第10話 ニセ総理殺人事件-10_付記
時は半年ほど遡る。
あの小雨降る
最初に事件が起きた空き地。
そこで今、二人の警官の
「貴様ら! 何の権限が有って現場に……」
ベテランらしい男に最後まで言わせず、ロングコートの
「女、か?」
ショートカットの前髪を目の下で切りそろえた奥にミラーサングラス、引き結んだ口元。声を発する事すらしない、まだ若い女性。
その表情を読む事ができず、刑事は強い圧迫感を受けてストレスを覚えた。
「何だ?」
ベテラン刑事は彼女が突き出したスマートフォンを受け取る。
「誰だ、今……こ、これは署長!」
なぜ、と質問をするより早く、相手からの説明を受けて刑事は表情を変えた。
苦虫を
「了解した。こいつは返す」
そう言ってロングコートの女にスマートフォンを返却すると同時に、
訳も判らぬまま、部下達は口々に不満を
「フェロークラフト、ここで重力波転移が行われたのは疑い無いようです」
ただ黙って
同時刻、東京都港区赤坂から4号新宿線を西へ向かう一台の車があった。
「今夜も収穫無しっすね、班長」
ノートパソコンを膝の上に載せた助手席の若い男の言葉を聞き流し、ハンドルを
「窓開けてくださいよ、煙は苦手なんす」
「必要なポイントにマーカーは配置した。今は、それだけで良い」
渋い低音が
「確かにマーカーは機能してるっすよ、班長。し過ぎるくらいに」
初めて、中年を過ぎた
「数時間前、夕方くらいからっすかね。何度か
「ほう」
「報告漏れじゃないっす。今、全マーカーからのデータ
「で?」
「小規模っすね、2~3人。もしくは1人での
その数字を耳にして、初老に近い
「増援では無い、と言う事か」
煙を吐き出しながら、年齢を重ねた渋い低音で彼は自分に言い聞かせた。
「第2部隊増設って話っすか? あれ、
「おそらくな」
「今回の、今日の夕方くらいから続く
「そう願いたいものだ」
そう言うと、初老にも見える
「そろそろ戻らんとな」
「疑われちゃ意味ないっすよね、ここのエージェントさんとも連絡取りにくくなるっす」
「そういう事だ」
二人を乗せた車は山手通りに入り、
同時刻、
学校関係に物資を納める会社を
ただ今回は、いつもの
「数時間で何度も
正確には、人体模型の中に埋め込まれた小型チップが音声を出している。
「管理者権限を取り戻さない限り、正確な情報は得られないが……」
「誰でも良い、ここまで、私の元までたどり着いて欲しい」
このままでは、この1500番宇宙は間違いなく戦場になる。
「私は、この戦争を止めたい……」
今宵もまた人体模型人形は、独り言を
そして、それから約3時間の後。
店員を含む約10数名の
「フェロークラフト、
後ろから副官の声が近付いて来る。
ショートカットの前髪を目の下で切りそろえた女性は、ただ静かに
よほど寒いのか
「あと、ここから徒歩30分ほどの距離の場所で、戦闘が行われたようです」
続く報告に、彼女は無言で振り向く。
「破壊音や発光現象に加え、
それを聞いても彼女から指示の言葉は出てこなかった。
目の下で切りそろえた前髪の奥のミラーサングラスで
彼女より
「失礼します、佐川サン。そこ、私に担当させて、もらえませんか?」
明らかにハーフと判る顔立ちの、佐川と呼ばれた中年男性より若い人物は、返事を待たずに話を続ける。
「あー、それとも私、キュリア・ロマーナ
「これは先生。いえ、そのような事は……」
無表情ながら、その首が縦に動くのを確認し、中年副官は
「許可が下りました。護衛を数人お付け致します」
「ありがたい」
そう口にすると、サングラスの女性から離れたいとでも言うように、率先してハーフの青年は歩き出す。
「あー、初めてお会いしましたが、無口なお方ですね」
「あの
「ホントに、あのハクジャデ……」
その単語を最後まで言わせず、佐川は足を止めて先生と呼んだ若者に向き合う。
「その呼ばれ方を、あの
相手の本気を
そんな二人の会話を無関心に聞き流し、黒一色のロングコートの
砕け散ったプラスチックか何かの
「これは……」
今日初めて、彼女の
引き結んだ口元が
ショートカットの前髪を目の下で切りそろえた奥のミラーサングラスで隠され、彼女の視線がどこに向けられていたのか今まで判らなかった。
フェロークラフトと副官に呼ばれた女性は、コンビニの床に落ちていた壊れかけの
「学生の、物か……」
中高生が掛けそうなフレームを折りたたみ、彼女は自分のコートの内ポケットに入れた。
その行為が、その選択が、彼女の人生を大きく変える事になろうとは。
今は誰も、彼女自身でさえも気付いては居なかった。
第1章 付記 了
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