第6話 怒りのバルドン、5000の兵を送る
使者が城に戻る。
玉座でハバンの書いた書状を受け取ったバルドンは鼻を鳴らす。
「さてどんな喜びの言葉が書いてあるのか」
嘲りの表情で書状を開く。
「……っっ!」
読み進めていくバルドンの表情は次第に険しくなる。
「どうしたのですか? バルドン。書状にはなんと?」
隣に座っているサリーノが眉根を寄せてバルドンへ問う。
「あ、あの男めっ!」
書状を破り捨ててバルドンが叫ぶ。
「こ、この俺が……国王であるこの俺が無能だとっ!」
書状には無能な愚弟バルドンへとあった。
「しかも戻る条件に俺の謝罪が必要だと書いてあったっ! ふざけやがってっ!」
「まあ……っ」
サリーノの表情も険しくなる。
「王に対してこんな書状を書いて送ればどうなるかわからないほど、あの人も馬鹿ではないでしょうに」
「そうだ思い知らせてやるっ! おいっ! これは王への反逆だっ! 至急、討伐軍をハバンのいる領地へと送れっ!」
「お、お待ちくださいっ」
いきり立つバルドンを大臣が慌てて止める。
「ハバン様がいなければ食糧難の解決はできませんっ! ここはどうか穏便に……っ!」
「ならば俺が謝罪をしろと言うのかっ! ハバンにっ!」
「そ、そういうわけでは……」
言葉に窮して黙り込む大臣。
怒りの収まらないバルドンは立ち上がり、光の剣で玉座を真っ二つに斬り裂く。
「あの男めっ! ハバンめっ! 足元を見てこの俺を舐めやがってっ!」
「落ち着きなさいバルドン。品がありませんよ」
「けど母上っ!」
怒りに吠えるバルドンの頭をサリーノは抱く。
「あなたは国王なのよ。喚き散らすなんてみっともないことですわ。冷静になりなさい」
「はー……ふー……。わ、わかっております。母上」
サリーノの言葉で落ち着きを取り戻したバルドンが大臣たちに向き直る。
「なにか考えはあるか? 俺が謝罪する以外でな」
「……」
「では、まずはハバン様を殺さず捕えるべきでしょう」
「わかった。では100の兵でも送ってハバンを捕えて来い」
「そ、その前にひとつ気になるご報告が」
「なんだ?」
「使者からの報告なのですが、ハバン様の領地の領民は誰も飢えておらず、十分に食料を得ているようなのです」
「なんだと?」
鉄を出せる能力を使って、独自に他国から食物を輸入したということかとバルドンは思う。
「いや待てよ……」
ハバンの異様に強気な態度。
そこによもやの可能性が思い当たる。
「ハバン、もしかして奴は他国と通じているのか?」
鉄を大量に提供する代わりに領地へ他国の軍勢を入れている。
強気な態度をとれる理由にはそれしかないとバルドンは考えた。
「ふ、ふ、ふ……まさか本当に反逆をくわだてているとはな」
おもしろいとバルドンは笑う。
「100は取り消しだ。5000の兵をハバンの領地へ送れ」
「ご、5000でございますか? それはいくらなんでも多過ぎでは……」
「奴の領地では他国の兵が控えているはずだ。それと、ハバンは生きてさえいればどれだけ傷つけても構わん。反逆者に容赦など必要はないからな」
「は、ははっ、かしこまりましてございます」
頭を下げる大臣を見下ろしてバルドンはほくそ笑む。
何日かのち、ここで傷だらけのハバンが這いつくばっている。
その姿を想像すれば、笑いを押さえることなどできはしなかった。
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