第13話 ドヤるお姉さん

 妹のキイに対する姉の威厳を感じられたのは良かったが、たとえ単独で来ることが無いとしても、キイに俺の居場所がばれてしまったのは失敗だった。


 殴られたくなかったから返事をしてしまったとはいえ、カナを部屋に置くことを反対するすべが無くなってしまった。


 それはともかく、


「……ふん、いい気になるなよ? 天近すばる」


 相変わらずキイだけは俺に厳しい言葉を放っている。そしてフルネームで呼ぶこともやめてくれない。


「一応聞くけど、俺の部屋に来ることは無いんだよな?」

「誰が好き好んで来るか、バカ! ――あっ、えっと……安心していいです。わたし、あなたに興味無いので」


 キツい口調から一転、どこかの視線を感じたのか事務的対応で返された。視線の正体は、すでに好き勝手にアニメ再生をしているカナからだ。


 カナがそばにいる限り、妹から何かされることはなさそうで一安心……か?


「ふぅ~……キイは帰りましたけど、本当にいいんですか? カナさ――ま、待て待て待て!! そのアニメは秘蔵中の秘蔵で奥にしまっていたのに、何で見つけてるんですか!!」


 部屋に置くのは仕方が無いとしても、主にアニメ関連の趣味で固めた部屋を物色されるのは想定外。


 当然ながらマル秘的なアニメも保管している。それだけに同居人が増えたのは、厄介以外何物でもない。


「ほほほぅ……! このディスクだけ何も書いて無いということは――アレかな? アレなのかな!?」

「わーーー!? そ、それは駄目ですってば!!」

「おおぉ!? 突然迫りくる少年の手があたしを襲おうとしている! 望むところだ!」

「……何もしませんよ。でも、この無印なディスクに触れたら問答無用で出て行ってもらいますんで!」


 だけは見られるわけにはいかない。たとえキイにボコられる運命が待っていたとしても。


「むぅ……すばるくんがマジギレとは……お姉さんは素直に驚いたよ。レアなアイテムを手に入れたあたしの喜びを一瞬でかき消すなんて、マジなのだね?」


 何が本気なのかは答えたくないが、ここは本気で頷いておく。


「カナさん。俺の部屋にいてもらうのはこの際仕方が無いですけど、最低限のお約束だけは守ってくださいよ? 以外は細かく言わないようにするので」

「お、おおぅ。もちろんだとも! すばるくんの貞操はあたしが守るぜ!」

「……とにかくそれ以外の、食事なんかも俺が作るのでカナさんは気楽に部屋にいてくれるだけでいいですから」


 どこまで本気なのか分からないし様子見だな。

 それに、


「おおおお! だからすばるくんは大好きなんだぜ~!!」

「ところで、向こうの部屋の問題はどうなってるんですか?」


 俺に対し好きとか気楽に言ってくるカナは、俺のことをあくまで年下の男の子くらいにしか思っていない。それならそれで俺も聞くべきことは聞いておかなければ。


「向こうの部屋……う、うむぅ。きちんと解決しておくぜ? 本当なんだぜ?」

「それならいいですけど。あと、もうすぐバイト忙しくなるので、カナさんの相手が出来なくなるんですけど、部屋の鍵とかどうします?」


 合鍵は作ってないからマスターキーを預けるしかない。


「ほぅ! さすがは勤労少年。鍵はもちろん、あたしが預かっておこうじゃないか!」

 

 まるで勝ち誇ったようにカナは腕組みをして胸を張っている。そしてたわわな胸が腕の間から存在をアピールしまくりだ。


「……自覚してくださいよ、本当に」

「む?」


 俺の言葉を理解しているのかしていないのか、可愛く首を傾げている。


「カナさん、まさかと思うけどわざとじゃないんでしょ?」

「何のことだい? あたしは変わらないぞよ。それはすばるくんがよく分かっているんじゃない?」

「まぁ、いいですけど」


 キイの存在を恐れての影響で、カナを部屋に置くことになってしまった。


 マル秘ディスクのことは釘を刺しておいたからいいとして、俺がいない部屋で大人しく留守できるのかどうか――それだけが不安だ。

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