第2話 可愛い義妹とカレーパーティ

   ◇◇◇


 家について着替えなんかを済ませた10分後。

 俺は……。


「う、美味い……」


 食卓に並んだ俺の好きものフルコースを前にして、絶賛の声を上げていた。


 カレーは定番のチキンカレーだけではなく、やほうれん草のザクカレー、キーマカレーなんかもある。

 ナンとライスもあり、さらにはタンドリーチキンやサモサ、ビリヤーニーなどのインド料理もある。


「こ、これ、花音ちゃんが作ったのか?」


「はい! ふふっ、カレーや味付けはペーストを使ってズルしちゃったけど。こんなに喜んでくれるなら、1から作れるようになるね!」


 褒めて、褒めて! っと言った感じだ。尻尾があったら全力で振られているだろう。可愛いなぁ。


「そうだ、インドビールとか、ちょっといいスコッチ、シェリーなんかもあるよ?」


「まずはビールで……て、いうか、誰が用意してくれたんだ?」


 カレー関係のペーストも小学生が買うものじゃないと思うが……酒は法律的に買えんやろ……あの親父が俺の為に用意してくれたとは考えにくいし……支払いは親父かもだけど。   


 家はいい意味でも悪い意味でもハイパー放任主義だしな。

 金は払ってくれるし、別に互いに嫌っているわけではないので、いいのかもしれないが……。


「それはママがいっぱい送ってくれたの。政吉さんの好物もいっぱいあるよ! はい、冷えたビールとコップ! お注ぎしますね」


「ああ、ありがとう……」


 そう言いながら冷蔵庫をからビールを取り出し、コップに注いでぐれる花音ちゃん……

 俺は遠慮せずに一気にコップを煽る。

 喉奥で炭酸が弾け、疲れを洗い流してくれるようだった。


「かあああああああ!!! うめえ!!!」


「いい飲みっぷりだねぇ。私、政吉さんの飲みっぷり好きですよ」


 リップサービスをしながら、おかわりを注いでくれる。

 もう、小学生というか、キャバ嬢じゃん……。


「そうそう、ママから、伝言を預かってるんだけど……」


「ん? なんて?」


 正直……俺もう20代中盤だし、今更母親と呼ぶのは恥ずかしいんだけど……下手したら年齢もそんなに変わらない説もあるし……。


「えっと、『いきなりの結婚でごめんなさい。今は仕事が忙しいので落ち着いたら、ご挨拶させていただくわ』とのことです……ごめんなさい、ママ……仕事中毒で」


「いや、家の親父も同じようなものだから、そういうのに慣れてるからいいんだ……というか、似た者夫婦だな」


 まあ、本人たちがいいならいいと思うけど……花音ちゃんは寂しいかもなぁ。小学生だし……よし。


「なぁ、花音ちゃん。明日の予定は?」


「え? ……血の繋がっていない美少女小学生の予定を聞いてどうする気ですか?」


「やめろ! そう言われると犯罪臭がすげぇ!」


「ふふっ、冗談、冗談。政吉さん、慌てちゃって可愛い」


「……………」


 こいつをこのまま歳をとらせるのは危険じゃないか、10年後には泣かされる男が大勢出そうだ……今でも同級生を困惑させてそうだけど。


「で? 予定は?」


「うーん、1人で、荷ほどきをしようと思ってた。ちょっと、外に行きたい気もするけど……政吉さんは仕事で、お姉ちゃんは家から出なしい……1人で出歩くのはまだちょっと……」


「まあ、ここまでの美少女ならなぁ……1人では出歩かない方がいいかもなぁ」


「もう、政吉さんったらぁ。美少女だなんて、褒めても何も出ないよ?」


 すっと、棚の奥からスッと高そうなスコッチが出てきた……わかりやすいやつだ。


「まあ、明日は休みにしたから、俺がどっか連れて行ってやるよ」


「え……政吉さん、お仕事を休むという概念を持っている人なの?」


「……親父たちと一緒にするな。確かに社畜ではあるけど、『クレーン車で警察署に突っ込む』って言ったら、休みくれた。何なら、明日クレーン車乗るか?」


「……待って。家のマンションの駐車場にやたら大きなクレーン車があったけど……まさか、本当?」


「うん」


「会社を休むためにクレーン車をレンタルしたの? いくらかかったの?」


「まあ、それなりに。はっはっは」


 俺は笑顔ですっと視線を逸らす。


「……政吉さん、明日からもやし生活ね。私も付き合うから」


「なぜだ……」


 納得がいかない……俺は仕事を休むために全力を尽くそうとしただけなのに……。


「はぁ、まあお休みなのはいいね! 私、日本の街に行くの初めて! 連れてって!」


「え……?」


 日本の街に行くのが初めてって……もしかして帰国子女? だ、ダメだ、やはり情報が少なすぎだ……今日ちょっと話を聞いてみるか。


  ◇◇◇


 同時刻。

 栗宮澪は合い変わらず、パソコンのモニター向かいあっていた。

 時折リビングからは知らない男の声と花音の楽しそうな声が聞こえてきた。


「花音……よかった。楽しそうで……ふひひひ、それなら私は安心して引きこもっていても問題なさそうだね……でも、花音、直感的に変な人には警戒心強いのに……お兄さんがいい人だったのかな? ふひひひ、でも、これなら花音に『たまには外出なよ!』とか言われることも少なるかなぁ超ラッキー」


 澪はぶつぶと呟く。

 これからの面白可笑しい引きこもりライフを想像しながら……。

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