Love Chain

南風キル

第1話『少年と少女の変わらぬ日常』

 梅雨が明けて日差しが強く感じ始めた初夏のある日……


 俺、朝川 駿一あさかわ しゅんいちは天文部と書かれた部室に一人でいた。

 俺がいるこの高校では部員は五人以上居なければ部として認められないのだが……

 天文部は正式な部員は俺と部長で従姉の舞姉まいねえこと朝川 舞夏あさかわ まいか

そして、俺の一つ下で隣の家に住んでいる綾瀬 未央あやせ みおの三人ぐらいだ。

 去年まではちゃんとした部だったらしいのだが……

 今の舞姉以外は三年生で全員卒業してしまい、「せめて自分が卒業するまでは部活を維持したい」と

 当時、帰宅部だった俺に舞姉は教室の目の前で泣き出され、クラスメイトから勘違いされた視線に断り切れずに名前貸しで天文部に入ったのだが……

 これもまた従姉のお願いにより天文部の部員として来るようにと言われてしまった。

 そして、同じ理由で未央もすぐ入部して俺の友達の七海 高明ななみ たかあきと舞姉の友達の名前を借りて天文部はなんとか継続……

 いざ、部活動が始まるかと思いきや……


「天文部らしい行動一切してないよな……」


 誰も居ないのにボヤいてしまった。

 そう、正式に継続が決まってから一か月ちょっとが過ぎてるのだが未だにらしい活動はしていない。

 未央は入部してから最初は天文部としての活動をやろうとしてはいたのだが一週間で挫折した。

 原因としては舞姉が天文学の知識がないのと俺自身にやる気がないのが主だが……。

 なので部室に来てやる事は暇つぶしに天文部に置かれている図鑑や何故か天文学に関係のない手相占いの本と俺が持ち込んで置いてある漫画をてきとーに読んでは三人でしゃべりながら適当に時間を過ごすだけの部活動しかしてない。

 ……卒業した先輩方には悪いとは心では思ってはいるのだ、心では。

 ただ、本格的な事をしなくていいので個人的には気楽でいいのだが……


「お待たせー」


 扉が開く音とともに入ってきたのは少し長めの髪の髪型が特徴の綾瀬 未央だ。


「おう、遅かったな未央」

「ん、ちょっと用事でね」

「そうか」

「うん」


 軽いやり取りをした後、真央は鞄から勉強道具を取り出した。

 ここだけならいつもの光景なのだがちょっと変わった物を俺は見つける。

 なんの飾りもついてない銀の鎖に鍵がついてるだけのシンプルな物だ。


「なぁ、その鎖がついた鍵はなんだ?」

「これ?これはね 部室の鍵だよ」

「は?だって、昼休みにちょっと遅れるからって先に部室開けておいてって言われて俺が鍵預かってたんだが……?」

「それがね……」


 未央が言おうとした時に扉が勢いよく開いた。


「はいはーい、舞夏おねーちゃんが来たよ~」


 元気よく現れた長い髪を後ろに束ねてポニーテイルにしている人こそ天文部部長の朝川 舞夏である。

 従姉のはずなのだがいつも自分より年下じゃないか?と疑ってしまう行動を取ることが多いのだが……たまに年相応の行動もするので反応に困るところだが……。


「今日はこの部にとって大事なお話があるんです。駿ちゃん!」

「大事な話?」

「そう、今日から部長を未央ちゃんにやって貰う事になりました!」

「って事になったみたい、お兄ちゃん」

「早くないか?」


 運動部や他の文化部より早いどんなに早くても9月頃だと思うのだが?


「お姉ちゃん、こうゆうのは早い方がいいかなって思ってたみたいだよ」

「そうそう、私も卒業しちゃうからね」

「来年廃部になると言うのにか?」

「いいの!おねーちゃんが阻止するからだいじょーぶ!」

「大丈夫ではないな」

「安心して、お兄ちゃん私がしっかりやるから……」

「それなら、安心だな」


 この場合の安心は天文部の存続ではなく舞姉の暴走を抑えると言う意味だ。

 いつもこんな風に暴走気味になるので俺や未央が宥めたり諭したりして抑えている。


「存続とか別として部長は俺より未央の方が適任なのは間違いないな」

「ただ、やりたくないだけでしょ?」

「そうとも言うな」

「もう……」


 溜息をつきながら真央は呆れていたが、事実なのだからしょうがない。俺はそうゆうのには向いていないのだから……。


「そうそう、あと一つだけ言うことあったんだ」


 未央に宥められて落ち着いた舞姉はそう言いながらホワイトボードに文字を書き込み始める。


「言うって言うか書き込んでるじゃん……」


 俺のツッコミは聞こえないのかウキウキしながら書き、さらに絵も描いているようだった。


「よし、できた!」

「は?」


 ホワイトボードに書かれていたのは『天体観測』と大きな星と月の絵が描かれている。


「なんでまた……」

「えっと、由美ちゃんにちゃんと部活動『も』しないと色々困るって言われちゃって……」


 照れたみたいに軽く笑っているのだが従弟としてはかなりの不安でしかないのだが……


「っと言うか大久保先生を下の名前で呼ぶのはどうなんだ?」

「ゆ、由美ちゃんとは仲いいし……」


 いや、ちゃん付けはないだろ……ちゃん付けは……。


「もう、それ以前にお姉ちゃん、もうちょっとしっかりしようよ……」

「だ、だから、こうして活動しようってしてるでしょおぉ」


 未央も同じ事を思ったみたいで舞ねえを擁護するつもりないみたいだ。

 擁護もされない舞ねえは涙目になりながら反論をしているが……。

 なんだろう、全く反省してるとは思えない。


「俺も未央も舞姉の事を心配しているんだぞ?もう三年生で卒業なんだからしっかりとだな……」

「そうだよ、お姉ちゃん?いつも一緒に居られる訳じゃないんだし少しは……」


 俺と未央は説教をし続けた。

 しかし、少し言いすぎたのか説教が始まった十分後には……


「ひっぐ……うっぐ……」


 涙目だった舞姉はまるで小さな子供みたいに大粒な涙を浮かべながらむくれていた。


「ええと……そ、そのちょっと怒りすぎかな?」


「あ、あのな?言い過ぎたのは悪かったけどな?意地悪で言ってる訳ではないんだぞ?」


 その姿を見てさすがの真央も冷静になって罪悪感が押し寄せているみたいだ。

 無論、俺も罪悪感が押し寄せてちょっと後悔している。

 その後、すごく気まずい雰囲気のまま部活動を終える事になった。天体観測は舞姉のために一応やる事は反対はしないのだが……

 帰りの時にまだ落ち込んでいる舞姉は用事があるらしく先に帰っててと言われ、俺と未央は二人で帰り道を歩いている。


「すごい落ち込んでたね……お姉ちゃん」

「言い過ぎた事には反省はしているが……さすがに担任の先生まで不安になっているとなぁ……」


 舞姉の担任で古文を教えている大久保先生は何事にも寛大で人が良く舞姉のクラスだけではなく、他の生徒からも人気もある。

 その先生ですら若干でも手に負えなくなってると思うと心が痛むのだ。


「次からもうちょっと優しくしなきゃね……私達」

「まぁ、そうだな……」


 とは言いつつもお互い「似た事が起きたら同じ事をやるんだろうなぁ」と声を揃えて呟く……

 一瞬の間が空いてから、その空気に耐え切れず俺と未央は苦笑いするのであった。

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