第12話 引きこもりの熱き想い
◇◇◇
栗宮澪は部屋の自分の扉近くで足音が遠ざかっていくのを聞いて、ほっとした……。
「し、失敗したぁ……さすがにこれはバレると引かれるよね……」
澪はそう言いながら部屋の隅の設置してある小型モニターに目をやる。その画面にはこの家の扉の前の映像が流れていた。
このモニターを見れが誰がこの家に訪れたかわかる……これは澪が引っ越し時にこっそり天井の水道メーターの影に仕掛けた監視カメラだ。
「電源をつなげることに苦労したけど……うへへ、引きこもりとしては、外の映像を見るのは重要……居留守は最強の武器だし」
澪は少し自慢げに笑い、少しご機嫌でモニター隣接してセットされているパソコンを操作する。そして『お気に入り』のフォルダをタップする……。
すると……嫌悪感がする笑みを浮かべた中年男性が映し出された……。
「うーん……音声だけ切り抜いた方がいいかな……? 映像はいらいないなぁ」
そんなことを呟いているうちに、聞きたい声がパソコンから流れる。
『あんまりしつこいと警察呼びますよ?』
それは政吉の声で……自分を守ってくれた言葉だ。
その声を聞くたびに心が温かくなる……。
「はぁ……全然変わってないなぁ……政吉」
澪は脱力してベッドに倒れ込む……。
そして自分の長い髪を指でいじる……。
「うへへ……肩までかぁ……結構切らないとだめだなぁ……でも、自分で切るのはなぁ。上手く切れる自信ないし……で、でも、美容院なんて……」
外に出た自分を想像する。
周りに『見られている』と感じる感覚を思い出す……。
「む、むり、むり、むり、むり……もっと無理! はぁ……でも、可愛いって言われたいなぁ……ふん、化け物だの、幽霊だの、失礼しちゃうよ……まあ、今はその通りかもしれないけど……」
澪は目をつむる。
昨日はパソコンでいろいろとしていて、結局寝れなかったので、今から寝るところだ……。
「ふははは、愚民どもが働く時間に寝る……極楽じゃ」
と、笑い……意識が薄れかけた時……澪の部屋の近くにある風呂場の方から、シャワーの出る音がした。
(……政吉が入ってるのかな……)
そんなことを考えると、一気に意識が覚醒し、がばっと身体をベッドから起こした。なぜなら……。
「わ、わ、私もさっきシャワーを浴びたばっかりなんですけど……! えっ? えっ? 私が使った後すぐに政吉がシャワーを使ってるの? さ、さ、さ、さっき、私お風呂場で裸になっていたんだですけど……!?」
一気に恥ずかしさがおしよせてきて、混乱する。
「ま、まて、まて、政吉が風呂場で裸になってるとは限らない服を着たままシャワーを浴びている可能性も……なくはないはず。それなら近い時間に同じ部屋で裸になったという事実はなくなるというわけだ……い、いや、服を着たままシャワーを浴びる人間はいないかぁ……ああああああああ!」
澪は顔を紅くして、ベッドに顔を埋めて、うめき声を漏らす。
そしてしばらくすると顔を上げて独り言を再開する。
「はぁ、一緒に住んでるわけだから、こういうことは起こるわけで……そのたびにこんな風になると私が精神的に持たない……う、うん、別にシャワーなんだから、いいじゃん。これが湯船だったら……恥ずかしさで死んでるけど。うぅぅぅぅぅ。うがあああああああああああ」
再び顔をベッドに埋める……さっきまで眠かったのに……しばらくは寝られそうになかった……
愛で引きこもり義妹を外に連れ出す シマアザラシ @shimaazarashi
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