第50話 フルーツドラゴン
まだ陽射しが柔らかな午前中。お庭で寛ぐ僕たち親子3人。とても和やかな雰囲気だ。
ママドラゴンは、人間の姿でお庭の芝生の上に座り、僕はママドラゴンの膝の上に座っている。パパドラゴンはドラゴンモードでお庭で横になっていた。パパドラゴンにとって人間の姿は、少し窮屈な感じがしてあまり好きではないらしい。
そんなパパドラゴンが、僕とママドラゴンを見ながら口を開く。
『ルー、今日は狩りに行こう』
「ルー?」
そんな「一狩りいこうぜ!」みたいな軽いノリで誘われても……。だいたい狩りって何をするんだろう?
「ルーも、もう魔法やブレスを使えますからね。狩りの練習をするのもよいかもしれません」
そう言って僕の頭を撫でるママドラゴン。魔法やブレスを使うってことは、戦う感じなのだろうか?
「ウー……」
“嫌だな”そんな気持ちを込めて鳴いてみる。
僕は争い事が苦手だ。ケンカとか嫌いだったし、人が争うのを見るのも苦手だった。僕は、例え相手が食用に育てられたニワトリとかブタだとしても、命を奪うことに抵抗がある。お肉は美味しく食べるクセに、じゃあ、実際に動物を殺してみようとなると二の足を踏む。僕はそんな、よく居る普通の人間だったのだ。そんな僕が、命の奪い合い? 正直、無理なんじゃないかな。
「狩りもできないようでは、一人前のドラゴンにはなれませんよ?」
「ウー……」
たしかに、狩りもできなくては野生では生きていけないだろうけど、僕にはこの国がある。ご飯は一流の王宮シェフが作ってくれるのだ。だから、僕は狩りなんてできなくてもいい。
「どうしても嫌みたいですね……」
『初めてのことだからね、不安に思っているだけさ。それじゃあ行くよ』
パパドラゴンがそう言うと、突如として目の前の景色が、テレビのチャンネルを変えたかのように切り替わる。
「クァッ!?」
さっきまで、たしかに離宮のお庭に居たはずなのに、目の前には鬱蒼としたジャングルが広がっていた。ここどこ?
『それじゃあルー。私たちは後ろで見守っているから、自由に動いてごらん』
「危ない時はいつでも助けますから、安心してくださいね」
「クァー…」
どうやらパパママドラゴンは、本気で僕に狩りをしてほしいらしい……。
◇
どうにかパパママドラゴンを説得しようとしたけど、パパママドラゴンは頑なに譲らなかった。僕は説得を諦めて、仕方なく狩りをすることにしたんだけど……まず獲物が見つからない。空を飛んで、ジャングルを上から見下ろすだけでは、木の葉っぱに隠れて獲物が見つからない。これはジャングルの中に入るしかなさそうだ。できれば、上空から一方的に攻撃して仕留めたかったんだけど……ままならないなぁ……。
僕は仕方なく高度を下げると、木の間を縫うようにしてジャングルの中へと入る。
ジャングルの中は、鬱然とした。木々が太陽の光を奪い合うように枝を広げ、ジャングルの中は暗い。僅かに零れた太陽の光に群がるように草が蒼蒼と生い茂っいる。木の葉っぱで蓋をされているからか、むあっとした熱気がこもっていて、日本の夏をより酷くしたような不快な暑さだ。
「ウー……」
思わず、声にならない声を上げてしまう。
『ルー、とりあえず獲物を見つけてみよう。足跡や糞なんかは手掛かりになるよ。他にも木に付いた傷なんかもヒントになるよ』
『ルー、がんばって!』
パパママドラゴンが、僕の様子を見ながら応援やヒントをくれるけど、僕にそんな足跡や糞から獲物の場所を分析するなんて猟師さん的なスキルは無いよ。
「クァー……」
これは地道に足で探すしかないかなと諦める僕の鼻に、何か甘い香りが漂ってきた。
「ルー……?」
何の匂いだろう? 僕は鼻を鳴らして匂いの元へと飛んでいくと、木に赤いトゲトゲの実が生っていた。この実から甘いトロピカルな匂いがする。これって食べれるのかな?
『それはデュリオの実だね。甘くて美味しい木の実だよ。いくつか回収するといい』
『今夜のデザートにしましょう』
どうやらこの木の実、美味しいらしい。さっそく採ろうと、赤いトゲトゲの実に近づくと、意外と大きいことに気が付く。僕の体よりも大きな木の実だ。これを採ったところでどうしよう? こんなの持って飛ぶのは面倒だな。一度パパママドラゴンの場所まで戻ることになるのなら、回収は諦めた方が良いかもしれない。
「クー……」
どんな味か興味はあるけど、今回は諦めよう。そう思っていると、僕の目の前の空間に黒い穴が開いた。
『ずっと持っているのは大変だろう。この中に入れるといい』
どうやらこの黒い穴はパパドラゴンの仕業らしい。何がどうなっているのか、原理がまるで分からないけど、この中に木の実を仕舞えるようだ。
僕は赤いドリアンのような木の実を採ると、黒い穴の中へと仕舞っていく。けっこうあるな。全部採っちゃおう。
その後も、僕は甘い匂いに導かれるようにたくさんのフルーツを見つけて採取していくのだった。中にはすっごく臭いのもあったんだけど、すっごく美味しいらしい。食べるのが楽しみだ。
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