第5話 特殊指定動物密輸事件-05
「くそっ!
オッサンの吐き捨てるような
こめかみに当たる銃口の冷たさに、母の顔が
「これは……まずい事になりましたね」
今回はイケメンで終始にこやかだったガス人間8号さんが、同じく
「動くな!おかしな動きをするな!」
何も無いはずの空間から、男の声が響く。
その声に反応し、母の首が動く。その視線の先は何も無い。ただ
有り得ない光景に、母の緊張の糸は切れてしまったらしい。気を失ったと同時に、力を失った体は糸の切れたマリオネットの様に、後ろに倒れ込む。
その瞬間、
「テメェ!」
「動くな! この女がどうなっても、いいのかっ!」
気を失った母の体を支えきれず、共にヘタリ込んだのだろう透明人間が再び
「彼の手錠を
「彼、だとぉ?」
「この、ニセ
銀八さんが指さす先に、
「私の社員だ! 手錠を外せ!」
「自分で正体を明かしていますね。
冷静に言うイケメンの横で、俺は
「どうすれば……」
ニセ総理事件の時は、俺でも役に立てた。でも、今回は何もできない。足手まといにしかなれない。
「くそぅ……」
つぶやいて、走り出そうとした俺を、銀八さんが止めた。
「動かないように、
「銀八っあん……」
「そんな情けない顔しなくても、大丈夫ですよ」
1637番宇宙の俺ことガス人間8号さんは、
何をやっている! そんな透明人間の
「これも
そう言いつつ、右手の
「ここからは、私に任せてください。何が起ころうと、決して動かないように」
「少し離れていてください。できれば
「何を……」
「私を信じて。いいですね?」
その言葉に俺は、うなずいた。
満足そうに笑う銀八さんは、一度だけ
言われた通り、俺もゆっくりと
「う、動くなぁ! この女が、どうなっても……」
「その女性を
小学生の時と同じく、
「来るなぁ!」
声の裏返った絶叫と共に、空中に浮いた銃口が、銀八さんの方に向く。
銃声が
「君、
「う、
再び銃声。今度は銀八さんの右肩を
「おぃ!ガス……」
「
続けざまの銃声が、
「だ、大丈夫?!」
俺のマヌケな問いかけに、銀八さんは左手を上げて振った。
「痛いですよ、もちろん。でも
開いた穴から
「オッサン、何とか……」
ならないのか!と言うはずの俺の声は、しぼんで消えていった。
とんでもなく恐ろしい
「こ、
カマキリみたいなグラサンの奥に見える
俺の
「数えて……る?」
オッサンの
また、何度目かの銃声が聞こえる。
すでに何個もの穴が体中に開いて、
あの煙は、銀八さん自身なんだと俺でも気付く。今、大量出血と同じ状態で、阪本銀八ことガス人間8号さんは、宙に浮く銃口の前に立っていた。
「ここまで、です」
「う、うるさい! 来るなぁ!」
透明人間の
「銀八っあん!」
至近距離での発泡で、気化生命体の下腹部に、これまでに無い大きな穴が開く。
くぐもった銀八さんの、うめき声が聞こえた。それでも、宙に浮くオートマチック銃に向かって、左手を
「来るなよぉ!」
見えない犯人の絶叫と共に、更なる銃声が……鳴らなかった。今度は。
ただ、トリガーを引くカチカチと、銃弾が無くなった事を知らせる小さな音だけが、耳に付く。
「マカロフPMの、
苦しげに、しかし皮肉っぽく、そう語る銀八さんの腹に開いた穴から、ガスが吹き出している。
それは心なしか、赤く染まっているように見えたんだ。
「後は、お任せ、します……
「おぅよ。任されたぜぇ!銀八ぃ」
俺の横に居たはずの
「いつの間に……」
ダッシュしていたのか判らない。それ程のスピードで、1398番宇宙の俺こと
「三千世界の
再びの決めゼリフによって、色付きガスが
それは
「逃がすかぁ!」
見事な面打ちが決まり、赤い色付きガスに染まって姿を現した、1438宇宙の個人貿易商は
「やっと、終わりました、ね」
「まぁな。身を切る芸、しかと見せてもらったぜぃ」
「言うに、事欠いて……」
それだけ
その頼りない体を、しっかりと受け止めて
「お疲れさん。無茶し過ぎだがよぉ、助かったぜぇ」
それを耳にしながら、俺は恥ずかしくも泣きそうになりながら、二人に向かって
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