第3話 動き出す巨大な組織 三

「京都府は『府』を取ったら『京都』よ」


 葉山はそう言った。あの団体は一体なにをしようと企んでいるのだ。そんな不可能なことを真剣にやろうとしているのだろうか?


 その日は結局全員が優一の家に泊まることになった。さすがに大人五人が学生のアパートでというのはきつかった。

 しかし、今からホテルに……と言っても、祖師ヶ谷大蔵駅近くにホテルはなく、新宿まで出るしかなかった。それも大変だということで全員が泊まった。

 近くのスーパーで買い物をして、香保子が晩御飯を作ってくれた。作ってくれたのはチャーハンだったが、家で作ったチャーハンがこんな味になるのかと思うほどおいしかった。

 恵庭もすっかり元気になった。哲也と香保子は夜遅くまで何か話していたようだ、二人は「京都が……」とか、「姫路に……」と話しているのが聞こえてきたが、こっちに話しかけてくる様子もなく、恵庭、葉山、優一は疲れていたのもあり、すぐに寝てしまった。


 次の日、哲也さんと香保子さんは早い時間に帰るという。帰り際、香保子はみんなに「スマホ出して見せてくれる?」と言う。そして、一人一人のスマホを手に持って順番に呪文のようなことを口にし手をかざした。


「これでみんなのスマホで連絡取ってることは、他の人から辿られないから」

「え?盗聴ってことですか?」

優一が言うと、香保子が微笑んで、

「盗聴?まあ、そんなものよ。昨日の恵庭が追われるの見たでしょう。話してるのを聞かれたり、どこにいるか特定されたり……」


 そういえば、葉山に『六峰鬼神会』のことを話そうとしたとき、「スマホでそのことを話さないで」と制せられたし、恵庭は優一のアパートに来るときスマホのマップではなく紙の地図を見ながらやって来たことを思い出した。


「みんな、これから些細ささいなことでも連絡を取りましょう」

そう言って香保子と哲也は帰った。


昼前に恵庭も帰ると言う。恵庭のことは、さすがに昨日のことがあったので、気になり見送ることにした。葉山と優一は恵庭と一緒に祖師ヶ谷大蔵の駅まで来た。

 今日は怪しいビラ配りをしている人はいない。改札の前で少し話していると視線を感じた。駅から出てくる奈佐。

 奈佐は恵庭の姿を見て立ち尽くしている。恵庭も彼女に気が付いた。

「……」

驚いた顔をしている奈佐に、恵庭は微笑みながら話しかける。

「こんにちは、あなたには高知のお店で会いましたね」

奈佐は店よりも夢で会ったことの方が気になっているようだ。

「フクロウのキーホルダー大切にしてね」

そう言って微笑む。

奈佐は恵庭と優一の顔を交互に見る。

「あ、知り合いなんだ。彼女……素敵な人だから……」

優一は慌てて取りつくろうが、自分でも言っていることがよくわからない。優一の慌てた姿に奈佐にも笑顔がこぼれる。


「世の中には不思議なことがあるんですね。私、そういうの自然に受け入れられる方ですから」

奈佐が恵庭に言う。


「あなた素敵な人ね。そういう人は素敵な出来事も受け入れることができると思うわよ。自分から壁を作って拒絶することなく」

恵庭も微笑んで言う。

「ありがとうございます」

「……」

「変に思われるかもしれませんが、なんだか、お礼を言いたくなりました」

「そう」


奈佐は大学の方へ歩いて行った。


 その後、少し話をした後、恵庭を見送った。

葉山はいろいろ調べたいこともあり、一か月ぐらい東京にいたいと言い、しばらく優一のアパートに二人で暮らすことになった。


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