第7話 引きこもりの憂鬱

   ◇◇◇


 同時刻。

 栗宮家にて。


 栗宮澪は自分以外いない家で、久しぶりのお風呂を楽しんでいた。


「うへへ……やっぱりシャワーだけだど、入った気がしないよね~~! うーん、気持ちいい」


 防水加工のスマホとペッボトルの水を風呂場に持ち込んでいて、リラックスしていた。

 こういう時間が毎日欲しいとは思うが……まあ、引きこもりには贅沢だろうと思った……。


「花音の話だと、夕方までは帰ってこないらしいし、ゆっくりしよう……この入浴剤すっごくいい香り……」


 これは花音が『お姉ちゃんの好きそうな入浴剤見つけたから、ネットで注文しといたよ!』と、買ってくれたものだ。


 お風呂を楽しんでいると、花音からメールと写真が送られてきた。


『念願のお寿司!! 美味しい!! お姉ちゃんにもお土産買ってくね!! なので、たこ焼きはキャンセルです!!』


 写真にはカウンターのテーブルに置かれた料理に満面の笑みの花音と苦笑いの政吉が写っていた。


「うへへ、花音が楽しそうで本当によかった……ママが再婚してくれて本当に良かったかも……政吉さんとも『また』会えたし……うへへ、あの人、顔変わってないなぁ」


 澪は懐かしい記憶を思い出しながら、花音に「わかった」と返信すると、スマホを洗面台に置き、肩まで湯船につか。


「今日はお寿司か……久しぶりだなぁ。本当に花音はできた妹だよね……花音は私が引きこもってからも気にかけてくれて……それでいて、無理に外に連れ出そうとしないで……本当にできた妹……それに比べて私は……」


 花音がああ寂しがりや見えて、寂しがり屋なのは知ってる。それでいて、前通っていた学校では周りの子と話が合わずに孤立していたことも知っている……なのに、自分は2年間……妹と向き合わないで……引きこもっていた。


「駄目だ……私……で、でも、新しいお兄ちゃんとは話が合うみたいだし、よかった……昨日の夜……あんな嬉しそうな声、久しぶりに聞いたなぁ……やっぱりだめだ私……花音とずっと一緒にいたのに自分のことで精一杯で……ああ、だめだめ」


 澪は現実逃避……気分を入れ替えるためにスマホを手に取る。


「さぁて、何か面白いニュースはないかなぁ…」


 湯船につかりながら、スマホでニュースを見る。

 世の中に置いて行かれる……という、恐怖感があり、ニュースの類は定期的にチェックするようにしていた。


『引っ越し』のことがあったので、少し不安であるのだが……


「……ま、まあ、『芸能欄』を見なきゃいいでしょ……あんな写真1枚とられたぐらい、平気平気」


 澪はぼーっと思考を鈍らせながらニュースサイトは眺める、増税問題、殺人事件など暗いニュースが目に飛び込んでくる。


「むっ……もっと明るいニュースはないかなぁ……犬が倒立大回転したとか、猫が餓死寸前の老人に秋刀魚を渡したとか、一律給付金が百万出るとかさぁ……」


 お風呂の暖かさと、あえて思考を鈍らせていたのがいけなかった……誤って、芸能欄の項目をタップしてしまう。


 すると嫌な記事の見出しが目に入った。


『竜胆澪の今は引きこもり!?』


「…………!!」


 澪はその見出しが目に入った瞬間、手から力が抜け、ぽちゃんと湯船にスマホ落とした。そのことで意識が戻る。


「わああああ、し、しまった。いくら防水でも、入浴剤入りのお風呂にぽちゃんはまずくない!?」


 慌ててスマホを湯船から拾い上げて、タオルでスマホを拭き、動作を確認する。


「よ、よかった壊れてはいないみたい……はぁぁ、まだ引きずってるんだ、私。もう終わったことなんだから、別に何に書かれてもいいじゃん……」


 湯船に身を預けて風呂場の天井を見つめる。何も考えたくない……。

 そんな風に考え時間が過ぎていった……。

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