第6話 特殊指定動物密輸事件-06
今や寺の
そりゃそうだろう。
こんな田舎町の寺から銃声が響き渡れば、ご近所さんが何事かと集まってくるのは。
「はいそこ、撮影の邪魔になりますから、その先から入らないように」
「逮捕完了ってぇ事でぇ」
「ご協力、感謝いたします」
オッサンがインド人ハーフを引渡し、この世界の警官に扮した1438宇宙の警察官達が敬礼して、撮影終了。
で、
「これで、ようやく終結ですね」
かつての小学生姿になった銀八さんが、俺を見上げて告げた。
今、俺より背が低くなった気化生命体は、
「大丈夫?」
俺の声に、気化生命体の小学生は肩をすくめる。
「また、全体の40パーセントくらい失いましたからね。この姿になってしまいました」
その割に、緊迫感が全然無いんだよね。母を救う為とは言え、命の危険を
「とんでもない。それ
小学生姿で銀八さんはまた、肩をすくめた。
「あのニセ総理事件の時もそうでしたが、我々は全体の90パーセント以上を一瞬で失わなければ、
えぇ? そんなに? としか言えない。
「ましてあの人なら、
そう言ってオッサンの方を指さす。道理であの事件でビビってたのは俺だけだったはずだね。
「まぁ、この1500番宇宙の大気には、溶け込みやすいので注意は必要なんですが。特殊な機械で収集しないと分散してしまいますので」
なるほど、だから俺がシェルター替わりだったのか。ただ、今回は準備怠り無く、だったそうでニセ総理事件の時の様に、霧散しかけるなんて事は無くて済んだそうだ。
「君に預けた物が、私の体を固定する装置だったんですよ。
小学生姿で、イケメンジャケットは似合わないなぁ。などと思いつつ、指し示された時計と
「こんな小さいのに?」
「大きさは関係有りませんよ。あと両足首にも有りますが……」
「あ、見せなくてイイです」
「そうですか? ともかく、これらのおかげで、今回は、君の
そう言いながら、地面に落ちていた未消化のプリンアラモードとフルーツパフェをチリトリに
「あの犬にとっても、私にとっても、この世界の食物は、やはり異物なんですねぇ」
寂しげに銀八さん、いや銀八くんは言う。
それは、最後の銃弾を至近距離で受け、大穴の開いた下腹から飛び出た物だった。
体や服はガスになったが、腸内にあったスイーツの
「だからこそ、あの犬は1438宇宙の輸出商品に成り得るんでしょうがね」
確かに薬が腸内でどうなるか、それだけを見れたらスゴイ事かも。とは思うけど、今のは話そらしたね、銀八さん。
「おー、キレイになったじゃぁねぇか!
二つの宇宙の捜査官達が、ようやく本業に戻り始めるのと同時に、オッサンは俺達の所に戻ってきた。
「聞こえが悪いですねぇ」
「ほぇ? 事実だろうがよぉ」
また始まったよ。
「それよりよぉ、ボウズのカァちゃんの記憶は……」
「きちんと消しておきましたよ。一度くらいは夢に見るかも知れませんが」
「大丈夫かよぉ、ホントによぉ」
ブツブツ言いながらも、俺の母を心配してくれる1398番宇宙の俺こと、コードネーム
とりあえず気を失ったままの母は、
「あとは、コイツだぁなぁ」
撮影機材の横に掛けられていた毛布の下から、あの透明人間が出てきた。
「おい、起きてんだろうがよぉ? 聞こえてねぇのかぁ?」
もちろん今は透明じゃない。縛り上げられた状態で正座させられた今回の犯人、個人貿易商が、そこに居る。
元はナイスミドルとか呼ばれてたんだろう、と思われる顔立ち。でも今は髪ボサボサで
それにしても、どこかで……何このデジャ・ヴュな感じは。
「よぉ! 1438宇宙のダンナ
「
オッサンの呼びかけに応えたのは、1438番宇宙の刑事の一人。何というか……眼光鋭いフクロウみたいな感じの中年だった。
「コイツの盗まれた商品、ウチの
そのセリフに、うなだれていた元透明人間の顔が跳ね上がる。
「オメェよぉ、貿易商なんだからよ、盗まれたら警察来いよなぁ、まずはよぉ」
確かにオッサンの言うとおりだ。
「んな犯罪者を社員にすっから、ブラック企業の言いなりに、なっちまうんだぁよぉ」
「ブラック……企業?」
「あのインド人ハーフなぁ」
「か、彼は、生活に困ってて……前科が有るから、どこも
最後まで口にする事は、できなかった。寺の
「バァ~カッ! どこ、まで、お人好し!」
手錠を掛けられた両腕で腹を
「
「まぁ~だ、言ってんの? あんた、本物の、バァカァ?」
更なるバカ笑いに、個人貿易商はガックリと肩を落とす。それにオッサンが反応した。
「ブラック企業の
叫びながら、もう走ってる。
そして、速い!
さっき、銀八さんが体張って作ったチャンスを活かした、一瞬で透明人間の死角に回り込んだダッシュ力を今一度、
眼前に迫る拳を前に、インド人ハーフは
「バカか?
オッサンの
「あぁ? 何の
「ここで
あのフクロウ刑事の説明に、
「へぇ。わきまえてる人も居るんだ」
俺の小さな
それよりオッサンへの、フクロウ刑事のセリフの方が気になる。
「ご自由に。
しょ、処分って……。
インド人ハーフを指差し、眼光鋭く
「そりゃぁ、こっちのセリフだぁぜぇ」
「了解しました」
それだけ告げると、互いにニヤリ、って感じで笑う。フクロウ刑事が肩まで手を挙げると同時に、凄まじい重力波が押し寄せてきた。
1438宇宙の警察はニセ坊主を連れて、寺から消えた。直後にオッサンの所の仲間達も去る。
寺の境内には、我々だけが残された。下着一枚の元透明人間と共に。
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