第5話 秋葉原爆破テロ事件-05

 連休初日から大事件に遭遇そうぐう典型的てんけいてきまれ型だと、自分自身で思う。

 1398番宇宙の俺、ここでのコードネームなつめのオッサンに、引きが強いって言われたけど、事件引き寄せるのが俺の能力?


 「んなワケ、有るかよぉ……」


 ちょいオッサンの口調を真似まねてみる。何の解決にもならないけど。

 5月に入っての連休二日目、今日も俺は秋葉原の街を彷徨うろついていた。朝も早よからってヤツだよ。

 多元宇宙の、もう二人の俺のどちらからも相手にされない役立たずあつかいの、三人目の俺。

 何が何でもこの俺が、今回のビル爆破犯を見つけ出す。絶対に。これはもう意地だね。


 「あいつら、ないかな」


 あのピンクモヒカンひきいるパンク野郎軍団があやしいんだ。奴らこそ犯人に違いない、そう思ってる。俺しか奴らを見てないし。

 そして奴らは、ここ1500番宇宙とか呼ばれてる俺のる世界の住人じゃ無い。物を透過とうかできる人間なんて、この世界にないんだから。

 とは言え、てが有る訳じゃない。午前10時を過ぎても、ただただ歩き回ってるだけ。


 「アキバも広いな……どこ行けば、いいんだか」


 必ず犯人を見つけなきゃ。そして、多元宇宙のもう二人の俺に結果を見せつけなきゃ。時保琢磨ときやすたくまここにあり! ってね。

 あ、あの二人も時保琢磨ときやすたくまだった……ややこしいのは変わりない、多元宇宙じゃ当たり前。


 「オッサン、巡査じゅんさだって言ってたな」


 そう言えばニセ総理事件の時、戻ってくるのを待ってた、とか言ってたような気がする。真似まねてみようか。

 犯人ホシは必ず事件現場に戻る。確かに刑事ドラマの鉄則だね。今はそれにけるしか無い。手がかりなんてゼロだから。


 「やっぱ、あのビルかな」


 歩き回ったあげく中央通りに戻る、爆破現場に向かって。


 「う、そぉ……」


 引きが強い。オッサンの言葉が脳裏のうりめぐった。


 「あの後ろ姿、絶対だよ」


 まさかまさか、あの人もなつめのオッサンと同じタイプだとは。今日も、あの格好かっこうで歩いてるなんて。


 「もう5月だって」


 いまだ冬のちってヤツ?

 あのトレンチコートに身を包み、堂々と中央通りを歩いているんだから、俺のおどろきも誰もがいだく所だと思う。


 「あつくないのか?」


 とりあえずあとをつけるしかない、手がかりが見つかったんだ。逃したら、ここで終わる。そんな気がした。

 ひっそりと、相手に気付かれないように後をついて行く。

 尾行びこう始めた途端とたん、いきなり携帯けいたいが鳴った。いや、俺のじゃなくて前を歩くレイヤーなガンマンの、が。


 「もしもし」


 あ、普通に出た。けど、渋い。年齢トシを重ねた渋い低音ヴォイス。なんか大人だ。銀八さんとは、ちょい違うけど、大人だ。


 「ふむ。私も少々、困っている」


 普通に話しながら、レイヤーなガンマンは秋葉原の中央通りを歩いて行く。ちなみにスマホじゃなくて俺と同じガラケーだ、ちょい親近感がいた。こんな時だけど。


 「奴らを集めたのは、やとぬしだと思うが?」


 うわっ。いきなり核心に迫る話?

 どう考えても、あのピンモヒの件だ。面倒めんどうなのでりゃくすけどピンクモヒカンとその軍団の話に違いない。


 「ほう……では私に一任すると? 第一部隊さえ残れば、奴らは解雇かいこかまわんと言う事で?」


 あ、ピンモヒども首切られるのか? やりすぎだよね、ビル爆破なんて。で、第一部隊って、奴らは?


 「承知した。では、後ほど」


 そう言うと、もしかしたら命の恩人かも知れない、爆破事件の一味かも知れない男は、電話を切ってかどを曲がった。


 「ここって……」


 それはいまだ立ち入り禁止の状態にある、あの爆破されたビルの横。

 表には数人の警察官がる。でもいまだ煙が出てて、くすぶってるビルの中には入ろうとはしないね。むしろ入ろうとする者を押しとどめていた。


 「ホントに現場に戻ったよ」


 ここで見失う訳には行かない。俺も忍び足でかどを曲がる。


 「えっ?」

 「少年。なぜ私のあとをつけてくるのかね?」


 そこに、仁王立におうだちしたレイヤーなガンマンが立っていた。


 「あ、いや、その……」


 動転して頭が、うまく回らない。なんで深夜アニメのキャラそっくりなんですか? レイヤーだから、コスプレイヤーだからだ。で終わってしまうか……何か無いのか?

 これしか無い、もうストレートに聞くしか。


 「あの……なぜ、僕らを助けてくれたんですか?」


 ここは、僕で無いとな。自分に言い聞かせつつ、言葉を選ぶ。


 「君とは面識が無いと思うが?」

 「昨日きのう、お、いや、僕は、このビルの前にました」


 返事は無い。イケるかも。


 「落ちてくるビルの下敷したじきになる所でした」

 「それが、私に何の関係が?」


 う、誤魔化ごまかす気か?

 ここからでは見えないけど、昨日きのう、見たビルの屋上方向を指差しながら、口を開く。


 「あのビルの上にましたよね?」

 「それだけで、命の恩人なのかね?」


 もう一歩、思いっきりむ。


 「十日ほど前、練馬ねりまの寺の前」


 俺の一言に、レイヤーなガンマンの片方のまゆがピクリと動いた。イケる。


 「寺の山門前に俺、たんです。走ってくるワゴン車と追いかけてくるスクーターを、その後に……」

 「了解した。君が何を言いたいか、理解したつもりだ」


 渋い低音で、トレンチコートの中年過ぎはゆっくりとうなずいた。


 「だが少年、それは君の人生を縮めやしないかね?」


 トレンチコートに右腕を差し入れていく男の静かな眼差しに、俺の背筋は凍りつく。

 確かに、秘密を知り過ぎた奴でしか無い、俺は。しゃべり過ぎた事を後悔こうかいしたが、ちょい遅かったか。


 「このまま、Uターンして帰りたまえ。そして私の事など忘れる事だ」

 「あ、え?」


 レイヤーなガンマンが取り出したのは、煙草たばことライター。中年過ぎの男は煙草たばこに火をつけ、ゆっくりと吸い込む。


 「関わらない方が良い。君自身の為だ」


 煙を吐き出しながら、そう言う。


「やっと見つけたんです、貴方あなたを」

「困ったな」


 若干、苛立いらだっているように見える命の恩人に、俺はたたみけた。


 「やっぱり、貴方あなたが助けてくれたんですね? あのビルが落ちてくるのを、消し去ってくれたの、貴方あなたなんですね」

 「忘れたまえ。そして早く帰るんだ」

 「そうは行かんぜ!」


 聞き覚えのある声の方に、瞬時に首が動いた。奴もたんだ。


 「だから、貴方あなたは帰れって……」

 「ちと、遅かったがね」


 再び煙草たばこの煙を吐き出し、レイヤーなガンマンは自嘲気味じちょうぎみに言う。


 「そいつは帰す訳には行かんぜ、あんたまで見てんなら」

 「彼は関係ないはずだが?」


 その一言に、ピンクモヒカンが手にしていた鉄パイプをり上げ、俺の命の恩人の頭上にたたきつけた。


 「あ! あぁ、あ?」


 奇妙きみょうな声を上げてしまった俺の目の前で、レイヤーなガンマンを直撃したはずの鉄パイプが、その顔を透過とうかして行く。


 「無駄むだだ、お互い様だが」

 「あ~そうだよな、その通りだ。が、そっちはどうかな?」


 ガンマンが俺の方をく、俺もそれを見てく。そこにピンモヒの手下、スキンヘッドが同じような鉄パイプをり上げてた。


 「やべっ……」


 俺のつぶやきを合図にしたかのように、鉄パイプがり下ろされる。


 「よせ!」


 渋い低音ヴォイスの叫びと暗くなる視界、そしてなつかしい煙草たばこにおいと、さらにとてもなつかしい、頼りになる大人にかかえられた記憶、抱擁ほうようの感触。

 そんなのをまとめて感じた刹那せつな、強烈な殴打おうだ衝撃しょうげきに、俺はかばってくれたレイヤーなガンマンごと、アスファルトの路面にたたきつけられ気を失った。

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