第12話 姉妹の逆襲 後編
「さぁて、すばるくんをどう料理してやろうか~ぬふふ……」
「もう激辛料理は勘弁して欲しい……」
「おおぅ、そっちの料理じゃないんだけど、少年はまだ純真無垢なのだね?」
「はい? え、どういう意味で?」
カナに対しその意味を詳しく聞こうとするも、間近に迫ると肌部分が透けて見えそうなのでうかつに近づけない。
何を言っているのかは不明だが、カナ本人は俺の反応にご満悦のようだ。
「ぬふ……どうやらあたしの方が大人なようだし、手を出しちゃうぞ!」
「いやっ、ちょっ――」
――などと、襲いそうで襲い掛かってこないカナの相手をしていたところで、玄関のドアが何かで叩かれたような音が聞こえてきた。
いつもならバイトが終わる19時を過ぎる時間で、外は薄暗くなっているはず。それなのに誰が俺の部屋を訪れるというのだろうか。
「んんん? すばるくん、誰か来た感じ?」
そんなはずは無いんだが。
「さ、さぁ……
「もしや、やっぱり隠れ彼女がいるのだな!? あたしという女がいながら~!!」
「やっぱりも何もいませんって! って、カナさんを部屋に入れている時点でおかしいでしょ」
俺の部屋を訪れる人間は基本的にデリバリーか郵便くらいで、親が来ることは無い。それ以外に思い当たるのは、まさかと思うが……まさかだよな?
嫌な予感を感じつつ、ドアを叩く音が微妙に大きくなってきているので開けて確かめることにする。
インターホンを鳴らさず声すら発していない時点で確定しそうだが。
「あ、開けますよ?」
「いいとも! すばるくんはあたしが守る!!」
「いや、下着姿で出たら駄目ですって! 奥に引っ込んでてくださいよ」
俺がカナを制する声が聞こえたのか、叩く音がさらに強くなった。これはもう、間違いないと言っていい。
意を決してドアを開けると、冷気のような涼しい風とともに彼女が強引に割り込んできた。
「まっ――」
止める間もなく俺の部屋に上がり込んで来たのは、カナの妹であるキイだ。どうして俺の部屋まで来れたのか分からないものの、俺の力では止められなかった。
勝手に奥まで上がり込んだところで、キイはすぐに俺の前に戻ってきた。キイのそばにはカナの姿がある。
隠れるところと時間が限られていたし、隠れられなかったのは仕方が無いか。
「天近すばる……お姉ちゃんに何を……した?」
「な、何もしてないぞ。だよね? カナさん!」
「…………」
「――って、何で黙ってるの!? それは本当にシャレにならないんだって!」
さっきまで散々俺を守るとか言っていたカナが、どういうわけか黙り込んだままでキイの顔と俺の顔を交互に見て様子をうかがっている。
助けを求めようとキイの横にいるカナを必死に見つめると、カナは舌を出しながら嬉しそうに微笑んだ。
この期に及んで逆襲か?
「どれくらいの強さがいい……? 5発? それとも気を失うまで……」
「ちょちょちょ!! そ、その前に、どうやってこの場所が?」
「お姉ちゃんがいるところならどこでも分かるのは当然なんだけど?」
溺愛のレベルを超えてるぞ。
「う、嘘だろ……?」
「――嘘っていうわけでもなくて、GPS追跡でここだったから来ただけ」
それはそれで恐ろしすぎるだろ。前提が確定なのか、キイは殴る準備の如く指を鳴らしてるし怖すぎる。
「カナさん! 俺のことをどうにか考えているなら何か言って!!」
「おおぅ、それはアレだね? アレを認めて置いてくれるのだね?」
「アレって何の……」
「すばるくんが素直に返事をしてくれたら、あたしがどうにかしてあげようじゃないか! さぁ、返事は?」
今になって俺に逆襲してるつもりなんだろうか。それもよりにもよって、キイが侵入してきた時に。
一体何のことなのかさっぱりだが、カナの力を借りないと妹の暴走は絶対に止まらないし止められないのは明らかだ。
「……くっ、お、置きます。置きますよ! 素直に認めるので何とかしてください~」
答えが不明なままで不安すぎるが、キイにボコられるのはごめんだ。カナはともかく、キイとは学校でも顔を合わせる必要があるしどうにもならない。
「ふははは!! 認めたね? よぉしよしよし……キイちゃんも聞いたね?」
「え、うん」
認めざるを得なかったが、これでどうなるんだ?
「そういうわけだから、キイちゃんは今後、すばるくんに手出し厳禁ね?」
「で、でも、こいつがお姉ちゃんに酷いことを――」
「……キイ。返事は?」
「――は、はい。ごめんなさい!!」
「よろしい」
なるほど。このへんはさすが姉の貫禄と迫力といったところか。カナの凄みでキイはすっかり消沈している。
今のうちに答えを聞かねば。
「えーと、それでカナさん。アレって何?」
「もちろん、あたしをこの部屋に置いてくれるという意味だよ!」
「うへっ!? ど、どうしてアレってだけでそんな解釈に?」
「あたしは初めからそのつもりだぜ! キイちゃんも認めてくれたことだし、何の問題も無いのだよ」
一瞬だけキイが俺に睨みを利かせるが、すぐに体を震わせて視線を逸らした。姉に逆らえないようで、カナの言葉に静かに頷いている。
妹の襲撃は予想外かと思いきや、俺に返事をさせるつもりで呼んだのだとしたら、アホの子のように思っていたカナが一番侮れないのでは。
「そんなわけで、すばるくん」
「よろしく頼むぜ!!」
「……そ、そうですね」
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