第4話 葉山との二人の生活 一
思いがけず葉山との同棲生活が始まることになった。優一は嬉しかったが少し緊張した。
帰り道、合鍵を作り葉山に渡す。葉山は大事そうに受け取り、自分のキーホルダーにつけた。フクロウのキーホルダーだった。
キーホルダーにはもう一つの鍵がついていた。
「それは?」
「え?」
「その鍵」
「私の家の鍵よ」
そうだ……なぜか、優一は葉山のことを、いろいろなところを旅して、ホテル暮らしをしている女性のような勘違いをしていた。
「葉山ちゃんって、高知の土佐清水に住んでるんだっけ?」
「そうよ。黒田郡探偵事務所」
「え。あそこが家だったの?」
「一応、そうよ。私が毎日、他人の家の前を掃除してたと思ってたの?」
「いや、そうか……やっぱり探偵事務所なの?」
「探偵事務所でございます」
そう言って微笑む葉山。
「……」
「あれは、あの看板は、いつからついてるか、誰がつけたか知らないんだけど」
「……」
「私のおじいちゃんとおばあちゃんが、あの家の持ち主なんだけど。誰かがそんなことをやってたのかな」
「……」
「よくわからない」
微笑む葉山。
その日は大学に行くのはやめて、バイトも「急用ができた」と言って休ませてもらった。葉山と生活するのに必要なものを買いそろえた。
彼女は、「そんなの今あるもので十分だから」というが、最低限のものは構えた。気が付くと、その日も夕方になっていた。
哲也と香保子から「高知に着いた」と連絡が来た。その後少しして恵庭からも「無事に帰った」という連絡が来た。それぞれにみんなの無事を確認するようなやり取りがあったが「葉山は?」というところで「無事に帰り着いたんじゃないか……」というぎこちない返答をしてしまい、香保子から「こんな時だから、安否の確認はきちんと知りたいから正直に言って」と言われ、優一と二人で、しばらく一緒に暮らすことを伝えた。
これにはみんな驚きもせず「やっぱり……」という反応だった。
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