第3章 秋葉原爆破テロ事件

第1話 秋葉原爆破テロ事件-01

  待ちに待ったGW。そう、ゴールデンウィーク!

 初日はバイト最終日だったから、棒に振ってしまったけど。5月に入ってからの今日は、俺にとっての連休初日。


 「いやぁ、トッキーからアキバ行こうなんてお誘いがあるなんてぇ」

 「いや、その呼び方はめてくれ」

 「まだマシだろ、時保ときやす。俺より、は」


 肩をすくめながら言うのは、俺の友達。駒下恭介こましたきょうすけ


 「スケコマって似合ってるよぉ?」


 そう口にしたのは、もう一人の友達、平坂登ひらさかのぼる。まったりとした口調によく似合う、お公家系くげけいちょい体重過多な奴。


 「なぐられたいのか? ヲタひら

 「非道ひどいよぉ! 何とか言ってよぉ、トッキーさぁ」

 「いや。だから、それめろって」


 秋葉原の街中を、そんな会話を交わしつつ三人の高校生がブラブラ歩いていく。

 キョウスケコマシタ……今日、すけこました。で、長身馬面男の仇名あだなはスケコマ。その仇名あだな通りの性格の持ち主だ。


 「せっかくアキバ来たんだからな、男三人いたら、する事はナンパだろ?」

 「なんでさぁ。今日は僕に付き合ってくれるはずでしょぉ?」

 「いや、それは無い」


 断言した俺に、平坂ひらさかみ付いた。


 「え~。トッキーまで非道ひどいよぉ」

 「地下アイドルの公演になんて行くかよ。この体育会系が」


 確かに、アイドルなんて別に興味ない。今日は買い物に来ただけだった。


 「アイドルより女子レスラーだろ? 時保ときやすは。類人猿最強の女とかの追っかけか?」

 「いや、それも無い!」


 いくら何でも普通の高校生が、んなイカツイの追っかけるかよぉ!

 って……イカン、これではオッサンの口調そのままだ。影響受けすぎだね、俺。

 心の中で深く反省し、話を変えた。


 「あの、さ。ちょい聞いてもイイかな?」


 ん? て感じで二人が反応する。


 「えーっと、ぬくれ……何だったっけ。ぬくれ、おち……」

 「何? 抜く、落ちる?」


 うれしそうにスケコマが食いついてくる。が、俺が聞きたいのはそっち系じゃない。


 「ヌクレオチド? 珍しいねぇ、トッキーにしては」


 時々、ヲタ平の薄い笑いに背筋が寒くなる事がある。細めた目の邪悪じゃあくな事、こいつ絶対お公家くげの出だよ。


 「ヌクレオチドはねぇ、塩基えんきとう、リン酸からなる物で……」

 「悪ぃ、ヲタひら。俺にも判るように」

 「いや、俺も判らんよ」


 スケコマ師の声に思わず本音を吐いて、俺はやさしい解説を懇願こんがんしたんだ。


 「仕方ないねぇ。平たく言うとぉ、ヌクレオチドが連なって核酸が出来てるんだよぉ」

 「ふむふむ」

 「判るのか? スケコマ!」

 「いんや、全く」

 「ダメだねぇ。つまりぃ、生命体を構成する基本材料である生体高分子の構成要素がぁ、ヌクレオチドとかアミノ酸なんだよぉ」


 やっと俺にも判る所まで来たよ。


 「アミノ酸の仲間なのか」

 「う~ん、まぁ、それでいいよぉ」

 「何? 網野あみのさん?」

 「それ、ボケのつもりだよねぇ、スケコマぃ?」


 首をひねるスケコマこと駒下こましたを無視して、俺とヲタひらこと平坂ひらさかは、さっさと目的地に向かって歩き出す。

 もっとも正確にはヲタひらの、だったけど。


 「ここだよぉ」


 うれしそうに声を上げる彼が見上げるのは、かつて二百人以上の巨大アイドルグループの活動拠点だったビル。

 すでに解散式を済ませ、今やグループは無くなってしまったけど、そのスタートである劇場は現在も営業してる。まだ売れてないアイドル達の為の貸劇場として。


 「だから、地下アイドルのステージなんて興味きょうみぇって」

 「地下ドルじゃないよぉ、彼女は台湾からやって来た出稼ぎアイドルさ」


 いや、あんまり違いないような気がする。


 「女の子に人気高いんだよぉ?」

 「って事は、観客席には素人娘が?」

 「多分ねぇ」


 スケコマの眼が俄然がぜん、本気モードに。単純すぎるだろ、それ。


 「時保ときやす、俺も参戦するわ」

 「ヲタひら面倒めんどうは任せた」

 「えー、トッキーは来ないのぉ?」

 「とりあえず、遠慮します。ステージ約二時間だろ? 後で合流しよう」


 二人を見送って、俺、時保琢磨ときやすたくまは自分の買い物の為にビルを離れた。


 「流石さすが、GW。人多過ぎ」


 そんなつぶやきと共に店頭にスマホを並べる店を物色していく。


 「ん?」


 何だろう。視線を感じて俺は振り向いた。

 中央道り交差点付近、横断歩道の向こう側。視線とぶつかる。

 我を忘れて見入ってしまったよ。ちょい釣り目気味の女の人、女子大生くらいかな? 俺より少し年上だよ、多分。


 「きれい……だ、な」


 思わずつぶやくほどに。本音から言えば、どストライーーク! って叫びたいくらいだけど、人多過ぎて、流石さすがに恥ずかしいからめとく。

 真っ直ぐに俺を見つめる視線に、周りが全然見えなくなって、俺はフラフラと横断歩道に向かって歩きだした。

 途端とたんに人とぶつかってしまう。周りが見えてないから当然だよね。


 「す、済みません!」


 思いっきり頭を下げて、それから相手を起こそうと手を伸ばして、俺は固まってしまう。


 「銀八ぎんぱっあん?」


 そう、俺がぶつかった相手は多元宇宙の、別世界に生きる俺。

 通称ガス人間8号さん。ここ、1500番宇宙でのコードネーム阪本銀八さかもとぎんぱちさんだった。


 「琢磨たくまくん? なぜ、ここに……」

 「それはこっちの科白せりふ


 笑いかける俺に、気を取り直した銀八さんの表情が激変する。


 「早く、ここから離れてください」

 「え?」

 「ここは間もなく……」


 銀八さんが言い終える前に、壮絶な爆発音が休日の秋葉原に響き渡った。


 「遅かったか!」


 珍しく銀八さんが声を荒げる。更に連続してとどろく爆発音に俺は振り返った。


 「ヲタひら! スケコマ!」


 煙を吹き出していたのは、さっき俺と別れた二人が向かった劇場のあるビルだったんだ。

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