第23話 なんでもドラゴン

 その後、身支度を整えたアンジェリカと楽しくお茶をしていると、黒髪巨乳のメイドさん、アンネがやって来た。


「ルー様、姫様、ご歓談中のところ失礼致します。姫様、アンブロジーニ侯爵夫人がお見えになりました」


 ご歓談といっても、アンジェリカが話をして、僕が相づちに頷いたり鳴いたりするだけだけどね。アンジェリカの話は、主にこの国についてだった。この国は『ブリオスタ王国』といって、人間の住む土地である人間界の西部中央に位置する国らしい。国の西側は、海にも面していて、他国との交易に熱心な国のようだ。丁度人間界の中央に位置しているため、この国には、北の産物から南の産物まで、ありとあらゆる物が集まるという話だった。


 これは僕の予想だけど、ブリオスタ王国は交易で巨万の富を得ている裕福な国なんだと思う。お姫様の使い魔、ペットである僕にもこんなに良くしてくれるくらいだ。それくらい余裕があるんだと思う。


「もうそんな時間ですか……。分かりました。応接間にご案内してください」

「かしこまりました」


 どうやらお客さんらしい。アンブロジーニ侯爵ってどこかで聞いたような……たしか、アンジェリカにガチ恋の宰相のおじさまがそんな名前だったような……。夫人ってことは、あいつ結婚してたのかよ。まぁ貴族だし、それも侯爵様だし、結婚しないわけにはいかないか。たぶん子どもも居るだろう。貴族って血統意識というか、お家大事みたいな意識高そうだし。


 妻子がある身で、お姫様であるアンジェリカにガチ恋……。もしかしたら、あのおじさまも政略結婚の被害者なのかもしれないな……。結婚して子どもも儲けたけど、妻を愛せなかったとか……。


 うーむ……。想像の中でどんどんとドロドロな宮廷ラブロマンスが展開されていく。この思考は、ここでカットだ。想像に想像を重ねても意味は無い。


「ごめんなさいね、ルー」


 アンジェリカが、少し寂しそうな表情で僕に謝る。


「ルー?」


 僕は首を傾げることで応える。アンジェリカはなにを謝っているのだろう?


「これから礼儀作法や教養のお勉強の時間なのです……」


 なるほどね。一国のお姫様たる者、たしかに礼儀作法や教養も必要だろう。そして、勉強中は当然だけど僕に構えない。僕もアンジェリカの勉強を邪魔したくはない。寂しいけど、僕は頷くことにした。


「後のことはクレアに任せます。クレア、よろしくお願いしますね」

「かしこまりました、姫様」

「クー」


 僕もクレアに“よろしく”と鳴いておく。


「ルー様、よろしくお願い致します」


 クレアもニッコリと僕に笑いかけてくれた。相変わらず素敵な笑顔だ。僕が人間だったら思わず赤面していただろう。


「そろそろ向かわないと……。ルー、ちゃんと良い子にしてるんですよ。あまりクレアを困らせないように」

「クー」


 僕はアンジェリカに頷いて見せる。大丈夫。クレアを困らせたりしないさ。


 アンジェリカがメイドさんたちを引き連れて部屋を後にする。その最後の最後まで僕を心配そうに見つめていた。思えば、アンジェリカとこうして離れ離れになるのは、これが初めてかな。アンジェリカが心配するのも分かる気がする。なにせ僕は生後2週間くらいの赤ちゃんドラゴンだしね。


 アンジェリカの退出を頭を下げて見送っていたクレアが、頭を上げて僕の方へと向き直った。そのエメラルドのような碧の瞳が僕を捉えると、ニコッと笑顔を浮かべる。


「改めまして、ルー様。私はクレアベルと申します。皆にはクレアと呼ばれています。この離宮のメイド長であるマリアベルの娘になります。これからよろしくお願いします。なんなりとお申し付けください。なんでも致します」


 こんなかわいい娘がなんでもしてくれるらしい。その言葉にドキドキしてしまう僕は変態なのかもしれない。


 でも、そんなことより気になる単語があった。メイド長のマリアベルの娘……?


 マリアベルとは、たぶんあの一番年上のメイドさんだろう。たしかアンジェリカにマリアと呼ばれていた気がする。でも、マリアはどう見ても20代後半くらいの若さだった。目の前でニコニコしているクレアは、たぶん15歳くらい。いったい幾つの時に生んだのだろう?


 クレアが大人びて見えるのか、マリアが若く見えるのか、はたまたその両方か……。2人を並べて見ても、たぶん母娘よりも姉妹に見えるだろう。たしかに言われてみれば、2人とも金髪だし、瞳は碧だし、顔立ちも似ている気がする。2人とも細面の美人顔だ。血縁を感じる。


 でも、おっぱいは似なかったね。マリアはメイド服の上からでも分かるほど豊かなお胸をしていたけど、クレアのお胸はアンジェリカより小さい。メイド服のエプロンドレスの上からでは、その膨らみは分からないほどだ。あるいは、これから大きくなるのかもしれない。大きくなるといいね。


「クー!」


 そんな失礼なことを考えながら、僕はクレアに“よろしく”と鳴くのだった。

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