第6話 お寿司屋さんにはしゃぐ小学生

「らっしゃい!!」


「わああああ、ここがお寿司屋さんかぁ。テレビで見たまんまだ!」


「喜んでくれてよかった」


 それから花音ちゃんの要望を叶えるために駅前の寿司屋にやってきた。一応回らない寿司屋ではあるがランチなら握りが一貫80円からとコスパがいい。


 さらには味もよく近所でも評判のお店だが、時間がお昼にしては少し早いのですんなりと座れそうだ。


「政吉さん! 政吉さん! 私、カウンターに座りたい!」


「えっ……えっと、空いてます?」


  花音ちゃんに服の袖を引っ張られてねだられる……周りを見渡すと一番端のカウンターが空いており、店員のお姉さんが軟かに笑う。


「ふふっ、大丈夫ですよ。あちらの席にお座りください」


「わあああい」


「あ、あんまりはしゃぐなって」


 この子寿司屋に入って年相応になってるな……まあ、それぐらい喜んでくれてるってことだろ。

 まあ、花音ちゃんと少しでも仲良くなりたいし、いい傾向なのかもしれない……。


 俺は喜ぶ花音ちゃんと共にカウンターの席に座る。俺も寿司屋のカウンターなんて座った経験はないので少し緊張してしまう……。


「政吉さん、何食べる? 私は、私はね、デレビで見た……鯵ででしょ? 海老でしょ? あー、あん肝もいいなぁ。あっ、お金のことは気にしないでね。ママにいっぱい貰ってるから、好きな物たくさん食べてね? あっ、お酒飲むよね? せっかく来たんだし、日本酒? って言うんだっけ? とか飲んじゃえば?」


「お、おう……」


 また、尻尾があったら全力で振ってそうだ……可愛い。


「遠慮なんかしちゃだめだよ?」


「ふっ、いらぬ心配だ。まあ、俺は年上の奢りには全力で乗っかる男だ」


「……そこでドヤ顔になる意味は分からないけど。はぁ、政吉さんはお子様だなぁ」


「いや、さっきまで寿司に寿司に目を輝かせて奴に子供って言われても……」


「う、うるさいなぁ。と、とにかく、お酒を頼みなよ。せっかくのお休みなんでしょ?」


 照れているのか、メニューとにらめっこをし始める花音ちゃん。

 なんだこの可愛い生物は……。


「ああ、じゃあ、まずはビールかな。あとは適当につまみを食べるか……刺身2点盛と、てんぷらは……少し量が多いか。花音ちゃんも食べるか?」


「やった、食べる! オッケー、注文するから、お寿司は考えておいてね。すみませーん」


 そう言うと、目の前で寿司を握ってた大将に声をかける花音ちゃん。そして、うきうきで頼み始める。めっちゃ喜んでくれてよかった……。

 うーん、澪ちゃんも来れればよかったんだけどな……コミュニケーションで一番手っ取り早いのは一緒に飯を食うことだし。

 時と場合によるけど……。


(ちょっと、花音ちゃんに話を聞いてみるか……前は『お姉ちゃんに聞いて』と言われたが、今なら機嫌よさそうだし、少し話を聞けるかもしれない)


 俺は注文を終えてほくほく顔の花音ちゃんに話かける。


「なあ、ちょっと聞きたことがあるんだけどいいか?」


「何ですか? ふふっ、今は機嫌がいいのでなんでも答えちゃうよ。彼氏はいなくて、初恋もまだだよ?」


「……………」


 その情報にどんな顔をすればいいかわからないんだが……笑えばいいのか?


「えっと、澪ちゃんのことだけど、何で引きこもってるんだ?」


「あー、うーん。政吉さんこのタイミングで聞くとか、やるね……まあ、本当はお姉ちゃんに聞いてほしいんだけど、概要だけならいっか。家族なんだし」


 よし、ナイスお寿司。


「お姉ちゃん実は前に働いてて……労働という概念に絶望して、引きこもったの」


「え? 澪ちゃんって17とかじゃなかったっけ……?」


 引きこもったのが2年前という話は前カレーパーティーの時に聞いたので、それなら15から働いてたのか?


「まあ、お姉ちゃんがやってた職業かなり特殊だからね……仕事が原因で精神的に追い詰められちゃったの。はい、サービスタイムは終わり! あとはお姉ちゃんに聞いて!」


「あ、ああ…」


「……政吉さんになら話してくれる気がするし」


 ん? なんか言ったか?」


「なんでもなーい」


 ? まあいいか。

 仕事が原因で精神を病んだか……俺も現役の社畜なので、気持ちはわかる。仕事は人に再起不能の致命傷を負わせることができる……。


 ……17なんていう若い子が仕事で傷ついているなら、何とかしてやりたいと思った。

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