第9話 ニセ総理殺人事件-09 了
「済みません。君には迷惑をかけました」
メタリックスーツから、最初に聞いたイケメン声優さんを思い出させるような、ちょっと大人の甘い声が流れる。
「オメェも良くやってたと思うぜぇ、坊主の肺に
「あ、気付かれてましたか?」
「たりめぇだろうがよぉ」
オッサンに言われて初めて知った。そう、だったんだ。俺、何も気付いてなかった。
「オレ様の動きに付いてこうってぇんならよ、オメェら炭素系生命体は確実によぉ、
ガス人間8号くんは彼なりに、俺の為に働いていてくれたんだ、ずっと肺の中で。
だから俺達3人は
「何を言ってるんです。そもそも我々が奴を捕らえていたら、この1500番宇宙の高校生を巻き込む必要は無かったでしょうに」
「全くだぁなぁ。悪かったぜぇ」
悪びれる事も無く、オッサンの声がガス人間8号くん、じゃなくて8号さんが手にした赤いレンガみたいな外観の箱から聞こえる。
今、二人の警官の
「コンビニの
ガス人間8号さんの
俺が
「後はコレの処理だぁなぁ。にしてもよぉ……」
ただの高校生に戻った俺の足元に、ニセ総理が
「これじゃぁよぉ、帰るに帰れねぇだろうがよぉ」
手の平サイズの小箱から、情けなさそうなオッサンの声が。
「
「カッコつかねぇだろうがよぉ、これじゃ。
言えてる。レンガみたいな小箱じゃあね。でも、どうやってオッサンは?
「あ? 誰が
そう言いつつオッサンは、自分で
「これが
とりあえず死んじゃった
正直、ホッとした。
「やはり、そう言う事でしたか」
「約束通り、教えてやったぜぇ」
「はいはい。ですが、どうやってケイ素製の
そうだよね。そこが
「ボウズよぉ、オメェが持ってるそれ、
「え? これ? あ、返さないと……」
「そのうち取りに行くからよぉ、しばらく
取りに行くからって、オッサンは言うけど、無理だよね。
「俺の記憶、消すんだろ?」
完全に忘れてたって表情で俺を見た後、
タリズマンを持っているのは俺だから、当然なんだけど。
一瞬の気まずいような沈黙の後、持っていた小箱を俺に渡して、メタリックに輝く
「え?」
空気の抜ける音が響いて、ゆっくりとヘルメットが持ち上がる。中から出てきたのは声にジャストフィットした顔だった。
「オメェ、ガキんちょじゃ無かったのかよぉ。反則だぜぇ、そりゃ」
オッサンの言う事も判る気がする。ちょっと大人の甘いマスク、とでも言うのか? イケメンお兄さんがそこに居たんだ。
「このまま素顔を
そう言って1637番宇宙から来た異世界の俺、気化生命体の
赤いレンガみたいな外観の小箱を、俺から受け取ると
「君の記憶を消すのは、やめました」
「あ? イイのかよぉ、
姿の見えないオッサンのツッコミにも、再び
「覚えていて欲しくなったんですよ。
「まぁ確かに、そうだぁな。例え二度と会えなくてもよぉ」
声の出る小箱を見下ろして
「君の言う通りでした。このスーツには
「良かった。やっぱりお父さんだね」
俺の言葉に
「こんな状況も予見していたのでしょう。戻ったら、きちんと
なんか、小学生姿の時と全然違うぞ、ダークさの
「
うん、オッサン良い事言ったよ。あんた、箱のままの方がイイんじゃないか?
「さぁってと。そろそろ報告に行かなけりゃなぁ、
「そうですね、
「あぁ
「変わりませんね、まったく」
「そうそう変わるかよ。人間てぇなモンはよぉ」
そんな言い合いを続ける二人の姿が
「また、あれかな? ものすごい圧力のやつ、重力波だっけ?」
「えぇ、重力だけが
「どこの世界も何らかの方法でよぉ、重力使って移動するんだぁな」
そういう物なのか。俺は何も知らなかった。全てが
そんな事を考えていた
「では、これにて。1500番宇宙の私」
「あばよぉ。この世界のオレ」
最後に別れの
あれから半年。
そう、今は新学年の春、真っ盛り。
ニュースを見れば、どう考えても、この世界の
あの秋の日の事件も、結局は
もっとも、翌日の俺は全身が
ガス人間8号さんの言うとおり、オッサンの体の動かし方はこの世界の生命体とは
とは言え、謎の事件が起こるかと思えば、現代科学では証明できないような奇跡が、人々を助けたりしていた。
「きっと、
通学中、そんな言葉が口をついて出る。
出た
誰だよ、まだ
そう思いつつ振り返った我が目に、会いたかったような、いやいや見たくなかったような二人組の姿が飛び込んでくる。
「な、何で? また事件かよ!」
思わず出た俺のセリフに、あの秋の夜と同じ
「そいつが判ってんならよぉ、力ぁ貸してくれやぁ、ボウズ」
「え?」
「済みません。実は
「え、えぇ?!」
あの二人の声を耳にして、反射的に俺は走り出していた。
「待てや、ボウズよぉ!」
「
「そこを何とか、お願いしますよ」
逃げる俺を、二人が追いかけてくる。
「今、登校中なんだから、無理!」
そう叫んで、俺は学校を目指して全力で朝の街を
この二人との出会いが、そして再会が全ての始まり。
ただの高校生だった俺が「普通」を、そして「人間」さえ卒業していく事になるなんて、この時は考えもしていなかったんだ。
第1章 了
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