第5話 初めてのでーと

   ◇◇◇


 それから、花音ちゃんの準備ができたころに2人で出かけることにした。

 花音ちゃんは日本に来たことが初めてなので、建物や信号機や車など小さいことでも目を輝かせていた。


「昨日は移動と引っ越しの作業で1日が終わっちゃったから、あまり街を見れなかったんだけど、こう見ると、キレイな街だなぁ」


「前住んでいたところはどうだったんだ……?」


「くそ田舎です……」


 一瞬で笑顔が消えた……な、なんか悪いことを聞いたか?

 

「私、海外のおばあちゃんの家に住んでたんだけど、ものすごく田舎でね。別に嫌ではなかったんだけど……同い年の子も少なかったし、ママは仕事で帰ってこないし、お姉ちゃんは引きこもりだし……その反動か、都会に憧れる年頃です」


「そ、そうか……なんか悪い」


「いえいえ、別にトラウマになっているわけではないので、気にしない……」


 そこまで言って花音ちゃんは何かを考え込む。そして小悪魔的な笑みを浮かべる。


「いえ、私は傷つきました。なので責任を取ってください。一生」


「……話が一気に重くなったな」


「ふふ。まあまあ、私の話はこれぐらいでいいじゃん。少しは秘密にしておいた方が楽ししいし。あれだよ、あれ。女は秘密を着飾って美しくなるの。みたいな?」


「お前はベルモットかよ……」


 まあ、田舎に住んでいたという情報を得られたからいいか。ふっ、また幼女のことに詳しくなってしまったぜ。やったぜ。


(と……そうだ、ほぼノープランで出てきちゃったけど、行先を考えないとな……)


 俺はちらっと腕時計を見る。時間は11時半。まずは昼飯か。


「お腹空いてるか?」


「空いてる!」


「何か食いたいものあるか?」


「うーん、今日はカロリーチートパーティの日なので、どうしようかなぁ」


「カロリーって、小学生が気にするなよ……」


「甘い! 若い時の不摂生は歳を取ってから重くのしかかってくるんだよ!? あと見た目は全てじゃないけど、見た目は大事なんだから! 太っちゃダメ!」


「お、おう……」


 もう精神構造が意識高いOLなんよ……。


「でも、今日は政吉さんとの初めてのデートなんだから、その辺は気にしないってことで」


「で、デート……?」


 え? 俺、今から小学生とデートするの? えええ……うそん。


「はい、そこ。『俺、捕まるじゃん』みたいな顔しない。さすがに私も警察に職質されたら『お兄ちゃんとデートなの!』みたいに取り繕います。だけど、こういうのは気持ちが大事なんです」


「いや、純日本人の俺に金髪小学生の妹がいるのはおかしいだろ……」


「大丈夫、そういう時の為に戸籍表のコピー持ってきてるから!」


「なんで……俺より準備がいいんだよ……で? 何が食べたいんだ?」


「むうう、めんどくさい女扱いされてる気がする……」


「怒るな。子供はめんどくさいぐらいが丁度いいだろ」


 ……いや、本当に小学生と話してる気がしないな……別に嫌じゃない、むしろ話しやすいからいいんだけど。


「なら、お寿司、ラーメン、鰻が食べたい!」


「外国人が行きたがるベスト3みたいなチョイスだな……」


「外国人だもん。てへ、どれも食べたことがないから楽しみ♪」


「……うーん」


 まあ、こう楽しみにされると、期待に応えてあげたくなる。まあ、初めての飯でケチってもしょうがないな。

 何にしようか……。


   ◇◇◇


 政吉達が出かけて、数分後……。


「…………出かけた?」


 澪が伺うように部屋の扉を開けた。


「深夜に……こっそりシャワーは浴びたけど……どうしてもお風呂に入りたい。今がチャンスかなぁ……」


 おそるおそる部屋の外に出る。

 するとリビングの机の上に花音の書き置きがあった。


『冷蔵庫にカレーを入れてるから、温めて食べてね! 夜はお姉ちゃんが政吉さんに頼んだ通り、たこ焼き買ってくるから、早めに食べてね!」


「うぅぅ、できた妹だなぁ。お姉ちゃんがこんなんでごめんね……」


 ぶつぶつと謝罪の言葉を口にする。


「外か……引きこもって2年……今更無理だよね。うへへ……」


 澪は自傷的に笑うと、お風呂場に向かう。そして、鏡に映った自分の姿を見る。

 うん、髪のお化けだ……。


「……髪ぐらい切った方がいいのかなぁ……」


 政吉と住むようになって少し心情の変化があった……


「でも、外出たくないからいいや」


 のかもしれない……。


 

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