第35話 秘密兵器
『まさか開始早々お呼びがかかるとは思わなかったわね』
『なるほど……伊織さんを攻略するにはああすればいいんですね。勉強になります』
『あんた今日の趣旨わかってるのよね?』
『当然です。そのためにこんな秘密兵器まで用意してるんですから!』
『まあそれはそうね。はぁ……玲奈は今日も可愛い……』
『十波さんこそちゃんと今日の趣旨わかってるんですか?』
『わ、わかってるわよ!?』
それに続いて、イカレガールとクレイジーレズの声も聞こえてくる。
だけど隣を歩く氷瀬はその声に全く気付いていない。
それもそのはず。この声は俺の右耳に挿している小型イヤホンから聞こえている。イヤホンは俺の髪で隠しているから、これの存在に氷瀬が気がつくことはまずないだろう。
秘密兵器。それはこのうるさい奴らの後方支援だった。
デートというイベントに関し、俺たちは言い訳のできないほど雑魚だった。だが、それは一人であればの話。
1本の矢で折れたとしても、3本の矢であれば折れることはない。そう、つまり4人で力を合わせればより強固で折れることはないということ。
基本的には俺が主導してデートを行い、どうしようもなくなったら後頭部を掻く。そのタイミングから後ろの奴らのアシストが始まる……予定だった。だけど俺の予想をはるかに越える展開に最初から秘密兵器を投入してしまった。
『氷瀬が積極的過ぎる。どうすりゃいいかわからん。助けろ』
氷瀬に気づかれないように、こっそりPINEのグループにメッセージを送った。
今日の作戦用に作ったグループ。俺以外イカれたメンバーしかいない。
『積極的なのはいいことじゃないですか。今のは伊織先輩がヘタレただけですよ』
『本当にね。あんなご褒美を自ら捨てるなんてもったいない』
『伊織さん! 今度私もやってあげますからね!』
……つ、使えねぇ。アドバイスが1個もなかったんだが?
ただ俺への感想しか述べられてねぇ。そうじゃねぇんだって。そんな時の女心を解説してほしかったの俺は。
3人寄れば文殊の知恵なんて嘘じゃねぇか。ただ姦しいだけだよ。
でもなぁ……たしかに今のは俺がヘタレたってのを否定できないのがつらいところ。
俺は女子とのおでかけスキルは全然ないんだよ……友達少ないからさ。自由に生きてきた弊害がこんな場所で。
『ねぇ……これって本当にあいつに聞こえてるんだよね?』
『東雲の技術を舐めないでください。これはいつでも伊織さんの声をこっそり聴けるように開発した最新鋭の機械なんですから、性能に抜かりはありません』
『その理由はどうなのよ……』
いやほんとにな。俺もそう思うよ十波。
とは言え、雛森たちの声はバリバリ聞こえている。だけど俺の反応がないから、向こうは本当に聞こえているのか半信半疑のご様子。
小型のマイクを服の中に忍ばせているから、俺と氷瀬の会話は耳に入っているはず。しかし、隣に氷瀬がいる状態で向こう側と話すのは自殺行為だからそれはできない。
『伊織先輩! こっちの声が聞こえていたらその場でうさぎ跳びしてください!』
「いやできるか!?」
「野中君!? 急にどうしたの!?」
「あ、いや!? なんでもない!」
俺の突然の大声に氷瀬が怯んで、俺は慌てて身振り手振りでなんでもないとアピールする。
やべぇ……勢いでつい突っ込んでしまった。なにしてくれんねん。
これじゃ俺がただのやばい奴になるだろうが!?
『どうやら聞こえてそうですね。ありがとうございました伊織先輩!』
こっちは全然よろしくないんですけどぉ?
チラリと辺りを一瞥する。おそらく雛森だちは俺たちのことをどこかで見ているはず。
頼むからもっと建設的なアドバイスをくれ。
『伊織先輩! 私たちのことは気にせずデートに集中してください。私たちはしっかり後方からサポートしますから』
『そうですよ伊織さん。そしてちゃんと玉砕してください!』
『はぁ……玲奈可愛い』
何こいつら……マジで使えねぇ。十波に至っては声がもうトリップしてるんだわ。
「あ、ショッピングモールだ。野中君、ちょっと入って色々見て行かない?」
氷瀬が指さしたのは某大型ショッピングモール。
そうだ。今日は何よりも氷瀬とのデートを満喫し、最後に告白っていう最大イベントを行うんだ。
サポートという名の雑音を気にしてる余裕なんて俺にはない。
「いいぞ。中をブラブラするのもノープランの醍醐味だしな」
「だね! じゃあ行こうか!」
『なんかうまいこと纏めましたね』
『さすが伊織さん。素敵です!』
『勘違いしないように』
「…………」
これってどうやって切断するんだっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます