2-3
涙は血からできてるんだってクリスは言った。ほかにも血液から作られてるものがあるそうだ。
だからか、俺が死ぬほどハラ減ってんのは。
「――お前は冷蔵庫の中をカラにする気か?!」クリスが悲鳴をあげた。
「悪いけど、吸血鬼野郎に血を売って――いんや、涙とか、べつのもんでもいいぜ」
コンロを占領して、ソーセージとパンケーキと目玉焼きを焼いたはしから口に入れながら言ったら、怒ったのか、クリスは顔を赤くした。
「それはまだ生焼けだろう。腹を壊すよ」
「だいじょーぶ、死にゃしねーよ」
ほとんど噛まずに犬歯で引き裂いて吞み込む。
クリスが焼くのを交代してくれたので、グラノーラの箱をあけて半分をボウルに流し込み、ひたひたになるまで牛乳を注ぐ。いい感じにふやけたところを一気に飲み干す。
同じことをもう一回くりかえし、ふた箱目に手をかけたらクリスに止められた。
「いい加減にしなさい。明日の朝食べるものがなくなるぞ」
「なんだよ、いいじゃん、神サマだってさ、その日の苦労はその日だけでじゅうぶんだ、明日は明日でなんとかなるっていってんじゃん」
「お前は本当に――」
クリスは目が疲れた、みたいに眉間を揉んだが、呆れたように微笑んだ。
その笑顔を見て、ああやっぱり、今の俺の
兄貴たちと会えなくて寂しくないっていったら嘘になる。それに、家族っていっても……その……俺がクリスにいろいろフクザツな感情を抱いてるっていうのは変わらない。
だけどそれって、ホントに血のつながった家族でもあることだろ? あのクソ兄貴マジムカつくふざけんないっぺん死ね、って思ったことは何百回とあるし、クリスのお節介がうぜえと思うことだってある。
アルの兄貴の顔――あの女性に笑いかけてた顔がうかんだ。
そうさ、アルフレッドは冷たいやつなんかじゃない。ずっと昔から俺のあこがれの兄貴で――べつの群れの
俺の
「ちょっとさ……どうしてんのかなって思って見に行っただけだよ。その、……も、俺もいなくなって……あのテキトーすぎるバートの兄貴たちが家のことなんかちゃんとやってるとは思えなかったから、なんつーの、心配でさあ……。けど兄貴たちはみんな元気だったよ。もう来んなって言われてるからさ、その様子見てたら……なんか……昔のこととか思い出して泣けてきたんだよ。最近、俺の涙腺、ジジイの
けどその話はそれきりで、俺もこの件についてあーだこーだくっちゃべったりしなかった。クリスに「よしよし」してもらうのはこれっきりだ。いやしてもらっても全然いいしそれ以上のこともしてもらいたいけど、それは別件でのことで、いくら俺がバカだって、本人に打ち明けていい悩みとそうでない悩みの区別がつかないド阿呆じゃない。これ以上クリスに心配かけたくないしな。
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