第24話 イバラキ超え①
そこは、辺り一面、砂の世界であった。
建造物はおろか、植物、土、水などが一切無く、どこまでもさらさらとした黄土色の砂しか存在しない、まるで生命を拒絶しているかの様な土地だった。
どういうわけか、イバラキに入った途端に、カラッとした灼熱のような暑さに襲われた。
三人は、フード付きの丈の長いローブを身に纏って、その暑さから身を守っていた。
一昨日の朝、このイバラキの地を通ってトウホク地方に入る方針に決まってから、青年は単身トウキョウの街に引き返して、砂漠を超えるための必需品を買い揃えた。
そして、買い出しを終えてヒイラギとリッカと合流すると、本道を避けて山林の獣道を乗り越え、このイバラキの地に足を踏み入れたのだ。
真っ昼間の太陽の強い日差しが照りつける中、三人は砂漠の真っ只中を並んで歩く。
「本当に何もない」
フードを頭からすっぽりと被った、ヒイラギは、はるか遠くまで広がる砂の海を見渡して呟く。カラスのジジも、ローブのポケットの中からひょっこりと顔だけ出して、一緒に周囲を見渡している。
ヒイラギ達が付けた足跡の他に、周囲には一切足跡らしき物は見当たらず、少なくとも最近は、誰もこの地に足を踏み入れた者はいないらしかった。
地表には、自然にできた規則的な砂紋が綺麗に浮かんでいた。
「私からしたら、こんなつまらない土地は無いよ。植物が一つもありやしないんだから」
リッカは、すらっとした指で地面の砂を掴むと、さらさらと手の隙間から落としていく。
「文句は言わない。ここが一番安全なルートなんです」
青年は、珍しくムスッとした表情をしていた。革靴を履いている為か、砂がしきりに靴の中に侵入して来ては、靴を脱いでひっくり返し砂を掻き出している。
「襲われる危険性は低いけど、食料や水が切れたらその時点でアウトです。なので、何としても3日以内には、このイバラキを通過しないと・・・」
先行きを心配する青年の話を、リッカがイライラとした様子で遮る。
「分かってるって。あんたは悲観的過ぎるのよ」
どうやら、このカラッとした暑さの中、彼女も相当気が立っているようだ。
三人はしばらく無言で歩いていたが、ヒイラギがふと思い出したように口を開く。
「実際に、こうして見ても信じられないです。一人の魔女の力で、この広大な土地を一面砂漠に変えたなんて」
「超越者ね。あれは魔女というより神だから」
リッカは、水筒から水を飲みながら話す。
「超越者レズリーの伝説ですか」
隣を歩く青年も、興味を惹かれたのか話しに入ってくる。
「へぇー、ノーマルの間でも名前が知れ渡っているのね」
魔女たちの間で伝説の存在である、魔法を極め不老不死に近い存在になった、超越者と呼ばれる魔法使い達がいた。
100年ほど前は、他と変わらずこのイバラキも人が住める土地であった。
なぜ、イバラキがこの様な不毛の地に変わり果ててしまったのか。それは、超越者が魔力を暴走させて今のような砂の大地に変えてしまったから、と言われている。
真相は確かではないが、様々なコミニティで言い伝えとして残っているのが、超越者は5人存在しているとの事だ。
その超越者の中で唯一、名前や顔が広く知れ渡っているのがレズリーと言う魔女であり、彼女がイバラキを不毛の地に変えたと言われていた。
「大昔に、たまたまテレビ局が回していたカメラにハッキリと空を飛ぶ魔女が映っていて、しかもカメラに向かって自己紹介している映像が残っているんですよ」
「それがレズリーで、ノーマルの間でも彼女は有名ですよ」
「ああ、私もその映像見た事あります」
ヒイラギは、子供の頃にコミニティの長老である、ミズタの家にあるテレビで観た映像を思い出していた。
「とんがり帽子、黒いローブのベタな魔女ルックで、しかもホウキにまたがって空を飛んでいるって言う・・・なんていうか度肝を抜かれましたね」
「あんた、超越者さまをディスってるでしょ」
リッカは、ヒイラギに近づくと背後から脇腹をくすぐる真似をする。
「いえっ、そんなことは。ただ度肝を抜かれたなぁと」
何やらじゃれ合っている二人を横目に、青年はふと何気なく来た道を振り返って見た。
相変わらず周囲には人っ子一人見当たらず、自分達が付けた足跡が延々と続いているだけだったが、何か心の中にざわざわと不吉な予感みたいなものを感じた。
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