプレはかなり気合いが入っていた。


 カナが着ればさらに胸元が目立ちそう。


「ちなみにどんな?」

「魔法使いで、結構お色気の……」

「ほぅ! すばるくんはすけべくんだもんね~。その子じゃなくて、色気の方に目が行っちゃうわけか~! なるほどなるほど」


 コスプレイヤーも気になるが、問題は俺のことを知っている口ぶりだったことだ。もしかしてキイの知り合い……なわけが無い。


 可能性としては――


「カナさん」

「何だい? 魔法使い希望かい?」

「じゃなくて、俺のことを誰かに話してたりしてる? それも自慢げに……」

「うえっ!? ゴホンゴホン……ど、どうして?」


 心当たりありすぎというくらいの咳き込みかよ。カナのことだから悪気何てないんだろうけど。


「気のせいかもだけど、俺を知ってる風に話しかけてきたんだよね。そのコスプレイヤー」

「あー……それはたぶん…………」


 気まずそうにしているが知り合いレベルだろうか。


「多分何?」

「あたしを怒らない?」 

「内容にもよるけど、カナさんが悪いとかじゃないんでしょ?」


 怒ったところでって話だけど。


「ん、うん。えーとね、あたしってば最近はすっかりとすばるくんの所にこうして居候中なわけじゃないですか~」

「そうだね」

「そうなると、住所っていうか居場所を知らせる必要がありまして~」

「……誰に?」

「み、みんなに? 正確には仲間? みたいな~」


 みんなとか仲間とか、意味不明だな。俺が勝手にそう思っているだけで、実はカナはまだ専門学校に通っている?


 あのコスプレ女子がアニメ声だったからといって、そうとは限らないが……。

 

「それって声優の……?」

「そうなのですです。バイトで忙しくてサボり気味なんだけど、在籍はしてて……でもそうなるとさすがに大きな顔をしてそっちの部屋に帰れなくて~」


 夢を諦めたという話は置いといても、おそらく専門学校で公式に借りてるマンションには住みづらくて俺のところにお世話になってるって話だな。


「で、俺が住んでるところというか、名前を教えちゃった。で合ってる?」


 カナは何とも気まずそうに無言で頭を下げている。


「それって、声優を目指してる仲間の人に共有されている感じ?」

「んん~あたしが率先して教えたわけじゃないんだけど、男の子の名前ってのが変に勘繰られたのかもしれないなぁ」


 なるほど、大体理解出来た。


 しかしカナはともかく、俺があのコスプレイヤーな人に会う確率なんて無いに等しいし、俺が気にすることでも無さそうかな。


「カナさん。向こうの部屋は引き払うことは無いんだっけ?」

「ええと、ええと……すばるくんがあたしを正式に迎え入れてくれたら、その時は完全にアレかなぁ」

「まぁ、それは聞かないでおくけど。カナさんってバイトしてたんだ?」


 すでに知ってるけど本人から聞いておかねば。


「そうなのだ。すばるくんのお部屋にお世話になるにしても、ただで居候するわけにはいかないわけでして。あたしなりにこの体を使って稼ごうと思ったんだぜ! あっ、もちろんえっちい意味じゃないぜ!」


 カナがメイド服を着て看板持ちというのは、ある意味アレだが。


「分かってるよ。何をしてるかは分からないけど、無理は禁物だぞ?」

「うむぅ。バイトの収入は全てすばるくんの為にしてることだから安心していいぜ!」

「お、俺の為? え、どんな?」

「むふふ……それは明日! 明日すばるくんが学校から帰って来た時に教えてあげようじゃないか! 夏場原の話を聞いたことだし、あたしは自信を持って教えてあげようじゃないか!!」

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