第20話 偶然の人助けからの
夏場原に行った俺が逆ナンをされたことで、カナが妙な自信をつけた。
そんなカナの見送りを受けて登校するも、キイから何か言われることもなく平穏無事な一日だった。
そして今日はバイトの日。
今日は棚卸の日ということで、小さなスーパーの中にもかかわらず、所狭しと外部の人間が電子音を出しながら在庫を数えている。
こういう場合基本的にレジ以外にやることがなくなるわけだが、客も入りづらさを察するのか、かなり暇を持て余す。
「すみません。そろそろ終えるので通路の箱を移動してもらっても……あれっ?」
「あ、はい。え?」
「キミ、天近くん?」
「そ、そうですけど……」
棚卸作業の人、それも女性に知り合いなんているわけもないんだが、いつから俺は有名人になったのやら。
「見て分からないかなぁ?」
「は、はぁ、まぁ」
そう言って女性は何故か顔を近づけてくる。声はやや幼さを残しているが……。
「メイド服の人には再会出来た?」
「――な、何故……それを」
「いつ上がるの?」
「21時くらいです、けど……」
「じゃあそのくらいになったら裏口辺りにいれば会える感じ?」
まさかと思うがそれまで待つというのか。いつぞやのカナみたいな行動をするとか、一体どういう意味があるのやら。
「裏口は人通り少ないのでやめといた方が……」
「大丈夫大丈夫! んじゃ、待ってるね」
棚卸業者の挨拶とともに、女性もそのまま外へ出て行ったようだ。
「天近さん、業者の女性さんと知り合い?」
「知らないっす」
「あ、そうなの? よく分からないけど、気をつけてね」
「ありがとうございます。お疲れっす」
さすがにパートの女性には動向を見られていたか。といっても、俺が何かしたわけじゃないし気にすることでも無いけど。
シフト上がりの時間になったところで、ゴミ出し以外で出入りすることが無い裏口に行ってみることにすると――何やら声が聞こえる。
「そういうんじゃないです! だから結構ですってば!」
「金に困ってるんでしょ? だから誘ってやってんだけど、オレ間違ってること言ってる?」
「全然正解じゃないです。わたし、ここで待ってるだけなので放っておいてください!」
「2じゃ足りないなら、もっと足すぜ?」
何やらやばめな男に誘われているようだ。だから裏口は立ち入っちゃ駄目なのに。とはいえ、いくら裏通りでもスーパーの裏口でこういう行為は黙っていられない。
勝てる見込みは無いけど、カナ仕込みの勢いで出るしか無さそう。
「わ、悪ぃ~待たせた!!」
「……遅いよぉ! ほらほら、早く行こうよ!」
自然に腕を絡めてくるとか、それは逆効果なのでは。
「あん? 誰だてめぇは! 横取りしようとか舐めてんじゃねえぞ?」
そう言いながら、男は威嚇のつもりで俺の頬の辺りに拳を突き出してみせる。
「――つっ! そうじゃなくて。ここは裏口なんですけど、あちこちにカメラがありましてすでに通報行ってますけど大丈夫っすか?」
「ちっ。くだらねえ……」
裏口にカメラがあっても即座に通報なんてされないけど。しかしただのナンパ野郎だったらしく、あっさりといなくなってくれた。
物理的な行動を取られたらとてもじゃないが、俺ではどうにも出来ない。
「さすが天近くんだ~! きっと助けてくれると信じてたよ! ちょっとかすめたけど、痛くない?」
「殴られるのは慣れて……じゃなくて嫌なんで、避けるのは得意だから大したこと無いです。もっと攻められていたら俺は逃げてましたし」
「ううん、キミならそんなことしないよ。話に聞いてたとおりの男の子だろうしね!」
話に……ということは、やはり間接的に俺を知った感じか。しかもこの声、あの時
夏場原にいたコスプレ女子そのものだな。
普段は少し声を抑えてるようだけど。
「すでに知ってるみたいなんですけど、俺は天近すばるって言います。えっと……」
「わたし、木ノ本みのりです。よろしくね、
どういう略し方なんだそれは。
「それで俺のことはもしかしてですけど――」
「あ、聞いてる? キミだよね、カナちゃんが居候してる男の子って」
「……そうなりますね」
やはりカナと同じ専門学校の人か。しかし何で俺に声をかけてくるのやら。カナは多分このことを知らないだろうし、厄介なことにならなきゃいいけど。
「わたしもお邪魔していい?」
「はっ?」
「だから、ちかくんのお部屋に!」
「無理ですよ。知り合いでもないし、そんな簡単に教えるわけ無いと思いますけど……」
そもそもアパートに帰れば何かを企んでいるカナが控えているし、こんな無謀な訪問を許せるはずが無い。
それにしたって、カナの知り合いはみんなこんな強引タイプとかじゃないよな?
「じゃあ近くのコンビニまでならオッケー? いい、よね?」
カナと同じくらいということは年上になるが、上目遣いとかの武器は使い慣れてる感じだ。カナと違い、甘い声だから余計に心が乱されそうになる。
「何がいいのか分からないですけど、そこまでならまぁ……」
「ほい、決まり~!」
よほど嬉しいのか、彼女は腕を絡めたまま離れようとしない。アパートに行かないとはいえ、こんなところを誰かに見られなければいいが。
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