第4話 鉄鉱山は枯渇したようです
ハバンが王都から辺境へ追放されて3ケ月が経つ。
バルドンとその母サリーノは愉快な様子でテーブルを囲み、中庭でティータイムを楽しんでいた。
「ハバンがいなくなってもう3ケ月ですか。ふははっ、実に爽快な気分ですな」
下級貴族の母を持つハバンが兄であることがバルドンは気に入らなかった。
せめて遠くへ。それが叶って実に気分は晴れやかであった。
「まったく。あんな鉄を出せるだけの男がわたくしの大切な息子と兄弟なんて不愉快ですわ。まあ、二度と会うことがなければ存在しないのと同じですわね」
別の女の息子が王子として存在する。
嫉妬心の強いサリーノにとって、その事実は不愉快極まりなかった。
晴天のもと、親子は笑い合いながら茶を飲む。
そこへ、
「こ、国王陛下。少しよろしいでしょうか?」
神妙な面持ちをした3人の大臣がやってくる。
「今は母上と茶を楽しんでいる。あとにしろ」
「早急にご判断いただかねばなりません。どうかお聞きくださいませ」
「ふん。まあいい。言ってみろ」
「はい」
別の大臣が前へ進み出て口を開く。
「今年は国内の各地で大雨が降り続き、そのせいで洪水も多くあったため農作物をほとんど収穫できておりません。運の悪いことに流行り病で家畜も多く死んで、国内で食料が足りない状態に陥っております」
「鉱山から採れた鉄を売ればいいだろう。なんのために鉄鉱山を発見させたと思っている」
呆れたように言うバルドンの前で、大臣3人は顔を見合わせる。
「その……鉄鉱山はすでに枯渇してしまいまして」
「……」
つい最近、発見された鉄鉱山がすでに枯渇。
これはバルドンにとって意外だった。
「なぜそんなに早く枯渇してしまうことに気付かなかった?」
「鉄鉱山を発見した場合はすぐに知らせるようにと国王陛下に仰せつかっておりまして、すぐにお知らせを差し上げたので調査はほとんど行っておりませんでした」
「……っ」
こいつらはこんなに無能だったのかと心の中でバルドンは舌を打つ。
「ど、どういたしましょう? このままでは食糧難で国民の多くが飢えて死んでしまいます」
「放っておけ」
無慈悲なバルドンの言葉に大臣らは絶句する。
「庶民なんぞ腹が減れば狩猟でもするか、草か虫でも食べて生きるだろう」
「お待ちくださいっ。仮に国民はそれでよいとしましょうっ。しかし現在の食糧難は深刻ですっ。王族や貴族の食糧すら危ういのですよっ」
「……ふむ」
「それは困りますわ」
王族や貴族が庶民のように草や虫を食べるわけにはいかない。
なにより自分や母がそんなものを食すわけにはいかないとバルドンは考える。
「先ほど、お前らは俺に判断しろと言ったな? ならばなにか考えはあるのか?」
バルドンの問いに、3人の大臣はふたたび顔を見合わせる。
やがて真ん中の大臣が意を決して口を開く。
「ハバン様にお戻りいただくべきかと……」
「なんだと?」
それを聞いたバルドンはイスからゆらりと立ち上がり、
「馬鹿げたことをぬかすなこの愚か者がっ!」
発言した大臣を蹴り飛ばす。
「あの男に頼れと言うのかっ! ふざけるなっ!」
「し、しかしそれしか方法が……」
「黙れ黙れっ! あの男を戻すなどともう一度言ってみろっ! 貴様の口を引き裂いてやるぞっ!」
「ひ、ひぃっ!?」
光の剣を向けられて大臣らは一斉に退く。
「ようやく追い出したのだっ! 絶対に戻さんっ!」
鼻息荒く声を張り上げるバルドンの背後で、サリーノは落ち着き払った雰囲気で茶の器を置く。
「他になにか考えは……」
「よいではないですか。ハバン様を戻せば」
「母上っ!?」
驚きの声を上げてバルドンは振り返る。
「あの男を追い出すのは母上の強い望みだったではありませんかっ! それなのに……」
「まあ聞きなさいバルドン。戻らせたら山ひとつ分は鉄を出させて、それからまた追放をしたらよいではありませんか」
「そ、それは……確かに。しかし素直に戻って来るでしょうか?」
強く罵倒して追い出したことがバルドンの頭に思い出される。
「王に次ぐ要職を与えると書状でも書けば喜んで戻ってきますわ。ろくに食べ物も食べることのできない辺境での不自由な暮らしに嫌気が差しているでしょうし」
「ふむ。そうですね。さすがは母上だ。おい聞いていたな。すぐにハバンへ書状を送れ」
「は、ははっ」
命を受けた大臣たちは慌てて去って行く。
問題が解決して落ち着いたバルドンは、ふたたびティ―タイムへと戻った。
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