第35話 二人の星⑧
「うっ」
青年は、その場に膝をついて崩れ落ちる。
切り裂かれた腹部からは、ベットリとした血が溢れ出て、傷口が焼けるように痛む。
刀剣を地面に突き刺して、杖代わりに何とか体を起こす。しかし、銃は地面に落としてしまい遠くに転がっているので、反撃する事もかなわないだろう。
ドンッ
目の前にいるクウカイは、青年の胸あたりを思いっきり蹴り上げる。
「がはっ」
青年は苦悶の声を挙げて蹴られた衝撃で、道の真ん中に仰向けに大の字に倒れる。
クウカイは、つかつかとゆっくりと歩いて青年の顔を見下ろせる位置まで近付いて来る。
青年は、普段は火傷の跡を隠すために右目を髪で隠しているが、今は倒された衝撃で、その醜い右目も露わになってしまっていた。
瀕死状態の青年の目をしっかりと見ながらクウカイは口を開く。
「お前は、さっきの俺を仕留める唯一のチャンスで急所ではなく右腕を狙った」
「その甘さがある限り一生俺には勝てない」
クウカイは相変わらず無表情で、額に脂汗を浮かべ苦悶の表情で地面に横たわっている青年を見ている。
「トドメは刺さないでおいてやる。運が良ければ生き残れるだろう」
クウカイはそれだけ言うと、これが最後の言葉だとばかりに後ろを向いて立ち去ろうとする。山の頂上にいるはずの、ヒイラギを探しに行くのだろう。
「駄目だ・・・あの子だけは駄目だ」
クウカイが数歩歩いた所で、ふと後ろから声がしたので振り向いた。
瀕死の状態の青年が立ち上がり、鬼の様な形相で銃を構えて、こちらを向いていた。
腹部から血は溢れ出ており、顔色は紫色でかろうじて立っている状態だった。銃を構えている両手も大きく震えているので、引き金を引いても、とても相手に当たるとは思えない。
この青年の姿を見て、今まで無表情だったクウカイの表情に僅かに憐憫の色が浮かんだ。
クウカイは大きくため息を付くと、大鎌を構えて青年に近付く。
そして、大鎌を振り上げて青年の首元に向かって振り下ろそうとした、その瞬間。
ボコボコッ
青年とクウカイの間の地面が大きく隆起して、二人の間にあっという間に土壁がつくられた。
クウカイが後ろを振り向くと、続けて大きな火の玉が、男を目掛けて物凄い速度で飛んで来ていた。
クウカイは左側に転がって、火の玉をかろうじて避けると木々の間に身を隠す。
火の玉は土壁に激突して消滅する。
「木の間にいる」
真っ暗な登山道の上の方から、何やら少女の声が聞こえてきた。
クウカイは、木々の間に身を隠しながら坂の上にいる相手の様子をじっと伺っていた。
(連れの魔女だろうが・・・相当な腕だ)
先ほど、連続で土属性と火属性の魔法を使っているのを見て、クウカイは直ぐに攻撃を仕掛けてきた魔女の力量を見抜いていた。
「?・・・なんだと」
すると周りの木々の内いくつかが、まるでそれぞれ意志でも持っているかの様にうねうねと動き始めたるはないか。
これも魔法の一種である事は間違いないだろうが、今までに多くの魔女と対峙して来たクウカイでも、こんな滅茶苦茶な魔法を見るのは初めてだった。
まるで、いきなり精神異常者の悪夢の中にでも放り込まれた様な感覚だった。
シュンッ
うねうねと動いている木の内の1つの、枝が瞬間的に伸びて槍の様にクウカイに迫り右足を掠った。
(これは無理だ。引くか)
クウカイは瞬間的に不利を悟って撤退を決断した。
脇目も振らずに、木々の中を風のように素早く駆け抜けて山を降りていく。
「逃げられた。相当速いし、これは追いつけないな」
登山道の上の方から魔法を使っていたリッカは、集中を解いて隣のヒイラギに話しかける。
「そういえば、ハクさんは」
ヒイラギは青年の事を思い出して、坂を走って降りていく。
「良かった・・・無事か」
坂道を下ってこちら側に走ってくるヒイラギの様子を見て安心したのか、何とか気力を振り絞って立っていた青年はその場に崩れ落ちる。
「ハクさんっ」
ヒイラギがそばに駆け寄ってきて、青年の頭を自分の膝の上に乗せて仰向けに寝かせた。
「大丈夫だ、大した怪我じゃないよ」
致命傷を負っており体には絶えず激痛に襲われていたが、青年は安心させるように少女に微笑んだ。
青年の頭を包み込んでいる、少女の柔らかい膝と手の温もりが心地良かった。
「でも、でも」
すぐ真上から、青年の顔を覗き込むヒイラギのその表情は不安そうで今にも泣き出しそうであった。
「あっ・・・」
思わず青年は声をあげる。
空にキラッと星が流れたからだ。
ヒイラギと傍に立っていたリッカも、つられて夜空を見上げる。
そして、次々と星が青い糸を引くように流れ落ちて夜空を彩った。
「すごい綺麗」
ヒイラギは思わず呟く。
三人共、その神秘的な光景に一瞬にして心を奪われて圧倒されていた。
青年は流れ落ちる星を見ながら、心の中でとある決心をしてゆっくりと口を開く。
「大事な話しがあるんだ聞いてくれ」
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