第51話 ドラゴンブレス改
フルーツや木の実などを採取しながらパタパタと飛ぶこと30分くらい。ソイツはいきなり木の影から現れた。
「クァッ!?」
気付いた時にはもう手遅れだった。目の前には大きく開いた咢と鋭く尖ったノコギリのような乱杭歯が広がる。
あ、これもうダメなやつですわ……オワタ。
ガチンッ!!!
硬い物が激しくぶつかり合うような音と共に、僕の体に衝撃が走る。喰われた…!?
あまりの大怪我に感覚がマヒしているのか、痛みは感じなかった。ただ喰い千切ろうとしているのか、上下から挟まれるような感覚がする。
一度、咢が大きく開き、再び勢いよく噛まれる。
ガチンッ!!!
このまま僕は正体も分からない化け物に喰われてしまうんだ……短いけど楽しい龍生だったな……。
僕を噛み潰そうと、ノコギリのような鋭い乱杭歯が、ガジガジと上下左右に動かされる。きっと僕の体はもうぐちゃぐちゃだろう。僕は目を閉じて願う。もう一思いに飲み込むか、頭を噛み潰すかして終わらせてほしいな……。
そう思ってもなかなか最後の時は訪れない。
『ルー、君は何をしてるんだい?』
『ひょっとして驚いて固まっているのかしら?』
そのまましばらく咬まれ続けていると、パパママドラゴンの言葉が届く。2人とも随分と落ち着いている。今あなた方の息子が化け物に喰われてるんですけど!?
さすがに僕も様子がおかしいと思い始めて、勇気を出して自分の体を確認してみる。
そこには、傷1つ無い白銀のドラゴンボディが輝いていた。
え? 無傷? あんなに咬まれていたのに無傷?
いや……うん。なにかおかしいなとは思っていたんだけど……無傷とは思わなかった。普通ならもっと早く気付いてもおかしくはないけど、いやだって、ぐちゃぐちゃの自分の体とか見たくないじゃん? 目を逸らい続けてたんだよね……。
これはパパママドラゴンも暢気にしているわけだわ。だって無傷だもんね。無傷なのに死を覚って諦めてしまったよ。ガジガジと咬まれ続ける僕は、客観的に見たら酷く間抜けではないだろうか? ちょっと恥ずかしい。
「クァッ!」
僕は咢が開いた瞬間に飛び立ち、敵の咢から逃れることに成功した。そのままジャングルの木々の上まで飛び上がり、後ろを振り返り、敵の姿を確認する。
「クァッ!?」
赤ちゃんドラゴンである僕にダメージも与えられないのだから、どんなザコモンスターかと思えば、敵は大きな咢を持ったティラノサウルスのような恐竜だった。めちゃくちゃ強そうだけど!? なんでこんなのに咬まれて僕は無傷だったんだ!?
『相手はイラノサウロスだね。空も飛べない竜の風上にも置けない奴だ』
『美味しくないですから、さっさと片付けて他の獲物を探しましょう』
パパママドラゴンは相変わらずのんびりとしている。僕の勝利を疑っていない感じだ。僕はこの恐竜に勝てるのか……?
体格の差は歴然。力では勝てそうにない。パパドラゴンが「相手は飛べない」って言ってたし、このまま上空から遠距離攻撃で安全に仕留めよう。咬まれても無傷だったけど、油断して良いことなんて無い。
「クァァアアアアアアアアアア!」
僕は息をいっぱい吸い込むと、魔力を籠めて勢いよく吐き出す。ドラゴンと云えばこれ。ドラゴンブレスである。
大きなガスバーナーをイメージした、勢いのある青い炎のドラゴンブレスが、イラノサウロスの大きな顔を飲み込む。
「GYAU!?]
ドラゴンブレスを浴びたイラノサウロスが、ブレスから逃れようと暴れて逃げ出すけど、僕はそれを追いかけてブレスを浴びせ続けた。この調子なら勝てるかも。順調だと思ったのだが……。
『ルー、あまり苦しめてはいけないよ。一思いに殺ってあげなさい』
『そうですね。そんなに弱いブレスでは、いつまで経っても倒せませんよ』
僕としては最大火力の攻撃のつもりなんだけど……パパママドラゴンには、そうは見えないらしい。もしかしてだけど……僕のこのドラゴンの体は、僕の想像以上に強いのではないだろうか……?
僕は勝手にこのドラゴンブレスが最大火力だと思っていたけど、僕にはもっと強い攻撃ができるらしい。
ガスバーナーより強いとなると……何だろう? レーザー光線とか?
僕は一旦ガスバーナーブレスを止めると、試しにSFの世界にあるような高出力のレーザー兵器を想像しながらブレスを放つ。
チュンッ!!!
僕の口から白い光の線が走ったと思ったら、白い光はイラノサウロスの頭を貫通し、地面に到達する。白い光の当たった地面は、白熱し融解し始めた。なにコレ怖っ!?
自分の予想以上の威力に驚いていると、白い光に頭を貫かれたイラノサウロスの体が、突然支えを失ったかのようにバタリと倒れ伏した。どうやら倒したっぽいけど……いやいや、さっきのドラゴンブレスの威力ヤバすぎるでしょ!? こんな危険なブレスもできちゃうのかよ!? そりゃ、パパママドラゴンがもっと強いブレスを撃てって言うわけだ。
『よくやったね。この調子でどんどん狩りを続けよう』
『よくやりましたね。すごいです。次は美味しい獲物を探しましょう』
パパママドラゴンが僕のブレスを見ても驚いていないってことは……これぐらいできて普通なのだろう。
「クー……!」
どうやら僕の体はとても強いらしい。思えば、咬まれても傷1つもできなかったもんなぁ……。この一見強そうなイラノサウロスとは、生き物としての格が違うのだろう。僕は思ったよりもとんでもない生き物に転生したようだ。
僕が倒したイラノサウロスの死体が突如として現れた黒い穴の中に沈んでいく。
『イラノサウロスは不味いよ。そんな物とっておいてどうするんだい?』
『せっかくルーが初めて仕留めた獲物ですもの。後で剥製にでもしようかと』
『なるほどね』
どうやらママドラゴンがイラノサウロスを黒い穴の中に入れたらしい。あんなに大きな物まで入るなんて、あの黒い穴便利だな。後でやり方教えてもらおう。
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