第2話『 温かい食事』

未央と別れて俺は自分の部屋でのんびりして居るとスマホが突然鳴り出した。

誰だろうと思い画面を見ると『舞ねえ』と名前が表示されている。




「もしもし、どうしたんだ?舞ねえ」

『瞬ちゃん、今日ね、おばさんが帰るの遅くなるから夕飯作りに行くねぇ』

「なんで、俺に言わないで舞ねえに言うんだよ……」

『瞬ちゃんに任せちゃうと栄養が偏った食事しかしないからでしょぉ?』

「……」




俺は何も言い返す事は出来なかった。

大体食事となるとジャンクフードや弁当しか食べないし……

しかし、舞ねえは普段はあんな感じなのに料理に関して言えば贔屓なしで美味いのだ。

ぜひともこの特技を活かした人生を歩んでほしいものだ。


『あ、そうそう、未央ちゃんも夕飯誘っているから一緒に食べない?』

「誘っている時点で疑問形で聞くなよな……」

『あ、そうでした。えへへ』


小恥ずかしそうに笑う声が聞こえる。


『じゃ、またねー』

「あぁ……」



電話を切ると今度はチャイムの音が聞こえたので窓を開けて確認すると未央が居た。

未央も窓の開ける音で上を見て俺がいるのを確認してから家の中に入って行ったので俺も部屋から出る。


「あ、お兄ちゃん、私のお母さんから。ゼリーだって、みんなで一緒に食べようよ」


未央が俺に袋を渡されてすぐに冷蔵庫の中にゼリーを入れた。


「ん、悪いな」

「お姉ちゃんは買い物中?」

「多分、そろそろ来るんじゃないか?だから、来るまでのんびりしてってくれ」

「そうだね、そうしておくよ」


俺は台所に行き、冷蔵庫から作り置きしている麦茶を取り出す。

その麦茶をグラスに淹れる。自分のグラスにも入れて未央に渡した。


「ありがと、お兄ちゃん」


麦茶を受け取り、嬉々として飲んでいる。


「……」


俺は前々から言っている事を言うことにした。


「つーか、いつになったらその『お兄ちゃん』呼びをやめるんだ?」


そう、未央は幼少期からずっと俺をお兄ちゃんと呼び続けている。

小さい頃はよかったのだが、さすがに高校生になってまで呼ばれるのはちょっときつい……。


「別に血の繋がった兄妹じゃないとお兄ちゃんって呼んじゃいけない訳じゃないんだし、いいじゃん?」

「それはそうなんだがな……」


そう言われてしまうと「別にいっか」と思ってしまうのは俺が未央に甘いかもしれない。


「一応、学校とか他の人がいる時は小さく言うか先輩って言ってるじゃん?大丈夫、大丈夫」


そうやって、呑気に笑っているが慌てたりするとついお兄ちゃんと口走ってしまうのによく言えるなと思ってしまう。

ちなみにクラスメイトからその呼び方についてはバレているが当の本人は気づいていない。


「な……呼……人……ってからだし……」

「ん?何を言ったんだ?」

「な、何も言ってないよ!?」


何故かごまかすように慌てふためく未央


「いや、確かに何か言ってたって」


あまりにも怪しすぎるので問い詰めようとするが……。


「い、言ってないってば!」


頑なに何を言ったのか喋ろうとしない未央であった。

普段なら独り言を聞いて訪ねても答えるのに何故なんだろう?


「わーかったって言いたくないんだな?」


これ以上追及しても言いそうにないので両手を挙げて溜息をついた。


「何も言ってないけど、そうゆう事にしてあげましょう」


ふふんと勝ち誇ったような表情を浮かべながら麦茶を飲んでいる。

やれやれ、実際の妹はここまで手がかかるのだろうか?謎である。



その後、テレビを見ながら雑談をする事五分ぐらいだろうか?

ピンポーンとチャイムの音が鳴る。

舞ねえが来たみたいなので俺は玄関向かいドアを開いた。


「遅れちゃってごめんねぇ……」


買い物袋を両手いっぱいに持って舞ねえは立っている。


「俺の親たちの分もか?いつも悪いな……」

「分量が多くなるだけでまとめて作っちゃった方が楽だからね」


本当に料理の事には頭が上がらないな……


「お姉ちゃん、手伝うよ」

「未央ちゃん、ありがとー、じゃあ、ジャガイモの皮むきをお願いー」

「はーい」


未央は舞ねえの手伝いをいつもしているので手際よくやっている。

俺は料理は出来ないので見守る事が最大の手伝いだ。

過去に何かに影響されて料理をした事がある。

結果としては思い出したくもないぐらいの惨状になったのでそれからはトラウマだ。

さすがにずっと見ている訳にもいかないのでテレビを見る事にする。


『次のニュースです。本日行われた……』

「……」


リモコンを手に取りチャンネルを変える。


『アメリカ国防省では……』

「……」


別のチャンネルにまた変えてみる。


『株価の下落が……』

「つまらない……」


普段ならこんなつまらないと思う番組を一人で見るのは平気なのだが今日に限ってはなんだか見る気が起きない。

出れ尾の電源を切ると俺は再び二人の様子を見る事にした。

ぼんやりと眺めていると俺の視線に気づいたらしく舞ねえが「ちょっと待ってね」と申し訳なさそうにしている。


「何か手伝える事ないか?」


そう言うと未央はこの世の終わりが来たみたいな表情をしていた。


「えーと……え?何?お兄ちゃん?手伝うなんて地球滅ぶよ?」


訂正、この世の終わりだと思っているようだった。


「失礼な……俺だって手伝いたいと思う時ぐらいある。」


そう普段は『思う』のだ。

ただ、思うだけでしてはいないが


「どうせ、やる事なくてテレビ見てもつまらないから言ってるだけでしょ?つまんないってボヤいてたし」

「未央ちゃん、いいじゃない手伝って貰ったら?」


ここで神の手……もとい舞ねえの救いの手が差し伸びられる。


「お姉ちゃん、情けは人の為ならずだよ?」


すかさず、未央の魔の手で遮られる。


「おい、舞ねえの気遣いを否定するんじゃない」

「お兄ちゃんに調理や食器並べるだけでどれだけ被害が出ると思ってるのよ?食材と食器が勿体ないよ」


ちょっと失礼すぎやしないか?調理をするならまだしも食器なら数枚程度だ。


「その料理はダメだが食器ぐらいならちょっとしか割らないみたいな顔はしないで?」


どうやら、顔に出ていたようで俺を睨みつけている……ちょっと本気で怖いぞ未央よ


「しかしな、今日に限ってテレビを見ても暇つぶしにならないんだよな」

「だったら、勉強したらいいじゃない?」

「空腹の状態で勉強なんてできる訳ないだろ?」

「はいはい、二人ともストップ、もうちょっとで出来るから瞬ちゃん待ってね」

「もう!お姉ちゃんは甘いよ!」

「ほらほら、未央ちゃん、サラダの盛り付けお願いねー」

「はぁ……わかったよぉ……」


未央は大きなため息をついた。そして、諦めたのか、ぶつぶつと呟きながら言われた通りサラダの盛り付けを始める。

さすがにこれ以上の邪魔は本気で怒られかねないので俺はそそくさと自分の部屋に戻る事にした。

十分後、晩御飯が出来たと舞ねえから呼ばれて俺は食卓へ

そこには少し怒りながらもきちんと待っている未央とにこにこ笑顔の舞ねえが待っていた。

みんなで「いただきます」をして会話をしながら温かい食事を楽しんだ。

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