第14話 アブない装備!?

「お疲れ様でしたー!」


 夏休みに突入する前の土日祝日。


 平日シフトを減らしていた分を取り戻す為、俺は休み全てをバイトで消化していた。あまり納得していないが俺の部屋には今現在、幼馴染のカナが気ままに入り浸っている。


 自由に部屋に出入りすることを俺に認められたカナは、俺が学校に行っている時間は自分の用事を済ませていて、部屋で何かやらかす暇は無いらしい。


 現状は俺の部屋に入って俺の帰りを待っているにとどまっている。

 本人曰く、


「少年よ、安心するがいい! こう見えてあたしもそんなに暇を持て余しているわけじゃないんだぜ?」


 どうやら俺が厳しく注意したことで、やることはやっているらしい。夢は諦めたらしいが、専門学校には顔を出しているとかなんとか。


 妹のキイには俺より詳しいことを話したみたいだが、わざわざあいつに話しかけるという危険なことはしたくなかったので、詳しい事情は分からないままだ。


 そんなこんなで、祝日終わりのバイトを終えて部屋に戻る。


「カナさん、ただいまー」


 今までは何も言わずに自分の部屋に帰って来ていた。しかし今はカナがいることが判明しているので、「ただいま」を言いながら入っている。


 手荒いうがいを済ませ、とりあえず部屋に向かおうとするが。


「ん? 何だこれ……」


 どういうわけか部屋に近づくにつれて、部屋着や靴下などが脱ぎっぱなしのままで散乱している。


 片付けるでもなく放置してある時点で、部屋の中で明らかに何かが起きていそうな予感があった。


 予想しながら部屋に近づくと、何故か部屋の照明を落とされた。


「何で部屋を暗くして――まさかまたですか!? 着替えしてるんならいったん出ます!」


 カナは俺の前でも恥ずかしがることなく生着替えをする人だ。しかしそれは俺が嫌だったので、着替えをする時は部屋の電気を消してもらうことにしていた。


 それなのに、


「まてぇい!! そんな露わになってないんだから焦るでないぞ、少年。ここは君の部屋なのだから堂々と見るがいい!」


 また訳の分からない堂々しさを発揮してるな。


 いくら俺の部屋だからってカーテンで仕切ってるでもない部屋の中、それも暗闇の中で着替えしてたらさすがに気を遣うだろ。


 しかしカナの言うとおり、よく目を凝らすとカナが恥ずかしがるような姿にはなっていない。


「はぁ……ところで玄関のアレは何なんすか? いくらカナさんでも怒りますよ?」

「おおぅ、すばるくんごめんよ。着替えようとしたら宅配が来て、慌ててしまったのだよ! すぐに片付けるから許しておくれ」

「宅配? 何か頼んだんですか?」


 俺の部屋に住所を移して来たでもないはずなのに、何故届くのか。


「ぬふ。それはすぐに分かるぜ! いくぜ、すばるくん!!」

「――はい?」


 生着替えもとい、特に恥ずかしがるような着替えをしていないカナは、何かをするつもりなのか投手の構えを見せる。


 その直後、


「でりゃあ~!!」


 気合いの声を張り上げながら、何かを俺に投げつけてきた。


「んぶっ!? つ、冷たっ――な、なんだこれ……光ってる?」


 何が投げつけられたのか分からないものの、顔全体を覆うは適度に粘着性があってくっつくでもなく、電気を消した部屋の中で蛍光色に輝いている。


 感触的にぷよぷよとした何かだ。


「大成功~! どうだい、あたし特製すらいむの感触は」

「すらいむ……すらいむって、またマニアックなおもちゃを……」


 何を頼んだかと思えば、すらいむ作製の原料で自作するとは。


「うむ! そこはやっぱり形から入ろうと思ったのだよ。いずれすばるくんがそれを使ってお楽しむには、必須のアイテムだったのだ~!」

「……俺が何を楽しむって?」

「もちろん、魔物として襲う時のアイテム」

「魔物? 俺が魔物になってカナさんを襲うとでも?」


 おかしなことを言う人なのは理解済みだ。だが今度はアイテムにまで手を出した挙句に、俺を人間から魔物にしたいらしい。


「もちろんだとも! すばるくんはピュアな男の子だから、きっと理由も無くあたしなんかを襲わない。でもアイテムの力があればきっと襲いたくなるに決まってるのだよ!」


 どういう理屈なんだ。


「襲ってもらいたい願望でも?」

「おおぅ、ストレートすぎるぞ! そうじゃなくて、すらいむは露わになりそうなところを守るものでもあるのだよ。お分かりかな?」


 露わになりそうなところ……嫌な予感しかしない。


「何となく分かりますけど、襲いませんよ?」

「じゃあお風呂で使うぜ! それならすぐに流せるし、すばるくんも驚かない!」

「まあ、それならいいのかな……汚れるわけでもなさそうだし。とりあえず部屋の照明をつけますよ?」

「うんうん! 構わねえぜ」


 ――と言われた俺は完全に油断していた。


「――!? えっ……それ、その格好――何も着けてないとかじゃ?」


 暗闇ながら服は着ていたと思っていたのに。


「着けてるぜ!」

「いや、それはすらいむで隠してるだけでそれ以外はどう見ても……」

「ほほぅ。目が行くということは、すばるくんはやっぱりすけべくんだったわけだな!」

「絶対違うっ!!」


 投げつけてきた蛍光色すらいむとは別に、カナは一番隠すべきところに真っ黒いすらいむをくっつけているだけだった。


 もしかしてこの人、俺を挑発してるつもりなのか?

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