第9話 逃亡テロリスト傷害事件-外伝05
リクルートスーツ姿の自称美大生、
「で? 何か用」
「さっき答えたはずだが?」
年齢を重ねた渋い低音で、
「とことん汚れよね、始末屋ダーティーブレット」
「今は
「あんたの通り名なんか、どうでもいいわ。ついでに本名もね」
感情が次第に
「さっさと、ピンモヒ? そいつを連れて帰って欲しいものだけど」
「無論そのつもりだが、少々気になったものでね」
自称美大生は
「その少年に価値を見出した。そういう事なのかね?」
「アライアンスは、そう結論づけた。って事」
「自由石工同盟にしては珍しいな」
ピンモヒこと
「やはり、あの一件からかね?」
「昨年の秋、多元宇宙関連の事件で十四名もの死傷者が出た事は知ってるでしょ?」
ふむ、と
「最初は全く解明ができなかった。事件現場のコンビニで、防犯カメラが全て壊されてたからね。でも」
落ち着きを取り戻した自称美大生は、淡々と話を続ける。
「この春、私が担当の日に単独捜査権の取得に来た人の連絡先が、あの事件で通報してきた物と一致してね」
「意外と抜けているのだな、ガス人間8号君は」
ビューレットの一言に、彼女は頷いた。
「そこから、一気に解明できたって訳。更に
「会えなかった、あの日か」
「そこのカフェに潜入してたんだけど、私の前で自分たちの話まで色々しゃべってくれたわ。まさか最後の一人が、この1500番宇宙の高校生だったとはね」
「そして大量に、彼らの個人情報を入手した訳だな」
「偶然!」
「その後の偽映画撮影で、更に色々判ったし。そこまでは良しとして。一つ、聞きたいんだけど」
「何かね?」
「普通、この1500番宇宙に住む者を多元宇宙の事件に巻き込んだら、記憶は必ず消すでしょ?」
「そうだな」
「でも、しなかった。あの二人は」
無言で頷くビューレットに、彼女は指を突きつける。
「
ふむ。としか言わない相手に、自称美大生は
「あの秋葉原テロ事件、関わってないなんて言わさないから」
「部下が世話になった。感謝している」
「あの子のついで。もうあの時、私の保護対象になっていたから、あの子」
「
少し驚いた。そう付け加えてトレンチコートからタバコを取り出し、目の前の女性の
「失礼した」
ビューレットの謝罪に、別に。と短い返事をして栄美は腕組みをする。
「あの子と残り二人の関係は、寺カフェで知った。そして貴方も関わりを持った。アライアンスは
「なるほど。125ヌクレオチド連合の、ここに対する待遇を考えれば、当然か」
「別に独立しよう、とかじゃないけどね。あっちもユビキタスの件でドタバタだから」
何よりも。彼女は、そう切り出した。
「
「侵略戦争のターゲットではな、
「もう一年近いわね。上層部は戦々恐々、それだけに
「
「とりあえず、世論が二つに割れてるなんてのは、さっさと解決して欲しいわ。1962番宇宙って、そんなだったっけ?」
「誰かが介入している。他の世界で強盗を働く
「
その
「どうにかして欲しいもんだね。2177宇宙からの侵略は、もう目の前に迫ってんだからさ。ビューレットさん」
「
短い
「はいはい。終わりにしましょ。不毛だわ、これ以上続けても」
「確かに、そうだな。むしろ、この後の事が肝心だろう」
「この後?」
「気付いていないのか? トップエージェント、白蛇伝説」
「嫌な二つ名で呼んでくれんじゃないか。ダーティーブレット!」
吊り気味の目を
「まずは、その首の傷」
言われて反射的にそこを手で押さえる。彼女は今この瞬間まで、むき出しの傷を忘れている事に気付いた。
「
明らかな
「見せたくは、いや知られたくは無いのだろう?」
「やかましい……」
いくぶん力の無い声が返ってくる。
「少年にとって君は、命懸けで守るべき
今度は言葉も無く、ただ怒りの
「そこで提案なのだが、助っ人を呼んでおいた。この一件を丸く収める、少年が必ず納得するように、だ」
「どんな?」
短いが、栄美の声が明るさを増した事に、トレンチコートの男は我が意を得たりと
間も無くやってくる、ここに。そう言って彼は自称美大生に策を告げた。
「取り引き、込み……ね。まったくダーティーだわ、あんた」
「安いものだと思うがね。あの少年の保護係を今後も続けられるのなら」
「覚えとけよ、ダーティーブレット」
江戸前調の
「いずれは少年に君の素性、正体も明かさねばなるまい? 先ほどの感情を素直に優先させるのなら」
「な、なにを?」
言っている。と彼女が口にする前に、ビューレットは続ける。
「
話している最中に、風を切る音が鳴った。
「それ以上、口にすんなよ、ダーティーブレット。私は
自分を見つめる
自分に向かって投げられた
「ビーショゥ……目を
手の平を切り裂く
無言で無表情な眼差しを向けてくる自称美大生ことエージェント白蛇伝説、
「済まない。私が悪かった」
「判りゃ、いいんだよ。あと今日の衣装一式の弁償、忘れんなよ」
また江戸っ子のような口調で彼女は、かなりの上乗せを吹っかける。
「仕方あるまい。こちらの落ち度だ」
「そう言うこったね」
口角が上がると同時に、うら若き女性エージェントの
「さて、お帰り頂きましょうか? ヴューレットさん。お
「こちらの呼んだ助っ人も、間も無く到着のようだ。後は君の交渉力に任せよう」
トレンチコートの中年過ぎに縛り上げられた
「
「班長、ここは我々が。一刻もお早いお帰りを。と手品師が」
「長居し過ぎたか。後は頼む……
「先ほど班長に
「あれは私に責任がある、気にするな」
「しかし、班長」
「
本名を呼ばれ、ショートヘアの彼女は口をつぐみ渋々引き下がった。
「では、
「さっさと帰んな」
相変わらずの物言いで、エージェント白蛇伝説は、わざとらしく手の平を
捕らえられた軍人
乱れた髪を、
「この重力波の中、起きないなんて。意外に……」
優しい笑みを含んだ
駆けつけてくる二人分の足音を聞きながら。
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