第48話 ママドラゴン③
「本当に胸が好きなんですね」
「クー!」
ママドラゴンの言葉に、僕は元気に頷いた。認めよう。僕はおっぱい大好きのおっぱい星人であると…!
ママドラゴンのおっぱいは、大きすぎず、小さすぎず、バランスの良い美乳だった。触るとふわふわと柔らかくて温かい、それでいて、僕の手を押し返すハリもある。もにゅもにゅとずっと触っていたくなるおっぱいだ。僕は触るだけでは飽き足らず、おっぱいに頬ずりしたり、おっぱいの谷間に顔を埋めたりした。おっぱいの谷間に顔を埋めると、温かくて柔らかいものに顔中包まれて、最高の気分だ。良い香りもするし、鼓動の音を聞いていると、なんだか安心してリラックスする。なんだか眠たくなってきちゃったな……。
ママドラゴンは、そんな僕を慈愛の瞳で見つめ、僕の頭や背中を優しく撫でてくれる。聖母かな? いや、女神か。
「さて……」
ママドラゴンの言葉には、和やかな雰囲気に似つかわしくない冷たさがあった。
「面を上げないさい、アンジェリカ・シド・ブリオスタ。わたくしからルシウスを奪った大罪人よ」
◇
わたくしの言葉に、これまで息を殺すように潜めて平伏していたアンジェリカの体がビクリッと震えました。そして、おずおずとした様子で顔を上げます。
この娘がアンジェリカ・シド・ブリオスタ。なるほど。知ってはいましたが、なかなか美しい少女ですね。幼い顔立ちのわりに、意思は強そうです。その青い宝石のような瞳が、逃げずに真っ直ぐわたくしを見つめます。
この女こそ、わたくしの元からルシウスを奪った張本人。
そして、このわたくしに醜い嫉妬の炎をもたらした女でもあります。
わたくしは、ルシウスと共に喜び合って生きる、この女が羨ましかったのです。本来なら、その場所は母親であるわたくしの場所なのに。それを奪ったこの女が妬ましかったのです。
わたくしからルシウスと共に生きる時間を奪ったことは、とても許し難い暴挙です。
でも……。
「クー!クー!」
わたくしの言葉に、ルシウスが慌てたように腕の中で騒ぎだします。きっとアンジェリカを擁護しているのでしょう。
誘拐された被害者であるルシウスは、誘拐した本人であるアンジェリカのことを、とても気に入っています。もしかしたら、母親であるわたくし以上に心を許している可能性も……。ますます許し難いです。
ですが……。
「ですが、わたくしは貴女を許しましょう、アンジェリカ」
アンジェリカが目も瞠って驚きの表情を浮かべる。アンジェリカ自身も許されることは無いと思っていたのでしょう。ですが、許してあげます。
召喚の魔術陣が、ルーの了承が必要なものであったこと。アンジェリカのルシウスへの態度が愛情あふれる親切なものであったこと。親から離れた環境に置かれることで、ルシウスの自立の一助になったこと。ルシウスに著しい成長が見られたこと。などなど全てを勘案して、大負けに負けて許してあげることにします。下手に処分をして、ルシウスが機嫌を損ねたらいけませんからね。
「寛大なお心に感謝致します、カイヤ様」
そう言って頭を下げるアンジェリカ。
「ルシウスにも感謝しなさい。もしルシウスが泣いていたら、わたくしは貴女を許していませんでした」
「はい。ルシウス様の強いお心にも感謝致します」
「クァー……」
アンジェリカの言葉に、ルシウスが寂しそうな声を上げる。今まで「ルー」と呼ばれていたのに、いきなり「ルシウス様」と呼ばれて戸惑っているのかもしれません。あるいは、心の距離が開いてしまったように感じて寂しいのかもしれません。こちらの方がありそうですね。
思えば、ルシウスにとってアンジェリカは、初めてできた対等な友達とも云えるのかもしれませんね。その関係をわたくしの一存で壊すのも可哀想かしら……。
わたくしが第一に願うのは、ルシウスの幸せです。そのためなら、アンジェリカを許し、重用するのも厭いません。
「アンジェリカ、貴女をルシウスのお友達兼お世話係に任じます」
「ッ……!?」
アンジェリカが息を呑むように驚く。罰せられると思ったら、許され、お咎めなし。それどころか、ルシウスのお友達に任命される。アンジェリカが驚くのも無理はありません。
「アンジェリカ、わたくしは貴女のルシウスへの献身を高く評価しています」
「お褒めに与り、恐悦至極です。ルシウス様のお友達兼お世話係、喜んで拝命させていただきます」
アンジェリカが頭を下げて畏まる。
「ルシウスへの態度は、今まで通りで構いませんよ」
アンジェリカが、また驚いたように目を見開く。
「よろしいですか? 不敬に当たるのでは……?」
「構いません。ルシウスもそれを望んでいます。そうでしょう、ルー?」
「クー!」
ルシウスが勢いよく頷いたことで、アンジェリカが安堵したように息を吐く。
「不束者ではございますが、これからもよろしくお願いしますね、ルー」
「クー!」
今回のルシウス召喚事件は、わたくしにとっては不本意なものでしたけど、ルシウスにとっては、実りあるものでした。外の世界を知り、魔力の扱いを覚えて、初めてのお友達までできました。ルシウスの成長は著しいです。
願わくば、ルシウスがこのまま健やかに育ちますように。わたくしは、そう願わずにはいられませんでした。
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